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第63話 ネガティブ勇者、世界の謎に触れる



 精霊の涙がナイの手に渡り、精霊は泉へと体を戻す。

 緊張感から解放されたナイは、ホッと息を吐き出した。


「ちょっとレインズ、大丈夫?」

「はい、問題ないですよ」


 心配そうに駆け寄ってきたテオに、ナイは首を傾げた。


「ナイは気付いてなかったみたいだけど、あの精霊がナイに近付いた瞬間に空気が凍り付いたのよ。ちょっとでも動けば氷の刃が肌に突き刺さりそうなほど空気が痛かったんだから」

「え……」


 あの時、そんなことが起きていたなんて気づかなかった。

 じゃあレインズはどうやって来たというのだ。見たところ外傷はないし、本人も平気そうな顔をしている。


「レ、レイは、平気なの?」

「平気ですよ。精霊様が魔法を解いたら痛みも消えましたし」


 レインズがいつもの笑顔を浮かべると、精霊が呆れたように溜息を吐いた。


「無茶するわね、いまの王子様は。あれはあくまで私の固有結界。冷気も痛みも幻覚だけど、下手したら死ぬわよ?」

「私は死にませんよ」

「あら、凄い自信ね」


 笑顔を浮かべる二人の間に何か電撃が走ったような気がしたが、ナイは深く考えないことにした。

 そんなことよりも、そんな無理をしてまでレインズは自分の元に駆け寄ってきたことに驚きを隠せない。

 なぜそんな無茶をする必要があったのか。ナイはあのときの自分の状況を振り返る。

 確かに精霊の投げ掛けた言葉はナイは酷く動揺していた。そのとき、どんな顔をしていたのか本人には分からない。

 そんな無理を通してまで駆けつけなければならないほどの顔をしていたのだろうか。ナイは自分の頬にそっと触れた。


「ダナンエディアの子がこんなに温厚なんて、ちょっと意外ね」

「それは、どういう意味ですか?」

「私、これでも長生きなのよ。先代、先々代の勇者のことも知ってる。そして、その勇者を召喚した王子様も」


 精霊はナイとレインズ、交互に見比べた。

 彼女が今何を思っているのか、その表情からは読み取れない。


「……こんな優しい子に育てて、どうするつもりなのかしらね」

「精霊様は、一体何をご存知なのですか? 勇者……いえ、魔王のことも何か知ってるんでしょうか?」


 レインズの問に、精霊は頬に手を添えて微笑むだけだった。

 語らない。いや、語れないのかもしれない。

 それを察したレインズは、それ以上何も言わなかった。


「私たち精霊はね、あくまで勇者の導き手(ナビゲーター)なの。だから、答えは持ち合わせていない。答えに辿り着くための道を指し示すだけ」

「それが、さっきの何も失うものがない、ってことなの?」


 精霊は微笑む。

 必要以上の言葉を、言えないようだ。その笑みは、どこか悲しげで、見ているこっちが泣いてしまいそうだった。


「……行きなさい、勇者。我らが希望。貴方の微笑みが絶えぬことを祈っているわ」


 そう言うと、精霊の泉から水が湧き出してナイたちを包み込んだ。

 反射的に目を閉じて身構えていると、肌にジリジリとした熱が当たる。その暑さに目を開けると、砂漠の上にいた。

 先程まであったはずの階段も消えて、地下からも力の気配は無くなっていた。


「……なんか、夢でも見てた、みたい……」

「夢じゃねーだろ、それは」


 リオの言葉に、ナイは手に握り締めていた宝石を空に翳してみた。

 太陽に透かしてみた宝石は、まるで海のようにユラユラと光が揺れ動いている。


「……精霊の言ってた言葉、よく分からなかった」

「私もです。むしろ、理解したくないと思ってしまいました……」


 手に入れたもの。

 手にした謎。

 解き明かして、それが己のために繋がるのだろうか。


 ナイたちは心にモヤモヤとした感情を抱えたまま、集落へと戻った。




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