神様からの贈り物①
〝その日〟は、程なくして訪れた。
「あれ? ギンくんは? まだ台所にいるの?」
おやつの時間を迎え、いつものようにコンくんとともに居間に行くと、雨天様の姿しか見当たらなかった。
今日のおやつは、よもぎの生地であんこを包んだお饅頭で、朝に聞いていた通りの甘味は四人分並べられているのに、ここには私を入れて三人しかいない。
「え?」
直後に小さく声を漏らしたのは、コンくんだった。
驚いたような顔で私を見るコンくんに、なにかまずいことでも言ってしまったのかと一瞬だけ悩んだけれど……。
「ひかり。ギンなら、いつもの場所に座っておる」
雨天様は、すぐに私を見ながら微笑み、ごく普通に答えた。
「え? だって……」
そんなはずはない。
いつもギンくんが座っている場所に、ギンくんはいないのだから。
「あの――」
「ひかり、ギンのことが見えないのだな?」
だけど、そのあとすぐに現実を突きつけられた。
確かめるような声音の中には確信が込められていて、その質問が念のための確認であるのだと気づく。
現実をまだ言葉にできなくて、戸惑いを見せつつもなんとか小さく頷いた。
「ひかり様……」
「コン、これでよいのだ」
「……わかっております」
泣きそうな顔で私を呼んだコンくんに、雨天様が優しく諭すように微笑み、コンくんはか細い声で零した。
そのやり取りを見て、すべてを悟ってしまう。
「私……もうすぐ、みんなのことが見えなくなっちゃうんだね……」
「ああ、そうだ。だが、これが正しいのだ」
「……うん、わかってる」
必死に笑って頷いて強がって見せたけれど、喉と目の奥が熱を帯びていく。
いつか別れが来ることはわかっていたのに、こんなに突然なんだと思うと、心が追いつかない。
「恐らく、今夜にはもう見えなくなるだろうな」
「そっか……」
「なにも心配することはない。ギンの姿が見えなくとも、ギンの力は届く。コンとギンがきちんと送り届け、最後までひかりを守ってくれるから」
油断すれば、涙が溢れてしまいそうだった。
勝手にまだもう少し時間があると思っていて、もし時間がなかったとしても、いきなりあと数時間で別れのときが来るなんて思っていなかったから……。
寂しさと悲しみ、そしてほんの少しの安堵感。
ちゃんと自身のあるべき場所に戻れそうなことに確かに安心感は持っているのに、雨天様たちが見えなくなってしまうことへの不安の方がずっとずっと大きかった。
「今宵の甘味は、ひかりのために作ろう」
「それまで、ここにいられるのかな……」
「もしいられなかったとしても、ひかりの心が癒えたのならそれでよいのだよ」
雨天様が紡いだ答えに、思わず眉を下げてしまった。
私の心は、本当に癒えたのだろうか……。
確かに、ここで過ごした日々は驚きと戸惑いの連続で、それでいて毎日がとても楽しくて、悲しみに暮れている暇なんてなかった。
お客様たちがそれぞれに抱えていた心の傷に触れて、色々と考えることができたとも思う。
そのおかげで、おばあちゃんのことを思い出すときには、寂しさを抱いても悲しみを強く感じることは減っていったけれど……。心の傷が本当に癒えたのかと自身に問えば、しっかりと頷くことはできないような気がした。
「ひかり、心配することはない」
「でも……」
「私たちの姿が見えなくなるということは、そういうことなのだ」
「雨天様……」
不安を溶かすように、雨天様が優しく微笑んでいる。
その笑顔はとても好きだし、雨天様の言葉を信じることはできるのに、寂しさを上手く拭えない。
「少し庭に出ようか」
雨天様は柔和な笑みを浮かべたまま、私を促した。




