第二章。~突然の【アル・シャマク】~
「あ、これは、当たんねえな」
パチを久方プレイしての、第一感想である。
資金は2万円。
その日のうちに使い切るつもりであった。
さて、パチの筐体には液晶パネルがあり、そこから様々なデータが閲覧できる。
昨日や一昨日、またそれ以前の日付まで遡って見れる、【大当たりの回数】。
その日付の、【初当たり】が何回転目であったか。(パチの【回転数】については後述)
筐体によっては、その日の【大当たり】が、確率何パーセントであったのかも確認することができる。
それ以外にも様々なデータがあるわけだが、まあほぼ始めてだから見ても分からん、ネットで聞き齧った知識をなんとなくで運用しながら、【新台】と呼ばれるお店に搬入されたばかりの筐体を選んだ。
なんか、番町? がオモシロおかしく、なにかしらを一生懸命するっていう筐体でした。
説明が適当ですまないが、正直、印象に残らない筐体だった。
今回は意識してゲームの進行を見ているから、体感5分で終わるということはなかったが、率直に言えば非常にツマラン。
まず、筐体には無数の釘が打ちつけられている。
これが、装飾された綺麗な金属柱――というわけでもなく、そのまま、釘。無骨な釘。
そしてピンボールゲームのスタートみたいにして、最下部からバネの力で銀色の玉が打ち上げられ、無数の釘にハジかれながら玉が落ちてきて、所定の位置に玉が入ったら抽選スタート!この抽選スタートのことを【回転】と呼ぶのだ。
――――あれじゃん!
あの、水に満たされた容器のさ、あのさ、輪っかを棒に引っかけるゲーム。
そう、ウォーターゲーム輪投げ。――アレの親類じゃねえか!?
なんにも楽しくないんだけど!?
なんか、番町さんたちの演出も特に目新しいものがなく……。
いやスンマセン、でも正直な感想でした。
それで、あっという間に10,000円を消化。
あ、これは当たらないわ。私は今までの人生であるかないかという、確信を抱いていた。だって予兆がないもん。
まあでも……取材として金をスるっていうのが一つの目的だしな。
あと3台くらい、別のをやっておこうか。
だがしかし、そこで事件、起こる。
筐体の名称は――【リゼロ2】。
ただなんとなく正面にあったので選んだ筐体。
4千円という金銭消化――そして、「当たんねえわ、当たるはずが無い」と思っていた、そのときであった。
画面が、黄金に輝いたのだ。
「?????」
え、これ……チャンスちゃうん?
なんか「俺を選べ」とは言うとりますわ。
え、ボタン押すの?……はい。
デロウェイウェイウェイウェイウェイ!!!!!!!!
――何!?
え、なに、またボタン押すの?――デロウェイウェイウェイウェイウェイ!!!!!!!!
なんだ!?
え、あ、これ最後!??
ボタン押すのね!?
押すよ!押した!!!!
ブブブブブゥゥゥゥウウウウウヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィブブブブブブブブブ――――!!!!!!!!
なんか筐体もモノ凄い音を発してるんだけど――それ以上に、ヴァイブレーションするデカボタンの、尋常じゃないヴァイブレーション爆音が気になり過ぎて、何にも意識がいかねえええええええええ!!
あ……。
当たっ、た……。。。
いや、――違う!! ネットで知り得た知識、――このあとだ、このあとがマジの本番なんだ……!
ここで解説パート。
パチンコは所定の位置に玉が入ると、抽選が開始される。
そして、大当たりを狙うわけだが――【リゼロ2】の場合、その抽選確率はなんと約1/349.9である。なお、【大当たり】の下位概念としての【当たり】という区分は存在しない。
この確率を基準として、これまた一定確率で取得できる『様々な演出』によって確率(期待値)がUPし、大当たりゲットのパーセンテージが昇っていくのだ。
これが確率変動、いわゆる【確変】である。
ちなみに金色は最高期待値である、確率は70%を超えているという。(それでも70%なのかよ……)
そして70%という激アツパーセンテージを越えて、苦難の末に、約1/349.9……晴れて、大当たり――!!
――だが、しかし、実は……。パチはそれで終わりではない、率直に言えば、そこはスタートラインである。
どういうことかといえば。
パチンコとは、この【初当たり】の後に抽選される、”【スペシャルタイム(ST)】”に突入できるか否かで、全ての命運が決定されるのだ。
【スペシャルタイム(ST)】とは。
スペシャルなタイムである。ボーナスstageだ、【リゼロ2】の筐体であれば、なんと【確変】をも大きく期待できる【145回転】を、無償で取得できるという――まさに夢のようなラウンドに突入できるのだ!
145回転を消化する前に大当り獲得を目指す【RUSH】と呼ばれるスペシャルタイムは、約77%で再度の大当たり――そしてもしかしたら、大当たり以上……――を見込める、最アツボーナスである!!
そこで大当たりを引けば、再び145回転の権利を得る。これを【継続】という。金ちゃんが言ってたよな。
『「なんかウサギ狩りをする、殲滅戦ボーナス!!!!」』
筐体から爆音が轟いたが、ワケ分かんな過ぎてステージアナウンスを聞き届けることができなかった。――俺は何をすればいい!?
つーか!!
約1/349.9のあとに、また抽選!?
正気か?
ちなみに【スペシャルタイム(ST)】に突入できる可能性は、55%だ!! 絶望か?
あ、またボタン押すの!?
はい!!
――なんか金色に光ってない!?
分からん、なんか、ビカビカし過ぎて意識にイマイチ届かん!?
はい!!
あと一回かな? ――ボタン長押し!??
ウワーーーなんかパワー溜めてる!! ――チットモ溜まらん!! 駄目だこりゃ、今回はとりあえず駄目――――
「アル・シャマク」
――最初に感じたのは『恐怖』だった。
今まで押していた筐体の馬鹿デカいボタンが、少女の声と共に救急車のサイレンよりも耳を劈く轟音を上げて、勢い良く、ガクンと下に沈み込んだのだ。
なに!??
怖い…………。
「チョウ・ゴーヨクボーーナス!!!!」
ポピホピーーーーーーーーーーーーーーーポピホピーーーーーーーーーーーーーーーー。
どんな暴走族でも上げないようなバチバチパラッパラーな音を立てながら、アナウンスが告げた。
そして始まった【スペシャルタイム(ST)】――。
「レディー? ――ゴーーー!!」
……さて。
申し訳ないのだが、その時のことを詳細に話すことが、私にはできない。
なんかもう、脳を裂くようなものスゴイ騒音に当てられて、そのときの記憶が曖昧なのだ。
ただ……【大当たり以上の大当たり】、3000玉を取得できるシーンが一度あったことだけは覚えている。
結構な時間、【スペシャルタイム(ST)】が続いて、そして終わったときに見てみれば――私の【持ち球】は7000玉以上を記録していた。
7000玉……。
…………。
ここでまた解説。
パチンコは、盤面中央の液晶に表示される数字や図柄を揃えることで、揃えた役柄の価値に応じた報酬として、プレイヤーに大量のパチンコ玉が贈呈される仕組みになっている。
【リゼロ2】は初当たりで1500玉、そして私はSTでその数を7000玉以上まで増やしていた。
パチンコの玉は。
一玉4円である。
そしてパチンコの玉を特別な景品と交換して、特別な場所でその景品を売ると、取得したパチンコ玉の数と”【等価】”の日本円が手に入るのだ。
迂回的な換金方法についての法律的なアレコレは有名であるので、端折るとして。
等価。
一玉、4円
7000玉+α
私の手には、2万9千円が握られていた。
1万2千円使った。
つまり――1万7000円の収支?
たった、数時間、あそこにただワケも分からず座っていただけで……?
「…………???」
動転しながら、その日はそれで帰った。
残念ながら、小説の資料に必要な、金を決定的にスったジャンキーなギャンブラーの心情は、計り知れなかったな……。
…………。
1万、7000円……。
私は……。
私は……勝った……?
ワケも分からないまま、私は帰ったのだった。
しかし心配ご無用だ、壱里くん。
君はその僅かひと月の後に、最悪の破滅を体験することになる。
そう、””想像以上に闇深かった破滅””を。
心配ない、ジャンキーな破滅的ギャンブラーの気持ちは、よくよく理解できることとなるだろう。
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