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第58話 ネガティブ勇者、ふたりのヒミツを作る



「この辺にあるのがうちの一族が受け継いできた古代の書物だ。残念ながら俺は解読できてねーけど」

「おおー……」


 リオに案内され、ナイは集落の中にある書庫に来た。

 数は多くないが、どれも貴重なもの。ナイは一冊手に取って、中身をパラパラと見ていく。


 文字は読める。だがそこに書かれた言葉の意味や魔法の術式を読み取るのは容易ではない。

 これはナイ一人ではなくテオやレインズとも一緒に解読していく方が効率はいいだろう。

 そう思いながらも、とりあえず一通り読みたいという好奇心から、ナイはその場に座り込んで本を読み始めた。


「さすが勇者様。古代文字が読めるのか」

「文字が分かっても、言葉の意味とかは、ちょっと難しくて……あとでテオたちに相談したい、けど……」


 そう言いながら、意識は完全に本に向いている。

 その様子に、リオは幼い頃のテオを思い出した。テオもいまよりもずっと小さい時、ああして夢中になって読み耽っていた。


「んじゃ、適当なところで切り上げて休めよ。俺は部屋に戻るから」

「はい、ありがとうございました」


 テオやナイみたいなタイプにとって魔術書も古文書も、子供が新しいオモチャを手にしたのと同じ感覚なのだろう。

 リオはほんの少し呆れながらも、小さく笑を零してその場を後にした。



ーーーー

ーー


 どれほどの時間が過ぎただろう。

 目の疲れ、鈍い腰の痛みに気付いたナイは、本を閉じてグッと背を伸ばした。

 この世界には時計がないので今が何時なのかは分からない。外を見ようと背後にある窓の方へ視線を向けると、いつからそこにいたのかレインズが本を読んでいた。


「レ、レイ!?」

「おや。やっとお気付きになりましたか?」


 どうしていつも彼に気付けないのだろう。ナイはビックリして飛び上がった心臓を抑えるように胸に手を置いた。


「な、なんで声、かけない、の」

「かけましたよ、何度も。気付かないくらい夢中になっていたので、私も一緒に読んでいようかと」


 そう言いながら読んでいた本を見せた。


「ナイは古代文字をお読みになれるんですね」

「え、あー……読めるといえば、読める、けど……でも言葉の意味までは分かんなくて……歴史書とかは大丈夫だけど、魔術書に関しては暗号みたいで……」


 乾いた笑いを零し、ナイは肩を落とした。

 レインズも一緒に読んではいたが、所々の単語を読み取っていくことしか出来ない。そうなると解釈違いも出てくる。


「ナイ、ここの文字をどう読みますか?」

「え? えーっと……これは人の名前、なのかな……」


 レインズは気になっていた箇所をナイに見せた。

 ナイも分からない言葉などをあとでレインズかテオに聞こうと思っていたので、素直に応えた。


「ここの文字、これ術式のことだと思うんだけど……」

「うーん……単語の並びからして違うような……」

「でも、これは……」

「それなら、こっちの書物に……」


 二人の魔法談議は誰かが止めるまで続く。一つのことが解決したら、次の話に移り、そしてまた次の議題に移る。

 お互いに好奇心と探究心の塊。魔法というこの世界の住人ですら未知な部分が多い分野なだけに、話は尽きることがない。


「……あの、さ。レイ……」

「なんですか?」

「……嫌、だったらいいんだけど……」

「はい?」

「それ……」

「それ、とは?」

「敬語。な、名前を呼び捨てに、するように、なったし……敬語も、やめ、ない?」


 ずっと気になっていた。レインズの敬語は癖などではない。アインには砕けた口調を使うし、リオにも立場を忘れて友人同士として接するときはタメ口になる。

 ナイはお互いの仲を気にしてそういう訳ではない。ナイ自身はレインズとの仲が進展したとは少しも思っていない。

 名前を呼び捨てにしてほしいと言った時と同様、丁寧な口調を使われることに違和感があるから。ただそれだけだ。


「……ですが、ナイは勇者様ですし」

「で、でも……なんか、いや、だし……」

「…………分かりました。それじゃあ、私にも立場がありますので……二人のときだけ、というのはどうだろう?」

「う、うん。それでも、いい」

「じゃあ、いまだけは普通に話すよ」


 ホッとした表情を浮かべるナイに、レインズはそっと微笑んだ。


 それからも二人は、いつまで経っても戻ってこない主人と勇者を連れ戻しに来たアインに話を遮られるまで魔法の話で盛り上がっていた。


 アインの前ではまた敬語に戻ったレインズにナイは少し残念な気持ちもあった。

 だが、アインに気付かれないように口元に指を添えて「内緒だよ」と言うレインズに、なんだか少しおかしくてクスリと笑ってしまった。





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