表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/100

第53話 ネガティブ勇者、ドラゴンに乗る


 城の外に出ると、まるで鎧のような鱗に覆われた大きなドラゴンが待っていた。

 レインズとアインも話に聞いていただけで実際に会うのは初めてだったらしく、その巨躯を前にして開いた口が塞がらなくなっている。


「テオ様が使役しているのは存じておりましたが……まさかこの目で見れる日が来るとは……」

「あの、俺らが乗っても大丈夫なのですか?」

「平気よ。ポッくんは大人しくて良い子だから」


 転移魔法でドラゴンの背中に乗り込むと、ドラゴンはゆっくりと翼を羽ばたかせて宙へと浮く。

 空を飛ぶなんて初めての出来事に、ナイはほんの少しの怖い気持ちとワクワク感で胸がいっぱいだった。


「わ、ぁ……」


 ドラゴンは一気に飛び上がり、雲の上まで来た。

 初めて召喚されたときの塔よりも高い場所から眺める世界の景色。全てが美しく、神秘的な光景。


 ナイは元の世界にいた頃も、よく図書館で世界の景色が載った写真集なども見ていた。

 元の世界ではこんな風に見ることは出来なかった、自然が作り出した美しいもの。

 漆黒の瞳が、いつかの星空を映したときのようにキラキラと輝いていた。


「ナイ、大丈夫ですか?」

「あ、うん。そういえば、結構な速さで飛んでるのに、体が飛ばされたり、しないんだね」

「それはテオ様がドラゴンの背中に防御結界を張っていらっしゃるからですよ」

「そー、なんだ……」


 なるほど、と感心しながらナイは下を見た。

 下は一面の海で、その高さに思わず息を飲む。

 経験したことのない高さ。飛行機も観覧車も乗ったことのないナイは、急に恐怖心が湧き上がってきてその場に座り込んでしまった。


「おい、どうした」

「ア、アイン……その、高い……」

「飛んでるんだから当たり前だろ……何だ、急に」

「いや……その、そうだよね……下見たら、怖くなっちゃった」


 笑顔が引きつるナイに、アインは呆れたように溜息を吐いた。


「ほら、立て」

「え?」

「こんな端にいるから下が気になるんだろ。もっと真ん中で景色でも見てろ」

「……うん」


 アインが差し伸べてくれた手を取り、ナイは中央の方へと移動した。

 その様子を見ていたレインズは、微笑ましい気持ちと少しだけ複雑な感情を抱いた。


「あの子も変わったわね」

「テオ様」


 同じく二人の様子を見ていたテオがレインズの隣に歩み寄った。

 どこか悪戯っ子のような笑みを浮かべるテオに、レインズは首を傾げた。


「アインのことよ。前は貴方以外にああやって気を配ったりはしなかったでしょ」

「ああ、そうですね。アインも彼のことを気に入ってくれたのでしょうか」

「まぁ、貴方が御贔屓にしてる勇者様だから、ってのもあるんだろうけどね。私としてはあの子に優しくしてくれる人が増えるのは嬉しいことよ」

「ナイに、ですか? テオ様は、彼のこと何かご存じなのですか?」

「……私のは勝手に覗き見ちゃっただけ。不可抗力とはいえ、申し訳ないことをしたとは思ってるけど……あの子は貴方が思ってる以上に深い傷を負ってるわ。いまはああして笑うことが出来ているけど、何がキッカケでまた心の中の闇に飲まれてしまうか分からない不安定な状態なの」


 レインズはアインと一緒に話をしてるナイを見た。

 初めて会った時に比べ、ちゃんと食事を取るようになったおかげで顔つきも以前よりほんの少し丸みが出てきた。同年代の男子に比べたらまだ細すぎるくらいではあるが、健康的になりつつある。


「貴方は、ナイをどう見る?」

「どう、とは?」

「レインズにとって、ナイはただの勇者様?」

「……それは」


 テオの問いに、レインズは答えられなかった。

 ナイが勇者であることに変わりない。だが、自分にとっての彼は何なのか。

 彼への思いに、いまはまだ名前が付けられない。

 王子と勇者という肩書だけか。それとも、友人か。


 二人の関係性に名前を得られないまま、ドラゴンは目的地へと近づいていく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ