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第22話 ネガティブ勇者、気持ちを伝える



「それでは、私は部屋に戻りますね」

「え。あの、王子……レイ、は、何しに来たんですか」


 何か用事があったから部屋を訪ねてきたのではないか。何もせず帰ろうとするレインズにナイは慌てて聞いた。

 目的をすっかり忘れていたのか、レインズは「あぁ」と小さく呟いてナイの元へ戻る。


「すみません。用事がないのに来てしまって……」

「え?」

「今日の夕食、ご一緒できなかったので寝る前に少しでもお話しできればと思って……」

「あ、いや……」


 まさか自分と話がしたかっただけだとは思わなかった。どう言葉を返していいのか分からず、ナイは目をパチパチと瞬きをした。


「お邪魔して申し訳ありません」

「いや、全然……何もしてなかった、から……」

「そうですか? それは良かった」


 ホッとしたように笑顔を浮かべるレインズ。

 名前を呼んでほしいと言ったり、自分と話がしたいだけと言ったり。ナイには理解できない感情だった。決して悪い気はしないが、レインズが何の目的で自分との仲を深めようとしているのかは分からない。

 レインズは別に裏があってナイと接している訳ではないが、友達がいたことも作ろうと思ったこともないナイにはその意図を汲むことはできなかった。


「……あ、あの」

「はい?」

「……えっと。あ、あの、魔法……」

「魔法?」


 わざわざ自分と話をしようと部屋に来てくれたレインズをこのまま帰すのも悪いと思ったナイは、何か話そうと必死に頭を絞って話題を引っ張り出した。


「あの、テオ、様? のところでやってたやつ。光る剣、どうやって出したの?」

「ああ。あれは自分の魔力を具現化させたんですよ。昨日本のページを表示させたのと一緒です。一度魔法陣を構築させれば、あとはイメージだけで出現させられます」

「……難しい?」

「そうですね。魔法陣の構築は少々手間ですが、覚えれば色んな魔法を使えるようになりますよ」

「…… 僕にも、出来るようになりますか?」

「ええ。ナイ様なら出来ますよ。私もお教えしますし、テオ様は様々な魔法を知っています」


 ナイは少しだけワクワクした。

 魔法のない世界にいたからこそ、輝きに満ちたそれは心を掴まれる力だ。

 欲のなかったナイが、今一番欲するものかもしれない。


「魔法はお好きですか?」

「……えっと、ちょっと興味、ある」

「魔法は必ずナイ様を守る力になります。何でも出来るものではないですが、きっと貴方の勇気になります」


 勇気。その言葉に、ナイはピクッと肩を跳ね上がらせた。

 ナイの中にないもの。縁の遠いもの。それが勇気だ。魔法を覚えていくことで、それが身に付くのだろうか。


「……ま、魔王にも、勝てる?」

「ええ。ナイ様なら必ず」

「そうすれば、みんな喜んでくれるんだよね……?」

「勿論です」

「……うん。がん、ばる」


 ナイはキュッと唇を噛みしめた。

 自身も勇気もない自分は、まだみんなに誇れるような勇者にはなれない。だからもっと力を付けないと。期待に応えないと。


 ナイは遠くに見える街の灯りを見る。

 そういえば、あそこにいる人たちは、勇者のことを知っているのだろうか。

 自分のことを見て、勇者だと思ってくれるのだろうか。まだ見たこともない人のことを守れるのだろうか。ナイはどこか他人事のような気持ちでいた。

 でもレインズは彼らを守りたいと思ってる。そう思っているレインズを守れさえすればいいのだろうか。

 世界を守るということがどういうことなのか、規模が大きすぎてナイの頭ではキャパオーバーしてしまう。だから今は、深く考えないことにした。


 今はそれより、大事なことがある。


「……あの、レイ」

「なんですか?」

「……へ、部屋」

「部屋?」

「……もっと、狭い部屋が……いい。ベッドも、あんなに大きいの、いらない」

「分かりました。では別の部屋を用意いたしましょう」


 レインズはニコッと笑って、部屋の手配をしてくれた。

 アインの言った通り、素直に言葉にすることが出来た。小さな一歩だけど、ナイにはこんな我儘さえも言うのが怖くて仕方ない。

 だけど言えた。ナイは嫌な顔もせずに応えてくれたレインズに、安堵した。

 だから、もう一つだけ小さい我儘を言いたい。


「あの、レイ」

「はい」

「な、名前……」

「名前?」

「僕のことも、ナイでいい。様付けられるの、なんか嫌……好きじゃない」


 ずっと思っていた。自分なんかが様付けされることの違和感。

 まだ何もなせてない。勇者として何も出来ていない。出来るかどうかも分からない。そんな自分に敬称なんか付けてほしくない。


「……分かりました、ナイ」

「ありがとう、レイ」


 すぐに受け入れてくれたことに、ナイは胸を撫で下ろした。

 思いを伝えることの大切さが、少し分かったような気がする。



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