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金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷  作者: 河野美姫
お品書き 三 【栗羊羹】
36/68

神様たちと過ごす日々⑪

 この日食べた栗羊羹は、とてもおいしかった。

 これまでにここで食べたものは、甘味に限らずすべておいしかったから、最初からとても期待していたのだけれど、やっぱり想像以上の味だった。



 棒状の羊羹を切ると、断面には惜しげもないほどの栗がひしめき合っていて、その黄金色に目を見張った。ツヤツヤの羊羹は口に入れるとプルンと舌の上を滑り、小豆と栗の優しい甘さを感じさせながら溶けるように崩れた。

 栗は、しっかりとした存在感を放ちながらも、決して羊羹の邪魔はしない。

 ギンくんいわく、食感まで考え尽くされているらしく、思わず大切に噛みしめるように味わってしまった。



「このお茶と、また合うんだよねぇ」


「お茶はコンが淹れたのですよ!」



 栗羊羹ばかり褒めていた私が湯呑みを置くと、すかさずコンくんが満面の笑みになった。

 二百歳を過ぎていても、こういう可愛らしいところはやっぱり子どものように見える。



「あの……ここにいる間、私にもなにかさせてほしいんだけど」


「ふむ。まぁそれもよかろう。だが、おもてなしをさせるわけにはいかないから、家事程度のことしか任せられないが……」


「うん。じゃあ、私が家事をするよ」


「では、コンに色々と教えてもらうとよい。コン、よろしく頼むぞ」


「もちろんでございます!」



雨天様の言葉に、コンくんが大きく頷いた。






  ** *



 翌日から、私はコンくんに教えてもらいながら、お屋敷内の家事を手伝うことになった。

 広いお屋敷のほとんどの家事をひとりで任されているコンくんは、ベテラン主婦さながらの働きで次々と家事をこなしていく。



 私がお風呂掃除を終える頃には、コンくんはトイレや客間を始め、各々の部屋の掃除まで済ませてしまっていた。

 せめて居間の掃除くらいは私がひとりでしようと思ったのに、結局はコンくんが手伝ってくれ、そのまま玄関や門の周辺の掃除もふたりですることになった。



「あんまり役に立てなくて、ごめんね」


「そんなことはございません。ひかり様のおかげで、コンはとても助かりました」


「でも、結局私がひとりでやったのって、お風呂掃除だけだよ」


「はい。でも、コンはとても嬉しかったのです」



 言葉以上に嬉しそうに見える顔が、私に向けられる。

 なにがそんなに喜んでもらえたのかわからずにいると、コンくんがほんの少しだけ眉を下げた。



「コンが猪俣様のところへ行ったりお掃除をしたりしている間、いつも雨天様とギンは仕込みをしております。コンは自分自身のお役目を果たすことに誇りを持っておりますが、雨天様と作業ができるギンとは違い、コンはいつもだいたいひとりだったので、今日はひかり様と一緒にお掃除ができてとても嬉しかったのです」



 少しだけ照れたような表情で語られた、可愛い本音。

 たいして役に立てなかった私のことをそんな風に思ってもらえて、意図せずにくすぐったいような気持ちが込み上げ、笑顔にならずにはいられなかった。



「そんな風に言ってもらえて、私もすごく嬉しいよ。でも、本当に全然役に立てなかったけどね」


「いいのです。こうしてお話ができるだけでも、コンは嬉しいですから」



 コンくんは、どこか照れ臭そうに石畳と石畳の間をピョンと飛んだ。

 私もコンくんの真似をするように、小さく飛ぶように跨いでみる。



「そういえば、今日は雨が降ってないね」


「ああ、まだお話していませんでしたね。雨が降っていないのは、昨夜はお客様がいらっしゃらなかったからです」


「え? そうなの?」


「ええ。お客様の心の傷が癒えると、それが翌日の雨になることは、雨天様からお聞きになられたのですよね?」


「うん。あ、そっか。じゃあ……」


「はい。お客様がいらっしゃらなかった翌日は、雨が降りません」



 理由を察した私に、コンくんがニッコリと微笑む。



「基本的には毎日お迎えできるように準備をしておりますが、傷ついた者が毎日ひがし茶屋街にやって来るとは限りませんし、この辺りに来ていたとしても深いゆかりがない場合もございます。それに、ゆかりがあっても私の声が届かない場合などもあるのです」


「そうなると、昨日みたいにお客様が来なくて、今日は雨が降らないってことなんだ」



 コンくんは頷き、手にしていたほうきやちりとりを納屋に片付けた。



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