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第26話 ネガティブ勇者、街を歩く



 半ば強引ではあったが、街へと繰り出したナイたち。

 賑わう城下町。道沿いに並ぶ様々な店。皆が笑顔で暮らしている様子に、ナイは圧倒される。

 その理由は、人の多さ。登下校中の通学路以上に人がいる。人混みが苦手なナイはそれだけで酔いそうだった。


「おや、レインズ王子!」

「王子様! 今日は新鮮な果物が入ってるよ!」

「レインズ様!」

「レインズ王子!」


 レインズに気付いた民達が囲むように集まってくる。

 さすが王子様と言うべきか。皆がキラキラした笑顔で出迎えてくれている。国民に慕われている王子というのがひと目でわかる光景だ。

 レインズは一人一人に挨拶を交わし、話をしてる。

 みんなの顔をよく覚えているな、とナイは感心した。


「王子様、そちらは?」


 恰幅のいいオバサンがレインズの隣にいるナイに気付いて声をかけた。

 思わずナイはレインズの背後に隠れてしまったが、ちゃんと勇者と名乗るべきなのか葛藤する。


「彼は私の友人のナイです。しばらく城にいるので、よろしくお願いします」


 レインズがそう言うと、皆がナイに笑顔を向けて「よろしく」「うちの店にもおいで」と声をかけた。

 勇者と紹介しなかったのは何故なのか。単に騒ぎにしたくなかっただけかもしれないが、マイナス思考のナイは自分が勇者と名乗れるような人物ではないと判断されたのではないかと息を詰まらせた。


 その様子に気付いたのは後ろに構えていたアインだった。

 友人と紹介した途端、顔色が悪くなったナイにアインは耳元で主人のフォローをする。


「勘違いするな。レインズ様は騒ぎにしたくないだけだ」

「アイン……」

「こんなところで勇者の話をしたら収集がつかなくなるだろ。それに国民には勇者の儀を行ったことすら知らされてないんだ」


 アインのフォローに、ナイは少しだけ強ばった表情を緩める。

 自分に落ち度があったわけでない。レインズなりにナイを客人として皆に紹介したかっただけと教えられ、ホッと胸を撫で下ろした。


「ナイ。見たいものはありますか? 何か必要なものがあれば揃えましょう」

「で、でも僕、お金ないから」

「そんな心配いりませんよ。ナイは大事なお客様なのですから、私が出しますよ」

「い、いらない。そんなこと、しなくていい」


 いつになく強めの言葉で言われ、レインズだけでなくアインも驚いた。


 自分なんかにお金を使うなんて。誰かに奢られるなんて。ナイには恐れ多くて無理だった。

 ただでさえ部屋や食事を用意してもらっているのに、これ以上何かをしてもらうなんて。自分はまだ勇者として何も出来ていないのに。

 施しを受けるばかりでは、ナイは罪悪感で押し潰されてしまう。


「おやおや。揉め事かい?」

「あ、いえ。そんなことはないですよ」


 八百屋を営んでいるオバサンが、笑顔でこちらへと歩み寄ってきた。

 ナイの前に立ち、ポンとその手に赤い果実を渡す。

 突然のことにナイが驚いていると、オバサンは豪快な笑い声を上げてバシバシと肩を叩いた。


「辛気臭い顔してないで! オバサンちの果物食べれば元気になるよ!」


 食べてみなと言われ、ナイはその果実をひと口齧る。

 見た目は林檎のようだが、食感はトマトのように柔らかく、味は苺みたいに甘酸っぱい。不思議な感覚だが、口の中に広がる甘味には思わず目を見開いてしまう。


「美味しい……」

「だろう! よかったら持っていきな! 子供が遠慮するんじゃないよ!」


 両手いっぱいの果物を渡され、ナイはオバサンの押しの強さに断ることも出来なかった。

 レインズはお礼をいい、アインがナイの手から果物を受け取って袋に詰める。他の店の人達からもあれやこれやと手渡され、城に帰る頃には馬車の中を埋め尽くすほどの土産でいっぱいになっていた。





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