別れるその日まで④
「だから、おばあちゃんは雨が好きなんだって」
おじいちゃんと出会った日は、恵みの雨だったのかもしれない。
それを降らせていたのは、雨天様に決まっている。
そんな確信を持って雨天様を見ると、柔和な笑みを向けられていた。
「この力を持っていることを、心から嬉しいと思う日が来るとはな」
「え?」
喜びを噛みしめるように意味深に紡がれた言葉に目を見開く私に、雨天様はどこか申し訳なさそうに、そして自嘲も混じらせた笑みを浮かべた。
「雨を降らせる力が嫌というわけではないが、自分自身が嬉しいかと言えば今までは心底そうとも言えなかったような気がするのだ。だが、今日はとても幸福感を感じている」
意外に思えたけれど、一般的に雨を嫌う人は多い。
大抵の人は梅雨を疎ましがるし、その時期のワイドショーからは『洗濯物が乾かない』だの『ジメジメする』だの、ネガティブな声ばかり聞こえてくる。
そういうことを考えれば、いくらお客様の傷が癒えた証拠とはいっても、雨を降らせることを心底嬉しいと思わないことが普通なのかもしれない。
ただ、私はおばちゃんのおかげで、この件に関しては一般的じゃない。
「私はずっと、雨が好きだよ」
笑顔で零した言葉に、雨天様が顔を綻ばせた。
まるで、雨上がりの空に掛かる虹のように綺麗な表情は、幸せだと言っているようだった。
おばあちゃんとおじいちゃんの馴れ初めを始めて聞いたとき、私は『雨なんか大嫌い!』と駄々をこねていた。
そうなった理由はもう思い出せないけれど、泣く私におばあちゃんは自分の大切な思い出を語り、それを聞いた私は笑顔になった。
そのあとで、おばあちゃんが好きなものに対して大嫌いなんて言ってしまったことへの罪悪感が幼心に芽生え、すぐに『ごめんなさい』と謝った。
すると、おばあちゃんは嬉しそうに笑った。
『ひかりちゃんは、おばあちゃんの好きなものを知らなかっただけだもの。それなのに、こうして謝ってくれるなんて、ひかりちゃんはとても優しいのね』
そんな風に言ってくれたおばあちゃんのことを、もっと好きになった。
そして、そのときから私も雨が好きになった。
雨が大嫌いだったことは、雨天様には言わないでおこうと思う。
もしかしたら心を読まれているかもしれないけれど、だとしても言葉にする必要はないと思うから。
「ひかりはまるで、雨上がりに陽を浴びる雫のようだな。私は、あの輝きが好きなのだ」
不意に微笑みとともに与えられた言葉をどう受け取ればいいのかわからなくて、結局はなにも言えなかった。
だけど、心は確かに喜びを感じ、雨が上がった空を仰ぎながら素直な笑みが零れ落ちていた――。




