神様たちと過ごす日々①
どこからともなく漂ってくる、出汁の匂い。
鼻先をくすぐるそれは、どこか温かくて懐かしく、おばあちゃんのお味噌汁を思い出した。
おばちゃんのお味噌汁はいつも、とても優しい味がした。
丁寧に出汁を取り、自家製の味噌で味付けされていて、たとえば具材がなくても何杯も飲みたくなるくらい好きだった。
(また、飲みたいな……)
そんなことをぼんやりと考えながら瞼を開けた先にあったのは、見知らぬ天井。自分がどこにいるのかわからなくて慌てて体を起こした直後、昨夜のことを思い出した。
(あ、そっか……。雨天様のお屋敷でお世話になることにしたんだった)
壁にかけられた古時計が差している時刻は、七時四十分。
朝食は八時だと聞いていたから、ひとまずコンくんが用意してくれた朝顔が描かれた浴衣を整え、髪を軽く手櫛で梳いてから部屋を出た。
廊下はしんとしていて、一瞬誰の気配もないような気がしたけれど……。すぐに出汁の匂いが強くなったことに気づき、どこか安堵感にも似たものを感じていた。
私が借りた二十畳ほどの部屋と客間の中間に台所があることは、昨夜コンくんから教えてもらった。
すりガラスの扉が閉まっていたから台所の中までは確認できなかったものの、いい香りのもとを辿るように足を進めていく。
「……おはようございます」
「ああ、ひかり。おはよう」
「ひかり様、おはようございます」
台所の扉をそっと開けてみると、朝食の支度をしているらしい雨天様とギンくんが笑顔で迎えてくれた。
雨天様に「よく眠れたか?」と尋ねられ、笑みを浮かべて頷く。
「ちょうどよい頃合いだ。そろそろ朝食ができるから、コンに声をかけさせようと思っていたところだったのだ」
「あ、ごめんなさい」
よく考えれば、朝食の時間に客間に行くのは図々しいことだ。
客人扱いをしてもらえているとはいっても、私はここでお世話になる身なんだから。
「なにか手伝います」
「構わぬ、もう出来上がる頃だ。先に客間に行きなさい」
私の申し出は呆気なく断られてしまい、その気になった心だけが置いてきぼりにされてしまうような気持ちになった。
そのせいですぐに頷けなかった私に、雨天様がふっと瞳を緩めた。
「では、そこの土鍋を持っていってくれ。熱いから、鍋掴みを使いなさい」
土鍋の傍にはしゃもじが置いてあり、どうやらそれでご飯を炊いたようだった。
「土鍋でご飯を炊いたの?」
「ここには、炊飯器なんて便利な物はありませぬ。でも、味は格別ですよ」
私の疑問の先まで読み取ってくれたギンくんが、ニッコリと笑った。
コンくんとギンくんは、性格はあまり似ていないような気がするけれど、外見は双子だけあってそっくりで、特に笑顔は一瞬見分けられなくなりそうなほど瓜ふたつだった。
「それをお持ちいただければ、客間で支度をしているコンが説明すると思います」
出汁の香りが充満している中、土鍋の傍に立つと炊きたてのご飯特有の匂いがした。
お腹が刺激され、今にも鳴ってしまいそう。
そういえば、おばあちゃんもときどき、土鍋を使ってご飯を炊いてくれたことがあった。確かに、ああいうときのご飯はいつも以上においしかったような記憶がある。
「私たちもすぐに行くから頼む」
「うん」
雨天様の言葉に、子どものお使いよろしく張り切った。
とはいえ、ただ土鍋を運ぶだけだから、その意気のやり場がないことにこのあとすぐに気づくのだけれど。
「あっ! ひかり様、おはようございます。配膳など、私がいたしますのに……」
その上、客間に行くとコンくんからは、慌てて制されてしまい、苦笑するしかなかった。




