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第75話 ネガティブ勇者、夢のある話をする



 新しい移動手段を手に入れたナイ達は、転送魔法陣を使って南の大陸にあるブロードエッド国へと移動した。

 この国の魔法陣は役所の入口に設置されている。以前ロデルニア国に来た時のように転移魔法陣を管理する役所の所員にレインズが軽く話をして、そのまま国を出た。


 ブロードエッド国を出ると、周囲は岩山で覆われていた。地面も砂利道が続いていて、長時間歩くのには向かなそうだ。


「空飛ぶ方法を考えておいてよかった……」


 ナイは魔法陣を展開し、空飛ぶ絨毯を作り出した。

 砂漠地帯と違って魔力が乱させることもない。これなら長時間でも問題なさそうだとナイは安心する。


「えっと、この上に乗ればいいんですよね……」

「レ、レインズ様。大丈夫ですか」


 未知なる乗り物にビクビクする二人の様子が何だかおかしくて、ナイは口元を手で隠しながらクスクスと笑った。

 馬車に乗る時のようにアインに支えられながらレインズが乗り込む。思っていた感覚と違ったのか、小さな声で「おお……」と口にした。続けて乗ったアインは顔が少し強ばっていた。


「じゃあ、飛ぶよ。道だけ教えてほしい」

「とりあえず、あの大きな山の方に向かって飛んでくれ」


 アインが指をさした方向を確認し、ナイは絨毯を魔力で操作して空高く飛ばした。

 ドラゴンの速度には劣るが、人が走るよりか何倍も速い。

 一気に周囲の山より高く上昇し、目的の方向へと飛んでいく。


「凄いですね。こんな乗り物は初めてです」

「僕も本当に出来るとは思わなかったよ。昔、本で読んだものを現実にできるなんて……」

「そういえば、物語がどうとか言ってたな」

「うん。絵本で、見たんだ。漫画とかアニメでも魔法の絨毯はよく出てくるみたい」

「ナイの世界には面白いものが沢山あるのですね」

「空想のもの、だけどね……実際に飛ぶのは飛行機とか、ヘリとか……この世界にはない、科学の乗り物だよ」


 ナイは鉄で出来た乗り物の話をした。

 飛行機だけではない。車や電車など地面を走行するもの。水の中を走る船や潜水艦。さらには雲よりずっと上にある宇宙へ行く乗り物。

 魔法なら使う物のイメージや魔力次第で色んなことが再現できそうだが、残念ながらナイはそういう乗り物に疎いので術式を組み上げるのが困難だろう。それだったら最初から空想だと分かり切ったものの方が自分のイメージだけで構築できる。

 おまけにこれは魔法の絨毯。文字通り、魔法で出来たもの。最初から魔法で飛ぶものだとナイがそう理解しているものだからすぐに術式を組めたのだ。


「異世界は本当に凄いですね。空の上に行こうとするなんて、私には思いつきませんよ」

「そりゃそうですよ。そんなことする理由がないです」

「でもアイン、理由がなくても夢がある。そこに何があるのか、確かめたいという好奇心や探究心。私はナイの世界の科学者達の気持ちが分かる気がする」


 レインズは空を仰ぎ、太陽の眩しさに目を細めた。

 そもそもこの世界には地球のように宇宙空間が存在するのかも分からない。

 だがそれは、ナイの世界の昔の人たちも同じだったのだろう。知らないからこそ知りたい。そういう気持ちが様々なものを生み出した。

 異なる世界でも、そう思う人はいる。

 むしろ、魔法という空想を現実にできる力があるこの世界なら、夢も無限大になるかもしれない。

 ナイは次は箒に乗るのも悪くないかなと少しだけ思った。




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