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第43話 ネガティブ勇者、褒められる



「アインの様子はどうでしたか?」

「えっと、一度起きたけど、また寝ちゃった……」

「そうですか。お腹空くかと思ったんですけど、寝かせておいた方がいいですかね。それじゃあ、我々も休みましょうか」


 部屋に戻ると、レインズがナイが使っていたものの隣にあるベッドに腰を下ろしていた。

 さっきは気付かなかったが、この部屋はツインのようでレインズも同室らしい。


「すみません、空いてる部屋が他にないみたいで……」

「あ、うん。大丈夫、です」


 レインズと同じ部屋で寝ると思っていなかったので少し気まずさを感じながら、ナイもベッドに横になった。


 レインズは上着を脱ぎ、結わいた髪をほどく。

 絹糸のような美しい髪が肩にかかり、揺れるたびに輝いてる。

 ナイは思わず目を奪われた。どこを取っても芸術品のよう。白磁の肌も、月明かりのように輝く髪も、鈴の音のように澄んだ声も。

 髪も目も全てが真っ黒な自分とは大違いだと、ナイは思った。


「……えっと、私の顔に何かついてますか?」

「え。あ、ごめん、なさい。あの……綺麗、だなって」


 素直にそう口にすると、レインズが少し照れたように頬を赤らめた。


「そ、そうですか? 私はナイの方が綺麗だと思いますよ」

「は?」

「濡羽色の髪も、オニキスのような瞳も、とても美しい色です。この世界でそのような色を持っている人はいません」

「……僕の世界では、普通だよ」

「この世界では特別なのですよ」


 ナイは自分の髪にちょっと触れた。

 人よりも色素が濃くて真っ黒な髪と不健康な白い肌のせいで小さい頃はオバケみたいだと言われることもあったが、その色を綺麗だと言ってもらえたことに少しだけ嬉しくなった。

 この色は、父にも母にも似なかった。自分だけの色だったから。


「さぁ、もう寝ましょう。ナイだってまだ疲れているでしょう」

「……ん。おやすみ、レイ」

「おやすみなさい、ナイ」


 ナイは布団を被り、レインズに背を向けるようにして眠った。

 さっきまで眠っていたのですぐには寝れないと思っていたが、思ったより早くウトウトし始めていた。

 夢を見ることへの恐怖心が少し薄れたせいだろうか。ナイは微睡に身を任せ、そのまま眠りについた。



―――

――



 隣のベッドから寝息が聞こえ、レインズは静かに体を起こした。

 こちらに背を向けて眠る彼を起こさないように気配を殺して近付く。


 そっと顔を覗き込むと、いつもより柔らかい表情でナイは寝ていた。

 何か吹っ切れたのだろうか。この宿で目を覚ましてからのナイはどこか表情が変わった。

 きっとアインが何か言ってくれたのだろうと、レインズは少しだけ複雑そうな顔を浮かべる。


 アインとナイは似ている。

 レインズはこの世界に来たばかりのナイをみたとき、初めて出逢った頃のアインを思い出していた。何かにずっと怯えて、見えない何かに恐怖してる。

 アインはナイと違って相手に噛みつくことで自身の恐怖心を誤魔化そうとしていたが、ナイは逆に自分の中に抱え込んで、自らを傷付けていた。

 二人とも、理不尽の中で必死に生きてきた。だからこそ言葉にしなくても分かり合えるところがあるんだろう。


 だかレインズは違う。王族という立場からくるプレッシャーは勿論ある。いずれは王になる者として、誰よりも強く、誰よりも優しくあろうと、幼い頃から努力を重ねてきた。

 しかし、それは恵まれた環境があってこそできること。衣食住に困ることも、大人から暴力を受けることもない。皆に愛されて、それを当たり前と思って生きてきた。アインに出会うまで、そんな理不尽がこの世界にあることすら知らなかった。


 家族が仲良しなのは当たり前。親が子供を愛するのは当たり前。

 そんな常識が一気に覆った。この世界には理不尽で溢れている。

 誰かが満ち足りた生活を送っている裏で、誰かが苦しんでいる。笑顔の溢れる自国ですら格差はある。仕事に就けず税を払えない者も少なくはない。かといって国民に豊かな暮らしを与えるには税は不可欠。富は何の対価もなしに増えていくものではない。

 平等を願っても、それは叶わない。


 だからレインズが、幼い頃から勇者の存在に憧れていた。

 どんな逆境にも立ち向かう、世界の希望。そんな希望になりたいと思った。だけど魔王に勝てるのは真の勇者だけ。

 邪悪なものを切り裂く、異界より現れし希望の勇者。


「……まさか、こんな幼い子だとは思いませんでしたけど」


 小さく微笑み、ナイの頭をそっと撫でた。

 勇者ならきっと魔王を倒してくれる。この世界を救ってくれる。

 そんな人任せなことを、もう彼に願おうとは思わない。戦うなら、共に行きたい。この世界は、この国は、自分のたちのものなのだから。


 レインズはナイの額に口付けをして、おやすみなさいと小声で囁いた。




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