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第82話 ネガティブ勇者、愛されることを知る



 国王への報告を済ませ、今後の話は明日しようとテオが言って今日はもう解散となった。

 テオを見送った後、ナイは自室ではなくレインズの部屋へと向かった。


「レイ。いま、いいかな」


 ドアをノックすると、中からドタバタと音がした。予期せぬ訪問者に驚いたのか、ドアを開けて出てきたレインズはかなり驚いた顔をしていた。


「ナ、ナイ。どうかしたんですか?」

「どう、っていうか……話、したいなって……」


 確かにナイから人の部屋を訪れるのは珍しい。

 だが魔王城に、勇者としての役目を果たしに行かなくてはいけない。

 その前に心を落ち着けたかった。


「とにかく、中に入ってください。あ、いや、違うか」

「え?」

「今は、二人きりだったね」

「……うん」


 約束を覚えてくれていた。崩した口調になったレインズに、ナイはふわりと笑みを浮かべた。

 相変わらず散らかった部屋。ナイはベッドの端に腰を下ろし、「ふう」と息を吐いた。


「それで、話って?」

「……うん。その、ちゃんと言っておかなきゃって、思って……」

「うん?」

「ありがとうって。レイが一緒に戦ってくれるの、安心する……勇者の証である宝剣がレイで、今は凄く納得してる」

「どうして?」

「……僕を、勇者にしてくれるのは、そう信じてくれるレイたちの言葉だから……」

「ナイ……」


 いつだって自信なんかない。

 多分、自分から自身を持つことはないのかもしれない。そんなナイに力をくれるのは、暗闇から救い出してくれるレインズやアインたちだ。

 彼らの言葉がナイに勇気をくれる。一歩前に進むための力をくれる。

 この世界に来なければ、手に入れることのなかった感情だ。


「いつだって僕は、ウジウジ悩んで、自分を追い込むことばかりしちゃうけど……そういうとき、レイが助けてくれるから、今の僕はここにいる。最初の頃に比べれば、だいぶ前向きになった方だとは思う」

「そうだね。最近のナイは笑うことが増えた。私は、そんな君を見るのが好きだよ」


 そう言って、レインズはナイの頭を撫でた。

 冷たい印象を受ける真っ黒な髪。触れると柔らかくて、温かくて、もっと撫でていたくなる。まるで黒猫を可愛がっているような感覚だ。

 ナイも少し恥ずかしそうにしながらも、撫でてくれているレインズの手を受け入れてる。


「……ああ、そうか」

「レイ?」

「うん。私は、君が好きだよ」

「え?」


 レインズは頭を撫でていた手を滑らせ、ナイの頬に触れた。

 ずっと名前を付けることをさせていた感情。その心に、もう知らんふりは出来ない。一度言葉にしてしまったら、もう引き返せない。


「きっと、貴方はそれを望まないだろうけど……私は、ナイが好きだ。勇者としてではなく、貴方自身を慕っている」

「…………っ」

「別に、私の気持ちに応えてほしいとは思っていない。ただ、知ってほしい。ナイを愛する者がいることを」

「……僕、は」


 言葉が出ない。

 ナイは一度だってそんな風に言われたことなかった。ずっと要らないと言われ続けていた。

 そんな自分を、彼は好きだという。

 嬉しいという気持ちと、それとは異なる気持ちが胸の中でグルグルと渦巻いてる。


 だって彼は、ナイの心の奥の闇を知らない。

 真っ白で美しい彼は、ドロドロに汚れ切ったナイの心を見ていない。


 それを知っても、彼は同じことを言うのだろうか。


「…………僕、いまは、何て言っていいか、分からない……」

「いいんだ。答えが欲しくて言ったわけじゃない。それに、私は魔王との戦いが終わったら……隣国の姫君と婚約をする」

「………………こん、やく?」

「ああ。前々から決まっていたことだ。そうなることが当たり前だと思っていたから何とも思わなかったが……誰かを愛する気持ちを知れて良かった」

「レイ……その、僕は、素直にレイの気持ちを受け止められないけど……初めてそういう風に言ってもらえたことは、う、嬉しいと、思ってる」

「……ありがとう、ナイ。私も君に会えて嬉しいよ。だから必ず魔王に勝ち、この先も貴方にはこの国で生きていてほしい」

「っ、うん……」


 ナイは泣き出しそうになるのを堪えながら、返事をした。


 どうしようもないくらい眩しい光。

 目の前の温かい輝きに心を奪われ、ナイは気付けなかった。


 光が強いほど、闇も色濃くなることに。




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