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第76話 ネガティブ勇者、マグマに飛び込む



 絨毯に乗って移動すること数時間。

 ナイの魔力消費も少なく、回復を待つ必要もなさそうだと判断した。


「火山の中に入ったら休憩は出来ない。大丈夫なのか」

「うん。意外と平気」

「ですが無理だけはなさらないでくださいね。ナイほど強い結界は無理ですが、私も結界は張れますから」

「うん」


 火山の手前まで着き、地面に着地した。

 まだ溶岩地帯でもないのにかなり熱い。ナイは急いで結界を張って熱を遮断する。

 結界を張る特訓中にテオから気配や魔力まで遮断すると精霊の居場所がわからなくなると言われたので、外部の熱のみを遮るようにしてある。

 訓練の成果はあったようで、周りの気配はちゃんと分かるようになっている。上手く結界を張れて、ナイはホッとした。


「それじゃあ、進もう、か?」

「ええ。ナイは結界の維持に集中してくださいね。敵が出たら私達で対処します」

「う、うん。結界の中からも攻撃が届くように調整するから」

「何かあったら直ぐに立ち止まれよ。無理して進むな」

「うん」


 三人は固まって移動を始めた。


 周囲は火山から溢れ出した溶岩が固まり、ゴツゴツの足場を作っている。

 ここも飛んでいけた方が楽かもしれないが、残念ながら進む先は火山の中。強い力を感じるのは、やはり地下だ。

 この世界の精霊は地下を好むのか。ナイは出来れば分かりやすい場所に居てくれたらいいのにと思った。


「あの山の中に入れる場所があるのか?」

「どこかに入口がある、と、思う……あの辺、かな。空気の流れがある」

「それじゃあ、行きましょうか」


 足元に気を付けながら進んでいく。

 火山の麓から小さく開いた穴から内部へと入る。中に入った瞬間に一気に景色は変わり、周囲は一面赤く染まる。

 狭い足場に、ドロドロと流れる溶岩。結界で遮断しているから温度は感じない。それでも視界からの情報だけで肌に薄っすらと汗が伝う。

 少しでも心を乱せば、一気にこの体は燃えるだろう。ナイは深呼吸をして心を落ち着けた。


「ナイ、大丈夫ですか?」

「うん。僕から離れないでね」


 二人は頷き、ナイの隣を歩く。

 どこかから地下に降りられる道を探さないといけない。

 道のある場所を進み、手あたり次第探索していくしかない。正直マトモな道があるとは思えないが、それでもきっとあるはず。間違いなくここに精霊はいる。そして砂漠にいた精霊は言った。自分は勇者を導く手だと。だとすれば、必ず辿り着くための道はある。

 あの時の、精霊の泉への道はナイの魔力に反応して現れた。だったら今回も同じように精霊への居場所へ続く道があるのなら、ナイの力に反応するはず。


 道中襲い掛かる敵を倒し、ひたすら進む。

 だが鉱山や砂漠の時以上に、ここは人が歩くための道が少なすぎる。人が歩くために作られた場所ではないのだから当然なのだが。


「結構進みましたが、それらしい道はないですね……」

「うん……強い力は感じるんだけど、ハッキリとした場所までは断定できなくて……」

「このマグマのせいかもしれないな。これは今まで以上に苦戦しそうだ……」


 どこを進んでも行き止まり。

 マグマだらけのこのダンジョンを攻略するにはまだ早かったのだろうか。ナイは足を止めて周囲を見渡した。

 まだ行ってない場所。未探索の場所はないのだろうか。

 ナイは集中して察知する。しかし結界も維持しながらでは集中力も欠けてしまう。


「……ナイは周辺の察知に集中してください」

「結界の方は俺が維持する。長くは持たないから、早くやれよ」

「私はナイのサポートをします。一気に全体を調べますよ」

「レイ……アイン……」


 アインがナイの結界を維持するために肩に手を置き、術式を読み解いてそこに魔力を注ぎ込む。

 レインズはナイの手を握り、以前にもやったように魔力を同調させた。

 これなら一つのことに集中できる。ナイは二人に「ありがとう」と一言伝えて、レインズと共に火山内を一気に調べ上げた。


 ナイの魔力とレインズの精密な操作。この二つが合わさり、探知能力は格段に上がっている。

 魔力の一番強いところ。最も清らかな力で溢れている場所。その一点だけを見つけ出せばいい。


「………………あった!」


 察知能力に引っかかり、ナイは声を上げてその場所に視線を向けた。

 マグマの中心。ボコボコと湧き出ている、その場所。


「マジかよ……」

「予想外、でした……」

「け、結界ってマグマの中も入れるもの?」

「ナイの魔力ならいけるかもしれませんが……マグマは魔力を吸い取るとも言われています。あまり時間はかけない方が良いでしょうね」

「それなら、俺がマグマを切り裂いて道を作ります。元に戻る前に一気に走り抜けて、そのマグマが湧いている場所に突っ込む。少しでもマグマにいる時間を短縮するにはそれしかないだろ」


 アインがナイを見た。

 危険だし、下手したら死ぬかもしれない。ナイには自動防御(オートガード)があるからもしかしたら平気かもしれないが、二人はそうもいかない。

 しかし、ここで迷う訳にはいかない。迷えば結界も揺らぐ。


「わかった。行こう」


 ナイが頷くと、二人も頷き返した。

 ぶっつけ本番。練習も引き返すことも出来ない。


 アインは深く深呼吸をして、魔法で剣を生成する。

 ゆっくりと頭の中をクリアにする。雑念を捨て、やるべきことをイメージする。まずは刀身に魔力を込める。そしてマグマを切り裂き、一時的に動きを止める。

 何度も繰り返しイメージし、魔法陣を展開した。ここを失敗する訳にはいかない。


「…………っはあああぁああぁあ!」


 アインは真っ赤に光る剣を、力いっぱい振り下ろした。

 刀身から放たれた魔力波がマグマを裂き、真っ直ぐ道を作り出す。

 レインズはナイの手を掴んで、一気に走り出す。アインもその後ろを追った。


 そして切り裂かれたマグマの中心。地下から湧き上がっているその穴に、三人は飛び込んだ。


「ナイは結界の維持に集中してください!」

「俺らの魔力も全部使え!」


 二人に抱きしめられながら、ナイはギュッと硬く目を閉じてレインズとアインを守ることだけに集中した。




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