第四章。~なあペトラ、お前、なんで金くれんの?~
そして事件が起きた。
パチンコ本格デビュー四日目のその日、またもや目を付けたのは【リゼロ2】の筐体だった。
他の筐体を見れば、もっといい状態のものがあったかも分からない。けれど馴染みだろう、「アレこれ回るくない?」という程度の感性から、その日はこの筐体を選んだのだ。
――ゲーム進行状況は、今までと比べると、良くなかった。
投資額は一万円を越えた。
このままやるべきか、引くべきか。
いや、まだやろう。
バピュピュピュピューン!!!!!
うおっ!!ボタンが鳴った!!!!
二日目の時点で知っていた機能だ、この筐体にはこれがある。【先バレ】というシステムだ!
抽選発表を待つ「ストックされた抽選くじ」の中に演出チャンスのものがあると、クソデカボタンがイカした音を奏でて赤く光り、筐体画面にて抽選くじの期待値を”色で判別”してくれるのだ。【赤バレ】とも呼ばれる。
筐体画面のバレ色は基本的に、【金】、【赤】、【紫】、その他もろもろ(当たるわけねえ)の順で期待値が高い。
画面ストックに表れた抽選くじの色は――金!!???
何がくるんだ!?
まさかまたあの70%演出なのか?
「ペトラはどっちの扉にいる……?」
「当てたら入賞チャンス」
「…………は?」
画面に現れた二つの扉。
アル・シャマクを唱える、貴族風体の幼女ペトラはどっちにいるでしょう……ってコト?
そりゃ……装飾も品の良い、下の扉だろ。
ガチャンッ!!!!
うわーッペトラだ。ペトラいたー。やっぱこっちだったか。
ん……? ていうか、じゃあ、これって――……
テェィロテェィロテェイロディンディンディンパッパッパーーーーーwwwww
マジ!? これで大当たり直通!??
え、じゃあSPチャレンジだ、うわあそろそろ45%引きそうー……
――すると次の瞬間突然、画面中央にペトラの顔がアップで現れた。
「アル・シャマク!」
――――(爆音)、(爆音)、(爆音)――……
まさかの――……。
まさかの、SPまで直通のルート……。
そんなんアリ?
そして始まる、なんだかワケの分からん衝撃展開。
なんか女の子たちが筐体画面いっぱいに集合している。
そしてなんか――私の玉数が増えてる、増え始めている、凄い勢いで加算されてゆく――!!
「?????」
見る間に増えていく。
6000……7000……9000、止まらない!!
「えっ……。ペトラ……お前なんでお金くれんの……?」
そしてついに……。
100……10,000玉……突破――……。。。。
「感謝しなよ」と強欲の魔女が言った。
私は頭を下げました。
10,000over!!!!
なんだかよく分からないまま女の子たちの集会は終わり、見慣れたRUSH風景のステージは一度も連チャンせず、11,000には届かず……!
だが――10,000て。
二度目だぞ。
「――――ヤバい、このあいだ【花の慶次】の甘デジで10,000出したことといい、僕は、僕は、パチンコ天才マンなんだ……!! アア……!!」
【甘デジ】とは。
大当たり確率が1/100以下のパチンコ台のことで、私の言っている甘デジ【花の慶次】の筐体は大当たり確率1/99.9となっている。
当たりやすいがゆえに、一度の入賞で貰える玉数も少ないというこの設定機、しかし私は先日、当たりを18回(以上?)出して、10,000という大台の玉数を獲得していたのだ。
「僕……僕はぁ、僕はァ…………パチンコ天才マン、だッ!!!!」
――――獲得日本円額は、一度のマイナスもないまま、80,000円の金額を突破していた。
パチプロで食っていこうかしら。
そんな戯言までこの漢は思っていたという。
大当たりの、耳を劈く音が、鼓膜内でリフレインしている。
そして。
ここが終点だった。
天運の。
我が順風満帆の。
また。
正気の――……。
闇が足下を覆い、私がそこに浸かっていることなんて、本当に気付きませんでした。
人は頭の冴えた、恐ろしいシステムを思い付くものです。
では、この漢の物語は、次回でお終い。