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第64話 ネガティブ勇者、今の思い。



 夜になり、集落に戻ったナイ達は各々が疲れを癒すべく部屋で休んだ。

 テオとリオは話があるとかで、二人でリオの自室へ。

 レインズとアインは先に宿へ。


 ナイは集落の中心にある広場で小さなベンチに腰を掛けて星を眺めていた。


 精霊の言葉がずっと頭を離れない。

 この世界における勇者と魔王という存在は、自分が想像するものとは違うのだろうか。

 そもそも、ナイの世界には存在しない架空の役職。解釈が違っていてもおかしくはない。


 失うものがないから勇者になれる。

 護るものは戦えないかもしれない。

 ナイは元の世界に戻りたくないから、この世界で生きていきたいから戦う。

 自分のために戦うのは、駄目なのだろうか。


 それに、選択を迫られるという言葉。

 勇者が悲しい存在であるということ。


 もしかして、今まで召喚された勇者たちもナイと同じように元の世界で辛い経験をしていたのかもしれない。

 勇者の記録はほとんど残されていないので確認するすべはない。精霊の言葉の意味を間違えて捉えてる可能性だってある。

 でも、ナイにはそういう風にしか思えなかった。

 過去を捨てたい。もう何も失うものがない、大切に思う人も心もない。だからこそ、元の世界から消えても問題がない。この世界で死に絶えても誰も悲しまない。

 勇者とは、そういう使い捨ての存在なのかもしれない。


 そんな恐ろしい答えを、導き出してしまった。


「……エグい、なぁ」


 思ったより、そんな答えが出たことに驚きはしても悲しくはならなかった。

 ナイは、この世界で生きることを選びはした。もし戦いの果てに命が途絶えたとしても悲しみはしないだろうと思ってる。

 それはこの世界に召喚された当初からずっと思い続けてる事だから。

 前を向きたい。変わりたいとは思っている。

 過去に囚われて生きるのはもう嫌だと。


 全ては自分のため。

 この世界で使い捨てにされたとしても、それはそれで良いと思ってる。

 失うものがないから勇者になれるなら、これからもそのままでいい。

 自分が消えて悲しむ人なんて、いなくていい。

 捨て身でいけるなら、自分自身も悲しい気持ちを抱くことはない。


 だから今、自分が望むことを全力でやろう。

 未練を残さないように。


 ナイは星空に向かって手を伸ばした。


「何をしてるんだ」


 声がした方へと向くと、そこにはアインがいた。

 砂漠探索で疲れたのか、表情が少し暗いように見えた。


「どう、したの?」

「こっちの台詞だ。いつまで経っても部屋に戻ってこないから何をしてるのかと思えば……」

「ごめん。星、見てた」


 ナイが正直にそう言うと、アインは呆れたようにため息を吐いて隣に座った。


「お前、星見るの好きなのか?」

「……好き、というか……なんか、落ち着く、のかな」

「ふぅん。まぁ、分からなくもないな」

「うん……レイは?」

「レインズ様ならもうお休みになられた。相当魔力を消費されていたからな」


 やっぱり無茶していたのかと、ナイは顔を伏せた。

 精霊の張った結界の中で自分のために動いてくれたレインズ。顔に出さないせいで分からなかったが、そのダメージはかなりのものだったのだろう。


「……ごめん、僕の、せいで」

「お前のせいだとは思っていない。レインズ様はご自身の意思で動かれたのだ。だから謝るな」

「……うん」

「お前の方は平気なのか」

「僕は大丈夫。アインは?」

「俺も平気だ。明日の朝にはここを離れるぞ。お前も早く休めよ」

「うん。あのか、アイン」

「なんだ?」

「アインは、精霊の言葉……どう、思った? 選択が、どうとか……」


 アインは顎に手を当てて少し悩んだ。

 勇者に迫られる選択。あまり考えたくもないが、それは世界を救うか救わないかという選択ではないかとアインは思う。


「護るものもがあるかどうかで、お前がこの世界を救うか否かが決まる。最終的な世界の命運がお前に委ねられるということなのかもしれないな」

「……僕が、決める、の?」

「あくまで俺の考えだ。その真相は分からない」

「……う、うん」

「お前は、こんな身勝手な我々を護りたいと思うか?」

「え……」


 アインは空を見上げたままナイに問い掛けた。

 ナイも同じように空を仰ぐ。

 護りたいかどうか。分からない。

 護りたいと願った時点で、それは何かを手にするということになるのではないか。

 この手に何かを掴んでしまったら、失うものが出来てしまう。

 それはもう、勇者ではないのだろうか。


「……分からない」

「そうか」

「でも、ここで知り合った人たちがいなくなったら、悲しいとは、思うよ」

「……ああ」


 ナイの言葉に、アインはほんの少しだけ表情を柔らかくした。

 人に対してそういう気持ちを抱けるようになったのは、彼が成長している証だろう。


 そう思うと、胸が暖かくなる。




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