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隣の席は二周目の彼女 ~二度目の一年生~  作者: 有希乃尋
第1章 二周目は友達を作ろう!北条さん!
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第6 話 アンズよりウリが安い

「さて、今日はどの作品の話をしようか・・・・。」

「そうですね・・・・。」


5月の連休明け、僕はいつもと変わらず、北条さんと2人で机をつけて向かい合ってのランチタイムを迎えていた。北条さんとの話題も変わらずハードボイルド小説やスパイ小説ばかりだ。よく1か月もネタが続くな・・・。


一見すると入学したばかりの頃と状況が変わっていないように見えるかもしれない。

しかし、ただ一つ大きく変わったことがある・・・。

そう、北条さんだけでなく、僕もクラスで完全に孤立したのだ。


4月の中旬までは順調だった。

文芸部に入部したことは好手だったようで、北条さんは、部活動を通じて渡辺さんとの距離を縮め、教室でも挨拶をしたり、軽く会話をするようになった。

それを見た周囲の女子も北条さんへの警戒心を徐々に緩め、他にも北条さんへ話しかける人もちらほら見られるようになった。4月の後半には、学校行事で高野山に合宿に行ったのだが、北条さんは割り振られた班のメンバーとも大過なく付き合えていた様子だった。

このまま順調に進めば、僕がお役御免になる日もそう遠くないだろう・・・。


しかし、僕のそんな観測は甘すぎた。

高野山合宿から戻ったあたりから、クラスのみんながまた北条さんに対してよそよそしくなり、むしろ明らかに距離を置き始めたのだ。


桜森くんに相談すると、どうやら北条さんについて悪い噂が広まっているようだった。


「北条さんは、異性に関する倫理意識が欠如していて、次から次へと、しかも同時に何股もかけて男子と交際し、友達の彼氏を奪い、学外でも風紀紊乱を極め、そのせいで留年した。」 


桜森くんも含めた複数の生徒が、部活の先輩などからそういった話を聞かされたらしい。

その噂はクラス内でも、他クラスでも一気に広まったそうだ。

大人しい生徒の多いこの学校で、距離を置かれるには十分な理由だ。


僕は噂をなんとか鎮めようと強く抗議した。


「そんなわけないじゃん!桜森くんも、北条さんの人柄を見ていればわかるでしょ!男子と話すことだって避けようとするような人だよ!」

「いや、二宮の言う通りだと思うよ。僕もこの噂は事実じゃないと思う。でも噂は下手に否定すると火に油を注ぐだけだから、下手に反論したり、弁解するんじゃなくて、みんなが関心を失うのを待つしかないよ。」

「・・・・・・・・。」


しかも、この頃から僕に対しても、クラスの内外で無遠慮に視線を向けたり、こそこそと噂話をする生徒がチラホラ見られるようになった。

毎日一緒にお昼ごはんを食べ、二人だけで話していることも多い僕は、きっと事情を知らない他人からは、北条さんの風紀紊乱の相手の一人に見えるんだろう。


僕が平穏な高校生活を営もうとするのであれば、僕も他の生徒と同じように北条さんと距離を置いた上で、僕への関心が薄れるのを待つ方が得策であることは理解している。

でも、それをやってしまったら、あいつらと一緒になってしまう。中学の時、心無い噂を信じて、手のひらを返すように僕から距離を置いて、孤立していても何の手も差し伸べてくれなかった、大嫌いなあいつらと・・・!


だから、僕は、孤立することになっても構わず、意地でも北条さんと一緒にいることにしたのだ。

そんな僕の決意に気づいているのかどうか・・・・北条さんの僕への態度はこれまでとまったく変わらない。その、いつも凛とした涼しげな表情からは何を考えているのか読み取れない・・・。


「そういえば、わたしが貸した『さらば愛しき人よ』は読み終わったの?早く読み終わってくれないと、ネタバレを気にせずしゃべれないじゃないの。」

「すみません。なかなか忙しくてまだ・・・。ほら、来週から中間テストがあるじゃないですか。この学校は生徒のレベルも、授業のレベルも高いから心配で、連休中からずっと準備しているんです。」

「大丈夫だよ。定期テストなんて授業で教わった範囲からしか出題されないんだから、普通に授業を受けていれば問題ないよ。」

「いや、でも不安で・・・。特に、僕は、親にわがままを言って高い交通費を出してもらって遠方のこの高校に通わせてもらってるので、みっともない成績では申し訳なくて。しかも中間テスト終わったら、親を呼び出した保護者会があるじゃないですか。そこで先生から親に厳しいことを言われたらと思うと・・・。」

「定期テストくらいでおおげさだな~。アンズよりウリが安いと言うだろう。」

「言いませんよ。どこの八百屋ですか?でも、北条さんは余裕そうですね。何か特別な対策をしているんですか?」

「対策なんかしてないよ。いつも授業を真面目に受けるくらいかな。まあ、わたしは二周目だからね。一度同じ範囲のテストを受けて傾向もわかっているんだから、高得点を取れなきゃおかしいでしょ。満点を期待されてもいいくらいだよ。」

「ああ、そうでしたね。うらやましい・・・というと語弊がありますが、たしかにそれなら余裕があっても不思議じゃないですね・・・。」

「あんまり心配し過ぎないことだね。初めての定期テストであることは、君だけじゃなくみんな同じなんだから、不必要に自分にプレッシャーをかける必要はないよ。まあ、わたしだけ二回目なんだけどね。ハハッ。」

「そういってもらえると心強いです。」


とはいえ、努力型の僕としては、当面は読書時間を返上して、一生懸命勉強を頑張らないと・・・。



二週間後、中間テストの結果を返された僕は胸をなでおろした・・・・。


「よかった。平均点も中央点も超えてる。まあまあな成績が取れた。」


この学校では、成績順位表を貼り出すといった非人道的なことはしない。

それどころか、本人にすら順位を伝えない。

ただ、全生徒及びクラス毎の得点分布表、平均点、及び全生徒数のちょうど中間となる点数である中央点のみが伝えられ、各生徒はそれと自分の得点を比較して、自分のおおよその立ち位置を把握する。


ただし、もちろんみんな他の人の立ち位置には関心はあるので、クラスのあちこちで得点を探りあっているようだ。


「二宮、見た?今回の全体最高得点取った生徒、うちのクラスだって。誰だろ?もしかして二宮?他のめぼしい人には全員聞いたけど、みんな違うって言うんだ。」

優しい桜森くんは、孤立した僕にも気を遣って点数を聞いてくれたようだ。


「まさか!中央点をやっと超えたぐらいだよ。桜森くんじゃないの?」

「いや、僕も自信があったんだけど、得点分布表によると、1位の生徒はほぼ満点らしいよ。そんなのとても及ばないって!」


確かに得点分布表によると、1位の生徒は、100点満点に換算した平均点が95.5点、2位になんと10点以上の差をつけてぶっちぎりで独走している。

ちなみに最下位は平均10.5点だからなんと85点差もある。

しかし、授業を見ている限り、このクラスにそんな群を抜いた秀才がいたなんて思い当たらないが・・・。


「あ!もしや!」

「心当たりあるのか?」

「いやいや、なんでもない・・・。」


たしか、二周目だから高得点を取っても当たり前とか言ってた人がいるぞ!満点でもおかしくないって。

それだったら納得だ。でも、それを手放しに称賛するのもおかしいよな。変に注目を集めてもよくないし・・・。

ここは触れないでおくか。


そう思いながら北条さんの方を見ると、北条さんは、喜びを見せるどころか、テストの結果にはまったく関心がない様子で、もう結果表を机の中にしまいこんで、いつもの凛とした涼しげな表情で、席に座って読書をしていた。


さすが!態度が余裕過ぎる!!


こんなに頭が良いのに留年するなんて、やっぱりあの噂は・・・。

いやいや、僕が無責任な噂に振り回されてどうするよ!


でも、いったい何があったのかな・・・。


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