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第20話 ネガティブ勇者、受け入れられない



 アインに肩を支えられながら浴室を出て、ナイは着替えを済ませた。

 まだ少し頭がボーッとしているせいか、足元がおぼつかない。


「大丈夫か」

「だい、じょーぶ……」


 フラフラしながら歩くナイに、アインは小さくため息を吐いて腕を掴んだ。


「平気そうに見えない」

「……え、いや」

「お前がまだ素直に自分の気持ち言えないのは分かる。俺だってそうだった。だから無理強いはしないけど、レインズ様に余計な心配をさせるな」

「……アイン、は……その」


 ナイは言いかけて止めた。

 人の過去に干渉するつもりはない。下手に踏み込んで相手を傷つけるかもしれない。自分だって嫌なことに触れられたらきっと不快な気持ちになる。

 多分、アインにもあったのだ。ナイと似た境遇が。だからこそ、アインはナイとの距離感をちゃんと考えてる。


「飯、食えるか」

「……少し、なら」


 小さく頷くナイ。

 さっきまで青ざめていたナイの顔色は、少しずつ色味を取り戻してる。

 調子を取り戻しつつあるナイに、アインはホッとした。

 レインズが不在の時に勇者に何かあったら自分の責任問題になる。レインズはそんなことで責めたりはしないだろうが、アインの性格がそれを許さない。

 アインにとってレインズは主人であり、崇拝する存在だ。彼の手を煩わせることだけは、したくない。あってはならないことだ。


「……こっち来い」

「あれ、部屋……」


 ナイの部屋とは違う方向に進んでいく。

 どこに何があるのか把握していないナイは、どこに連れていかれるのか分からず、頭にクエスチョンマークを浮かべた。


ーーーー

ーー


 アインが連れてきたのは、小さな庭だった。

 城の庭と呼ぶにはこじんまりとしてて、あるのはベンチと花壇、それから小さいテーブルと椅子だけ。


「……ここ、は?」

「俺の庭だ」

「アインの?」

「あぁ。俺がここに来たばかりのときに国王から頂いたんだ。荒んでないで花でも育ててみろって」

「……なんで、僕に」

「意味はない。それより、飯食うぞ」


 アインはテーブルに用意しておいたスープを並べた。

 トマトベースの野菜スープ。食欲をそそる匂い。ナイは食に対して心を揺らしてる。

 昨日のサンドイッチで完全に胃袋を掴まれたと言ってもいい。


「あれ?」

「なんだ」


 向かいの椅子にアインが着いたことに、ナイは少しビックリした。

 食事のときはいつもレインズの後ろで黙って立っているだけだったから、今回もそうだと思っていた。


「レインズ様が居られないんだ。お前に気を遣うつもりはない」

「……はぁ」


 こちらを気にすることなく、アインは食事を取り始めた。

 ナイも手を合わせ、スープを口にする。湯冷めした体に染み込む温かくて優しい味に、ナイはまた泣きそうになった。


「……アイン」

「なんだ」

「……あの人、王子様は、どんな人?」

「レインズ様? どんなって素晴らしい方だよ。この国の王子として恥ずかしくないように魔術や剣技を磨き、国や民を第一に考えている」


 そう語るアインの目は、キラキラと輝いていた。

 本当に尊敬しているのが見てるだけて伝わってくる。


 ナイは、自分と似たところのあるアインが何故レインズに憧れを抱いているのか気になった。

 アインの態度や彼と接していても、レインズが凄いのは分かる。

 性格も正反対で、一緒にいて劣等感を抱かずにはいられない。だけど話していて不快感はない。むしろ彼の雰囲気、オーラと言うべきか。それがこちらの緊張を解してしまう。


 だからこそ、ナイはレインズが好きになれない。

 自分との違いを思い知らされるから。


「……お前がレインズ様に対して思うことがあるのは、分かる。それでも、あの人はお前に害を与える人じゃない。それだけは、覚えててほしい」

「……うん。そう、だね」


 ナイはスープを口にする。

 アインの言いたいことも分かる。レインズはナイのことをいつも気遣ってる。

 初めて会った時以外、彼がナイのことを勇者様と呼ばないのもそうだ。勇者という責任を必要以上にナイに負わせないため。

 言葉一つ一つ。接し方にしても、レインズは相手への配慮を欠かさない。


 それが心地良く感じてしまう。

 そんな完璧すぎる彼に嫉妬してしまう。


 それが嫌なのだ。

 だからナイの心の壁は、未だに崩れない。






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