第52話 ネガティブ勇者、初めての友達
「起きなさーい!!」
翌朝。まだ陽も登らない明け方頃、布団を引き剥がされてナイは目を覚ました。
眠気を吹き飛ばすような明るく元気な声。
驚いて飛び起きると、大きな杖を持ったテオが笑顔で立っていた。
「おはよう、ナイ」
「お、おは、よう? え、えっと……?」
寝起きで、しかも突然のことに頭が混乱している。
何故テオがこんな朝早くに部屋にいるのか。何でこんなに朝からテンションが高いのか。何も分からない。
「ほら、さっさと起きる起きる! 出発するわよ!」
「え!? 今から?」
「ええ。早く出ないと今日のうちに着かないでしょ」
いつになくハイテンションのテオに、ナイは思考が追いつかない。
ナイが呆然としていると、テオの声に気付いたアインが慌てた様子で部屋に駆け込んできた。
「テ、テオ様!?」
「おはよう、アイン。さっさとレインズを起こしてきなさい」
「え、はい……って、え?」
さすがのアインも状況を把握しきれていないようで、よく理解出来ていないままレインズの元へと向かった。
「あの、テオ……?」
「なぁに?」
「もしかして、今回はテオも一緒に行くの?」
「ええ。精霊の泉は私も興味あるし、あそこの集落には知り合いがいるの」
「そ、そうなんだ……」
「それに、行くのは砂漠なんだから水属性持ちの私がいた方がいいでしょ」
ワクワクとした様子で皆の支度を待つテオ。
ナイは身支度を済まし、手荷物を魔法で収納させた。昨晩レインズに教えてもらったものだが、どんな大荷物もこうして魔法で異空間に収納していつでも引き出せるのだからとても便利だ。
とは言っても、異空間に収納出来る量はその人の魔力量に依存するもので無限という訳にはいかない。しかしナイだったら城中の荷物を詰めても余裕なのだ。
「ナイ。レインズと仲良くやれてるみたいね」
「え? え、あー……そう、だね。前よりは、話せてると、思う」
「うん。見てれば分かるわ。ナイは変わった。とても良い方向に進んでいると思う。自分に優しくなれてる」
「自分、に?」
「そうよ。ここに来たばかりの頃に比べて、気持ちが変わったのは自覚してるでしょ?」
「……うん」
「そういう心の変化、大事にしてね。私たちは貴方に重荷を背負わせてしまったけれど、ナイの自由を奪いたいわけじゃないわ」
テオはナイの頬に触れる。
小さな手の温もりに、ナイは心に暖かなものを感じた。
こういった相手を気遣う優しい言葉を素直に受け止められるようになったのも、心の変化。
ナイは小さく頷き、テオに微笑んだ。
「大丈夫。まだ、怖いと思うことも沢山あるし、みんなのこともどこか疑ってしまう気持ちも少しはあるけど……みんなが優しくしてくれているのは、分かってるから……」
「ナイ……」
「ありがとう、テオ」
「ううん。私は何もしてないわ。変われたのは、貴方の力よ」
テオの言葉は不思議とすんなり胸の中に入ってくる。
こんなことを年頃の女の子に言うのは失礼だと思い口にこそしないが、テオといると幼少時に数回会ったことのある祖父母と一緒にいる時の気持ちを思い出す。
だが、それはテオが先祖の記憶を受け継いでいるせいなのかもしれない。
「ねぇ、ナイ。これから私のことはお友達だと思ってほしいわ」
「とも、だち?」
「ダメかな? 私、貴方ともっと仲良くなりたいの。勇者と賢者とかそういう関係を抜きにして、魔法大好き仲間として、ね?」
「……うん、嬉しい。僕の初めての友達、だ」
二人は少し照れくさそうに、微笑んだ。
そんな話をしていると、ドアの向こうでバタバタとこちらへ向かって走ってくる足音が聞こえてきた。
その音に、ナイとテオは顔を見合わせてクスッと笑う。
「す、すみませんテオ様! お待たせしてしまい……」
「いいのよ。久々にアンタの余裕のない顔も見れたし」
「そ、それは……あまり見られたくないのですが……」
急いで支度したのか、いつもは整った髪がまだボサボサのままだった。
レインズの後ろに立つアインも、相当急いだのか少し息を切らしている。
「それじゃあ、外にポッくん待たせてるからさっさと行くわよ」
「ポッくん?」
「ええ。私の友達、ドラゴンのポルネイドくん」
まさかのドラゴンでの移動に、ナイは言葉を失った。




