神様たちと過ごす日々③
「雨天様のお部屋は、一番奥のこちらです。雨天様がいらっしゃらないので中はお見せできませんが、雨天様のお部屋以外であれば屋敷内は自由に行き来していただいても構いません」
「お屋敷内だけなの?」
「お庭もあとでご案内するように言われるとは思いますが、屋敷内とは比べ物にならないほどに広く、迷えば自力では戻れなくなります」
「わ、わかった……」
穏やかじゃない話に喉をゴクリと鳴らしてしまうと、コンくんがニッコリと笑った。
そのまま私を見上げ、「大丈夫ですよ」と優しく言ってくれた。
「お家にお帰りになりたいとき同様、お庭にご用があればお供いたします。それ以外にもなにかお困りのときなどは、遠慮なくコンとギンをお呼びくださいませ」
「えっと、部屋に声を掛けに行ってもいいってこと?」
「それはもちろんでございますが、お互いがこの屋敷にいるときであればその場で名前を呼んでいただくだけで構いません。我々には、ひかり様のお声が聞こえますから」
神様や神使がなんでもできるわけじゃないというのはわかっているけれど、なんだかんだで便利そうだなとは思う。
頷きながらそんなことを考えていると、コンくんが「次の予定をこなしましょう」と口にした。
小首を傾げた私は、家に荷物を取りに行くことを告げられ、急いで最低限の身支度だけを整えた。
そして、今夜のお客様を迎えるために下拵えをしている雨天様とギンくんに声を掛け、コンくんと一緒にお屋敷を出た。
コンくんは意外にも、着物ではなくTシャツとズボンに着替えていた。
着物姿の子どもは目立つから、という理由であることを、バスを降りてから教えてくれた。
「人間の姿だと子どもにしか見えないので、着物で行動しているとどうしても目立ってしまうのです」
観光地だけあって浴衣を着ている観光客はわりと多いけれど、確かに和装の子どもなんて目立つに決まっている。
その上、こんな口調の子どもが買い出しに来れば、〝普通じゃない〟と思う人もいるかもしれない。
「買い出しのときには人の目にも映るようにいたしますが、我々はあまり目立ってはいけません。本来は、人と長く話すことも避ける方がよいのです」
「それってやっぱり、神様や神使だから?」
「そうとも言えますし、そうじゃないとも言えます」
「どういう意味?」
「本来、神様や神使というのはあちこちにいるものなのです。普段は見ようとはしないし、見えるとも思わないので、見ることができないだけなのです」
「じゃあ、見たいと思えば見えるってこと?」
「残念ながら、そういうわけでもありません。見るということに関して言えば、まぁチラリと視界の端に映る程度のことであればわりと誰でも経験したことがあるかもしれませんが……。そもそも、その姿を神様や神使だと思うことがないのです」
コンくんは、なんでも教えてくれるのだろうか。
さっきから全部答えてくれているのはありがたいけれど、こんなにも訊いてしまってもいいのかと心配になる。
「どうかされましたか?」
「あ、えっと……こんなに色々訊いてるけどいいのかな、って」
「大丈夫です。答えられないことは言いませんから」
子どもの姿をしていても、コンくんはやっぱり二百年も生きているというだけある。
ごく普通にニコニコと笑って、私の戸惑いを当たり前のように跳ねのけた。
「さきほどの話に戻しますが、人はそもそも、大半の者が歳を重ねるごとに目に見えないものを信じなくなります。神使が言うのもおかしな話ですが、神様や神使、妖精や妖などの類もそうですね」
そういえば、幼い頃は神様も魔法も信じていた。
オバケは苦手だったけれど、妖精やサンタクロースと同じように、根拠もなく〝いる〟と思っていた。
神様に至っては、雨天様と出会う前であっても、ときどき都合よくお願いしたりもした。
普段は特に信仰深いわけでもお参りに行くわけでもないのに、ここぞというときに〝神頼み〟をした覚えは何度かある。
「ですから、見ようと思っても潜在意識では〝いないもの〟という気持ちがありますので、見えないことがほとんどなのですよ。こちらとしては、神様や神使といってもなんでも屋ではありませんので、都合よく自身の欲望のために会いたいとか見たいと思われても困るのですが……」
痛いところを突かれたような気がして、苦笑いしかできない。だけど、ちょうどおばあちゃん家の前に着いたから、流れでこの話は終わった。




