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第27話 ネガティブ勇者、楽しさを知る



 街を見て回ったナイ達は城に戻り、部屋でひと息つく。

 アインはないとレインズにお茶を用意した後、荷物を整理しなければならないと馬車へ戻っていった。


「いかがでした? 街の様子は」

「えっと、賑やか、でした」


 あの後も行く先々で声を掛けられ、土産を渡されたりと、人付き合いが苦手なナイには少しばかりキツいものがあった。

 コミュ力の高いレインズには慣れっこな状況かもしれないが、他人と会話らしい会話をしてこなかったナイにとってあの人混みはサバンナに一人放置されるくらいの恐怖が伴う。

 基本的にはレインズが対応してくれたから良かったものの、これで勇者と紹介された上であの中に入っていたらどうなっていたことか。


「そういえば、ナイは本屋で何か見てましたね」

「え、あ……本を読むのは、好きだったから……」


 街を歩いている時、古本屋を見掛けた。

 子供が読むようなおとぎ話や魔法書など様々な書物が置かれていて、ナイは数分ほど足を止めていた。


「……あの、レイ」

「なんですか?」

「ぼ、僕もお金を稼ぐ方法は、ないのかな」

「ナイが、ですか?」

「ま、魔王を倒した後でもいい。自分のものは、自分で買いたいから……」


 いまは勇者としてやるべきことをやらなきゃいけない。

 でもそれが終わったら。勇者としての役目を果たせたら、自分の好きなようにしたい。そうしたらキチンと働いてお金を稼がなきゃいけない。

 街を見て、あの中で小さな家を借りて住むのも悪くないとナイは思ったのだ。


「それなら、魔物退治で報酬を受け取れますよ。いずれテオ様も実戦をと仰っていましたし、下級程度でもそれなりの金額が出されるはずです」

「そう、なんだ」

「えぇ。それかギルドに登録すれば街の人たちからの依頼を受けたりもできますし」

「へぇ……色々、あるんだね」


 まだ中学生だったナイは当然だがバイトもしていない。働いた経験もないので、難しいことは無理だが魔物退治なら魔王を倒しに行く過程でもこなせる。

 それに魔王を倒せれば、働く必要もないほどの報酬を王から貰えるだろう。

 それを聞いたナイは、少しだけやる気が出てきた。


 全てが終われば、小さな家で引き込もれる。誰にも会わずに暮らせる。

 この世界に来たばかりの時にも少し思っていたが、それが現実味を帯びてきた。

 その為には、もっと強くならなきゃいけない。宝剣を手にして、魔王を倒さなきゃいけない。

 結局はそこに戻ってくる。勇者がやることは一つだけ。それをクリアしなきゃ、自由にはなれない。

 早くなるべきことを済ませて、一人になりたい。そうすれば、もう何かに悩まされることもない。

 ナイは、この世界で一つの答えを導き出せたような気がした。


「ナイは街に住みたいのですか?」

「そういう、わけじゃないけど……テオみたいに、離れた場所に住むのも良いと思うし……」

「テオ様は先祖代々からあの場所に住まわれていますからね。あの場所は魔力に満ちていて良いとか」

「へぇ……そういうのは、よく分からないけど……」


 そう言うナイに、レインズはポンと手を叩いた。


「そういえば、ナイにまだ思念通話のやり方を教えてませんでしたね」

「思念、通話?」

「はい。遠く離れた場所にいる相手と話す方法です。相手の魔力を辿って、自分の思念を送るんです」


 レインズが目を瞑ると、ピクリと何かが肌に触れるような感覚と共に頭に声が響いた。


(聞こえますか?)

「え!?」


 頭の中に直接聞こえてきた声に、ナイは思わず耳を抑えた。

 間違いなくレインズの声だったけど、目の前の彼は口を動かしていない。


「これが念話です。相手の魔力に自分の思念を送って会話をするもので、ある程度離れていても相手の魔力さえ感じることが出来れば声を届けることが可能です」

「……電話、みたいなものか……この世界、携帯もないんだもんね……」

「他にも魔法水晶(クラリアス)を用いたやり方もあるんですよ。一般的にはこちらを使うことの方が多いですね。水晶に相手の魔力や、水晶自体の魔力を覚えさせれば特定の相手に連絡が取れます」

「……こっちは固定電話だ。凄いね……」


 色々と自分の世界にあった物に置き換えることが出来るものが出てきて、ナイは少し興味をそそられた。

 魔法をもっと覚えれば自分の世界にあった物を再現できるのではないか。本のページを具現化したときのように、もっと手軽に、便利にできるのではないだろうか。

 ナイは元の世界で欲しかったものを、この世界で手に入れることが出来るかもしれない。

 魔法に秘められた可能性に、ナイは益々興味を示した。


「えっと、相手の魔力ってどうやって感じるものなの?」

「そうですね……相手の気配とか、そういったものと似たものと思ってくれて大丈夫だと思いますよ。試しに私の魔力を覚えてください」

「う、うん」


 ナイは目を閉じて目の前にいるレインズの魔力を探った。

 人の気配とは少し違う、気の流れ。今はレインズが分かりやすく魔力を放出してくれているおかげで察知しやすい。

 この魔力に、自分の思念を送る。テレパシーとかそういうものと同じだろうか。ナイは自分の魔力に言葉を乗せるイメージで話しかけてみた。


(こ、こう?)

(そうです。さすがナイ。覚えが早いですね)

(そうかな……)


 ナイは目を開けて、ちゃんと出来たことにホッとした。

 一つ一つ何か覚えていくのは楽しい。特に魔法はナイに合っているようで、飲み込みも早い。

 おとぎ話のような。まるで夢のような力。

 紛れもない、自分の中にある力。

 思ったことを形に出来る力。


「あ、あの、レイ。こういうのは、出来るのかな」

「どういうのですか?」


 ナイは自分の世界にあった物を魔法で出来ないか、レインズに相談した。

 珍しく饒舌なナイの様子に少し嬉しく思いながら、別世界の話にレインズも夢中になって聞いた。


 それから荷物整理を終えたアインが部屋に来るまで、二人の話は続いたのだった。




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