表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣の席は二周目の彼女 ~二度目の一年生~  作者: 有希乃尋
第1章 二周目は友達を作ろう!北条さん!
8/25

第8話 本当の理由

次の日、僕が登校すると、北条さんは普通に席に座って本を読んでいた。

いつものように凛とした、涼しげな表情であり、そこから何かを読み取ることはできない。


僕はすぐにでも昨日の話し合いがどうなったか聞きたかったが、もしあっさりと『通信制の高校に行くことになったよ。今日でお別れだね。』と答えられたらどうしようと思うと怖くて話しかけられず、そのまま北条さんの隣の席に静かに座った。

昨日から胃の上に重りが乗っているようで苦しい。


授業中も集中できず。授業の内容もあまり頭に入ってこなかった。

そのせいか授業時間も休み時間も飛ぶように過ぎて、あっという間にお昼の下校時刻になった。


今日は土曜日だからお昼休みもない。一緒にお弁当を食べることもない。

早く声をかけないと聞くチャンスがない、でも怖い・・・と思っていると、北条さんの方から近づいてきた。


「この後、時間あるかな。時間があるなら一緒に東南寺のあたりを歩かない?」

「はい・・・。ぜひ・・・。」


そのまま北条さんと一緒に学校を出て、学校の南側にある東南寺の境内に向かった。

東南寺は平安時代から続く由緒あるお寺であり僕たちの高校と隣接している。

いや、むしろ僕たちの高校が東南寺の広大な敷地内にあると言った方が正しい。僕たちの高校は東南寺によって創立された学校に源流がある。

噂によると、僕たちの高校の校舎は、その昔、東南寺に代々伝わる国宝を売り払って作られた資金で建てられたとか・・・。


「まだ5月の終わりだけど、もう夏みたいな日差しだな。日焼けしちゃうとヤダな~。」

「はい・・・。」


普段だったら、『じゃあなんでわざわざ外に誘ったんですか!』とツッコむのだが、緊張で口の中が渇きすぎて言葉が出てこない。


「ちょうど日陰がある。このあたりで座って話そうか・・・。」

「はい・・・・。」


僕たちは、ちょうど屋根の庇が太陽を遮り、日陰になっている宝物殿脇の階段に並んで腰を下ろした。

目の前には瓢箪型の池が、その右には五重塔があり、普段なら壮観を楽しめる特等席だ。


でも、僕はこれから何を言われるのか心配でうわの空であり、景色を楽しむ余裕はまったくない。

ただ、隣に座った北条さんの美しい凛とした涼しげな横顔を見ながら、そこからどんな言葉が出るのか、判決を待つ被告人のように静かに待った。


そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、北条さんは意外な言葉から口火を切った。


「ありがとう、うれしかったよ。昨日母に言ってくれたこと。」

「ああ、ええすみません・・・。大声で恥ずかしいこと言ってしまって。」

「いや、心から嬉しかったよ。ほら、わたしと一緒に高校二年生になって、三年生になって卒業したいって言ってくれたじゃない。あれは君の本心と思っていいのかな?」

「ええ、もちろんです。それで・・・話し合いはどうなったんでしょうか?」


苦しさをこれ以上我慢できず、僕の方から結論を促すと、北条さんはフフっと笑って、五重塔の方を見上げた。


「君の熱意が通じたんだろうね。母が一学期だけは様子を見てくれるって。一学期のうちに、わたしがこの学校で留年せずにやっていけると証明できたら、この学校に残ってもいいってさ!」


その瞬間、心の上の重りが取れて一気に脱力した。


「よかった・・・。本当によかった・・・。」

「ええ?なんだ泣きそうじゃないの。わたしが学校に残るのがそんなに嬉しかったのかな?まあ、君にとって唯一の友達だもんね。でも、安心できないよ。一学期の間に、わたしがこの学校で留年せずにやっていけることを証明しなくちゃならないし。結局、寿命が少し延びただけと言えるかもしれないな~。」


一瞬、『なんでこの人はそんな他人事みたいなんだ』、『なんで僕がこんなに心配しなきゃいけないんだ』、『あと北条さんこそ他に友達いないじゃないですか!』 といった言葉が次々と脳裏に浮かんだが、もうそんなことどうでもいい。そう思えるくらい嬉しかった。


「大丈夫ですよ。北条さんが今と同じようにきちんと毎日学校に来て、真面目に授業を受けていれば、もう留年なんかしませんよ。僕にはわかっています。北条さんが生まれ変わったって。」


うん?・・・と北条さんは少し怪訝そうな顔を向けてきた。


「君、もしかして誤解してない?昨日も少し思ってたんだ。なんでわたしが留年したのか理由を知ってるの?わたしは話してないよね?どんな理由だって思ってるの?」

「えっと・・・それは・・・あまり僕の口からは・・・・。」


北条さんはやれやれだぜという表情で肩をすくめた。


「やっぱり誤解してるね。おおかた、噂で流れているような、去年、わたしの異性関係が乱れに乱れて、そのせいで学校から足が遠のいてしまって留年したって噂を信じてるんでしょう?だから誤解してあんなことを言い出したのね。」

「はい。あっ、いえ、僕は、そんな噂、全然信じてませんよ。去年の北条さんを直接見たわけじゃありませんが、今の北条さんを見ていればわかります。北条さんの異性関係が乱れていたなんてことあり得ません。そんなの大ウソだってすぐにわかります。だからちゃんとした理由があったんですよね?」


「いや、そっちじゃないのよ・・・・。誤解しているのは、そっちじゃなくて、わたしが学校から足が遠のいた結果、留年したっていう噂の後半の方で・・・。」

「どういうことです?」

「わたしは、去年はクラスでも学校でもいろいろあったのは事実よ。だけど、それでも無遅刻無欠席の皆勤賞だった。授業も今と同じように真面目に受けていたわ。」

「えっ?話が見えませんが・・・。じゃあどうして留年したんですか?」

「つまり・・・あれよ・・・あの・・・定期テストで2回連続全科目赤点を取って・・・追試もクリアできなくて・・・・。」

「無遅刻無欠席の皆勤賞で授業も真面目に受けていたのに、全科目赤点・・・しかも追試も落ちたですって・・・・?」

「恥ずかしながら・・・。」


あれっ?じゃあ・・・?


「お母さんが学校に合わないから通信制でマイペースに勉強した方がいいって言っていたのってもしかして・・・。」

「そう。生活面じゃなくて、わたしの学力じゃあ、この学校についていけないと思ったみたいで。特に今回の中間テストの成績が最悪だったからさ~。二回目でもこんな成績しか取れないんだったら、もう退学させるなんて言われてね。」

北条さんは何がおかしいのか、自分の言葉にケラケラ笑いだした。


「中間テストの結果はどうだったんですか?さすがに二周目だからそこそこの点は取れたんですよね?」

「いや・・・あの・・・実は全科目赤点で、平均点は10.5点でした・・・てへっ☆」

「てへっ☆じゃないですよ!!ぶっちぎりの最下位じゃないですか!『一度同じ範囲のテストを受けて、傾向もわかっているんだから、高得点を取れなきゃおかしいでしょ。満点を期待されてもいいくらいだよ』とか、大口叩いていたのはどこの誰なんですか!」

「よく覚えてるね。いや、あの時はできると思ったんだよ。でも、あれだね。やっぱり二周目でもできないものはできないね・・・ハハハッ!」

「あれっ、ちょっと待ってください。もしかして一学期のうちに留年せずにこの学校でやっていけるってお母さんに証明するってことは・・・・。」

「そう、期末テストで赤点を取らないか、又は夏休みの追試をクリアすることが必要だね。あっ、追試になった段階で一学期終わってるから、もう遅いか~。いや、これは盲点だったな~。ハハハッ!」

「ちょっと、それ無茶苦茶ハードル高いじゃないですか!いや、普通の生徒には大して難しくないですが、北条さんには竹取物語レベルの無理難題ですよ!!どうしてそんなに楽観視できるんですか!もっと危機感を持ちましょうよ!」


「いや、だってさ・・・・。」

北条さんは自分の唇に右手の人差し指をあてると、僕の方を見てニヤリと笑った。


「君が支えてくれるんでしょ?『もしも躓きそうになったら僕が支えになります。』だっけ?母がいたく感動していたよ。あれだけ力強く断言したんだから、きっと君ならわたしを支えて、わたしの成績を上げてくれるって・・・。」


そういう意味で言ったわけでは・・・・と言いかけたところで、北条さんは右手の人差し指で僕の唇に触れて僕の言葉を遮った。


「フフッ、期待しているよ。慎太郎。これからもよろしくね!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ