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第16話 ネガティブ勇者、訓練する



「まずは武器を持つことに慣れないとね」


 テオに付いて来いと言われ、ナイたちは裏口から庭へと出た。

 森の木々を切り倒して作られたその場所は、日頃からテオが魔法の訓練のために使っている。訓練というより新作魔法の研究のためと言った方が正しい。


 テオは壁際に無造作に突き立ててある剣を一本引き抜き、ナイに手渡した。

 ズシリと重い感触。マトモな運動もしてこなかったナイには持ち上げるだけでも相当な体力を消耗させる。


「……こ、これ使うんですか」

「とりあえずね。アイン、あんたが相手してあげなさい」


 テオは同じ形の剣をアインにも渡した。

 全く同じ剣をアインは片手で軽く持ち、ナイは両手で何とか持ち上げている。この時点で力の差は歴然としてる。


「あの、テオ様。いきなり俺とじゃ無理では?」

「あーらら。仕方ないわねー」


 テオはナイの前に立ち、剣を握る両の手に自身の手を重ねた。


「魔力の使い方を覚えなさい」

「使い方?」

「そう。その膨大な魔力を肉体強化に使うのよ」


 目を閉じなさいと言われ、ナイは言われた通りに目を伏せる。


「魔力を集中させて。体中に巡らせるの」


 ナイは小さく頷いて、魔力を集中させた。

 昨日教わったように、溢れ出る体の中の魔力を丸めるイメージを浮かべる。肉体強化と言われてもナイ馴染みのない言葉なので想像しにくい。

 だからナイは魔力を服のように着るイメージをした。体全身に魔力を言う衣を纏うイメージ。


「良いわね。さらに血液の中にも魔力を流すイメージをしなさい」

「血液に……?」

「そう。密度を上げれば、その分強くなる」


 言われた通り、魔力を流し込むイメージを浮かべる。

 魔力が細胞の中に流れていくのが分かる。一瞬だけゾワっとしたが、すぐに馴染んでいった。

 そのおかげか、ずっと手に持ったままの剣の重さが軽くなったように感じる。ナイは目を開けて、剣を握る手を眺めた。


「……持ててる」

「さすがね。想像力が良いのかしら」

「で、でもこれだけで戦えるようになるんですか?」

「戦い方はこれからよ。マトモに剣が振るえなきゃ話にならないでしょ?」


 確かにその通りだと納得したナイ。

 どうにか剣を持てるようにはなったが、それだけじゃどうしようもない。適当に振り回すだけでもナイの魔力があればその辺の魔物は倒せるかもしれないが、最終目標は魔王だ。剣術の一つくらいは覚えておかないと魔王城に行く前に倒されてしまうかもしれない。

 そうなったらそうなったで、ナイは己の死を受け入れてしまうのだろうけど。


「さぁアイン。軽く打ち込んで」

「は、はぁ……では、行きます」


 アインは剣を構えてナイに向かって剣を振り下ろす。

 勿論当てる気はない。寸止めするつもりで剣を振ったが、ナイはそんなこと分からない。向かってくる刃に自分はどう対応すればいいのか分からず、腰を抜かして座り込んでしまった。


「うわぁぁ!!」

「っ!」


 ナイが叫ぶのと同時に、彼の体から黒い影が現れてその身を包み込んだ。

 それはナイを守るようにアインの剣を掴み、触れた箇所が黒く染まって砂となって崩れていった。


「あーらまぁ」

「テオ様、これは一体……」


 離れた場所で見ていたレインズがテオに状況の説明を求めた。

 テオも予想外だったのか、少し目を見開いて乾いた笑いを零してる。


「あの子の防御魔法はオートで作動するみたいね。勇者に害を与えるものを寄せ付けない。排除する」

「凄いですね……」

「そうね。確かに凄いけど……厄介ね」

「と、言うと?」

「あれはあの子の意志で動いてる訳じゃない。ちゃんと魔力を制御できなかったら暴走する可能性もある。ただでさえ魔力が強いんだから、呑まれたら大変なことになるわよ」


 いつになく真面目な表情を浮かべるテオに、レインズは息を飲む。


 差し出されたアインの手を取って立ち上がるナイの顔は、何が起こったのか理解できていない様子だ。

 順番を間違えたと心の中で反省しながら、テオは改めてナイの訓練のためのスケジュールを脳内で組み直した。




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