表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/100

第99話 ネガティブ勇者、さようなら



 城に戻り、皆は倒れるように眠りについた。

 今日はさすがに疲れたと言ってリオとテオも城へ泊り、客室で寝ている。


 国王は無事に戻ってきた息子の顔を見て、とても誇らしげな笑みを浮かべていた。



――



 ナイは夢を見た。今までとは違う、白くて優しい温もりに包まれたものだった。

 誰かの声がする。

 初めてこの世界に来たときに聞いたものだ。


『ありがとうございます。勇者よ』


 時空(とき)の大精霊。ナイを選び、この世界に呼んだもの。

 最初の勇者を呼んだ王子が作り出した召喚魔法。


『ようやく、私もこの役目を終えられる。全てが、忌まわしい悪夢が、ようやく終わるのです』


 勇者を呼びだす儀式。それすらも、この世界が何千年も繰り返してきた呪いに組み込まれたもの。

 悲しみだけの、救いのない物語。

 それも、やっと終幕の時を迎える。


 ナイは目に見えぬ精霊に、頭を下げた。


「ありがとう。僕を、この世界に呼んでくれて」

『……あなたは、救われましたか?』

「はい。この世界に来て、僕は初めて笑うことが出来た。未来を、明日を、夢みることが出来る。それは、とても、素敵なこと、だよ」

『そうですか。なら、きっと、彼の想いも成就されたことでしょう』


 精霊は光の中に消えていった。

 彼女が託された思いが、消えていく。


 ナイはただ、彼女に、そして彼らに感謝した。

 どうか。幼い無垢なる魂に、安らかな眠りを。




「……う、ん」


 ナイは目を覚まし、自身の瞳から零れ落ちた涙を袖で拭った。

 この世界での役目を終えた。もう勇者でも魔王でもない。ただ一人の人間として、これからを生きる。


「……まずは、何をしようか」


 ナイは窓から差し込む朝日を見て、いつも通りの日常へと戻る。


 当たり前の、日々に。


「起きてるか」


 ドアがノックされ、いつものように朝食のワゴンを持ってアインが部屋へと来た。

 いつも通り。何も変わらない毎日が始まる。


「おはよう、アイン」

「おはよう。顔色は悪くないな」

「うん。まだちょっと、ボーっとするけど……平気」

「そうか。すぐにレインズ様も来る。これから先のことで話があるそうだ」

「わかった」


 ナイは頷き、テーブルの席に着いた。

 ほんの少し、いつもと違うことがあるとしたらこの気持ちだろうか。

 ふわふわと浮き立つような、こそばゆい感情。


「お前は、これからどうしたい?」

「え?」

「お前にだって、これから先やりたいことだってあるだろ」

「…………うん。そう、だね。僕、この城を出て、街で暮らしたい」

「街に?」

「元々、この世界に来たばかりのときにも思っていたんだ。勇者としての役目を終えたら、小さな家とかで平々凡々と暮らしたいなって」

「……そうか」

「うん」


 ナイは両手を擦り合わせ、その先の言葉を必死で手繰り寄せた。どこ言葉を言えばいいのか、どう伝えればいいのか。

 伝えて良い言葉は何なのか。

 ナイが悩んでいると、アインが小さく息を零した。


「だったら、俺はセイロッジ通りがいいな。あの辺は静かだし、少し歩けば店も多い。確か空き家もあったはずだ。城からもさほど離れていないから俺も通いやすいし」

「え?」

「なんだ、その顔は。まさか一人で住むつもりなのか」

「…………一緒に、来てくれるの?」

「当たり前だろ。俺はお前から離れないと約束したんだ。それとも、一人で暮らしたかったのか?」

「……ううん。ううん、一緒がいい」

「だったら決まりだ」


 アインはナイの手を取って、両手で包み込んだ。


「俺は、これから先もずっと、お前と共に生きたい」

「……うん」

「ちゃんと意味分かってるか?」

「…………っ、うん」

「好きだ、ナイ。お前を、愛してる」

「っ、うん。うん、うん……僕も、アインが好きだよ……」


 ナイはアインに抱き着き、ポロポロと涙を零した。

 暖かい。優しい灯火が、心に温もりをくれる。


 二人は抱き合いながら、互いの想いを確かめ合う。

 守りたい想い。

 護りたい人。


 勇者じゃなくても、守ることは出来る。

 相手を思う心だけ、あればいい。

 この世界にはもう、勇者なんて必要ない。


 さようなら、勇者。

 おやすみなさい、異世界の少年達。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ