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第1話 ネガティブ勇者、目覚める





 いつも思う。

 これは悪い夢で、目が覚めたら優しいお母さんがリビングでご飯を作ってくれてて、食卓でお父さんが新聞読みながらコーヒーを飲んでる。

 そんなベッタベタなドラマのワンシーンみたいな光景が待ってるんじゃないかって。


「おいグズ、いつまでそこで寝てんだよ。おい!」


 それか、戸籍上は父に当たるこの男にいつものように殴られ続け、そのまま死んでしまえたらいいのに。


「金貰えるから産んだだけなのに。育ててあげてるんだからもっと感謝しなさいよ」


 もしくは、ヒステリックなこの母親の投げてきた物の当たり所が悪くてそのまま死んでしまうとか。

 そうしたら、楽になれる。この二人も虐待で捕まってくれるのに。


 そう思いながら、毎日を生きてる。

 なんで僕はこうも図太く生きてるんだろう。

 こんな何の価値もない世界で。

 何の価値もない僕が。


「なぁ、もうどっかに捨てて来ようぜ」

「バレたら捕まっちゃうじゃない。いやよ、そんなの」

「ったく。お前の親がこいつの養育費だけは振り込んでやるっていうから仕方なく育ててやってるけど、もうめんどくせーよ」

「学校行事とか行ってるの私じゃない。面倒なのは私の方よ。この子、成績も悪いし運動もできないし、本当に使えない子よね。でもあんただって憂さ晴らしにこの子使ってるじゃない。それに、一応この子の体でお金は稼げてるんだし」

「お前に似て顔だけは良いからな。男なら妊娠の問題もねーし、都合良いだろ。ま、中学卒業したら適当にどっかで働かせればいいか」


 汚い笑い声が頭に響いて気持ち悪い。吐きそう。でも吐いたりしたら余計に怒られる。吐き気を飲み込んで、ジッと耐える。


 助けて。

 誰か、助けてよ。

 毎日体中の痛みに耐えながら生きるのにも疲れた。

 毎日殴られて、毎日犯されて、道具のように扱われる日々。

 周りに虐待されてることを気付かれないように愛想ばかり良くなっていく自分も嫌い。

 誰にも相談なんかできない。そんなことがバレたらもっと殴られる。


 逃げられない。

 誰も僕を助けてくれない。


 僕は今日もそんなことを思いながら、押し入れの中で体を縮めながら眠る。

 この救いのない世界から、唯一逃げられる場所。

 それは夢の中だけ。

 だって僕は、世界中に嫌われてる。

 神様も僕のことが嫌いだから、こんな親の元に産んだんだ。




ーーーー

ーー




「……う、ん」


 あれ、体がおかしい。

 自分の四肢の感覚はちゃんとあるのに、動かせない。

 頭は起きてるのに、目が開かない。

 今まで感じたことのない浮遊感が全身を包んでる。

 あ、もしかして僕の願いが叶ったのだろうか。

 これは死後の世界ってやつなのかな。思ってたのとちょっと違うけど、あの地獄から抜け出せたのであればなんだって良い。

 きっともう、あれ以上の地獄なんて存在しない。もう起きなくていいならどうでもいい。


『召喚対象を確認。ゲート通過のため対象を粒子化。通過確認、再構築。ステータス付与開始』


 急に人工音声のようなアナウンスみたいな声が響いてきた。

 なに、粒子化って。僕の体に何が起きてるんだろう。ふわふわしてて何も分からない。

 そもそもステータスって一体何なの。ゲーム用語みたいなものだっけ。学校の休み時間に図書館にある漫画や小説を読んだりする程度だからあまり詳しくはないんだけど。


『対象の記憶よりステータスを構成。全ての言語を自動翻訳、肉体強化、自然治癒、物理ダメージ無効化、魔法ダメージ無効化、魔法属性・闇』


 なに、どうなってるの。

 何かが体の中に入り込むような感覚。再構築って僕の体を作り直してるってことなの?

 もう分からない。

 もう、どうでもいいか。

 あの親から離れることができればそれでいい。

 これが夢ならそれでいい。

 このまま、目覚めずにいられたら、それでいい。

 誰にも届かない救いを吐く声なんて、もういらない。

 子供を道具扱いしかしない親もいらない。

 誰にも必要とされない僕なんか、もっといらない。



『勇者構築完了。召喚者、レインズ・ロンラッド・ダナンエディアの元へ転送します』


 何かに体が引っ張られるような感覚がする。

 今、何て言った? 勇者?

 急に体に重みを感じる。手足、指先を動かせるようになった。

 でも前が何も見えない。

 僕の目が閉じられてるのか、何もない空間なのかも分からない。

 なに、何なんだ。この変な夢は。

 夢で、いいんだよな。

 こんな変な夢、初めて見るけど。


 どうせならもっと、優しい夢が良かった。

 やっぱり僕は、世界に嫌われているんだ。



『転送先、ダナンエディア国、希望の塔最上階、召喚の間』



 世界に希望なんか、あるわけないじゃない。



『――ご武運を』





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