第4話 部活動を始めてみよう
今日の体育は持久走。女子1500m、男子3000mである。
前半の女子持久走では体育係としてタイム計測係をおおせつかっている。
「おおっ、北条さん早いな。400mトラック一周目で早くも後続を引き離して独走してる。タイムは・・・えっ?1周目80秒?これ相当早くない?」
北条さんは真剣な表情で激走してる。全力を出しているようで、早くも息が苦しそうだ。
意外!持久走とか、だるい~とか言って手を抜きそうなタイプだと誤解してた。
「がんばれ~!!」
あっ、しまった。思わず大声を出しちゃった。恥ずかし~!
あっ、北条さんが気づいてこっち見てニヤリと笑ってる・・・取り消したい・・・。
「頑張れ~!!」
あっ、助かった。隣で手伝ってくれている桜森くんが続いてくれた・・・。
後続の女子も桜森くんの方しか見てないし。助かった・・・。
桜森翔太くんは、リーダーシップのあるクラス委員。長身でさわやか、勉強もできる。しかも中学のときはテニスで全国大会に出場したことがあるらしい。
うらやましすぎる完璧超人・・・。
僕も、桜森くんみたいなさわやかイケメンだったら、もっと楽しい学生生活だったんだろうな・・・。
「二宮くん、いま北条さんに声かけてたよね。普段も一緒のこと多いし、仲いいよね。」
ああ、桜森くんには気づかれてたか・・・。でも誤解を解いておかないと。
「いや、北条さんはクラス全員と仲良くなりたいみたいで、たまたまその一人目が僕だっただけだと思うよ。ほら、一人目に登場する敵キャラはだいたい一番雑魚だし。」
「ハハハッ!!なんだよそれ、二宮って難解なボケをするタイプだったんだ。」
よかった。桜森くんのツボにはまったようだ。まったく笑わせる意図はなかったが・・・。
「俺もずっと北条さんに話しかけてるんだけどさ、いつも無視か、よくて塩対応だよ。二宮が仲良くなるきっかけとかあったの?」
北条さんが校舎の隙間に挟まって立ったままお弁当を食べている姿を目撃したからです・・・とは言えない。
「あ~、そういえば北条さん。男子と話すことを避けてるって言ってたから、そのせいじゃない?」
「ハハッ、ハハハッ・・・。また強烈なボケを入れてくんな。じゃあなに?二宮は男子じゃないのかよ!二宮って面白い奴だったんだな!」
笑っていただけたようで何よりです。まあ、北条さんには、本気で男子としてカウントされていないとは思うが。
「ところで、あのさ。北条さんって部活入ってるのかな?」
「いや・・・いつもハードボイルド小説の話しかしないから・・・。たぶん入ってないと思うよ。」
「じゃあさ、今度テニス部の見学に来るように誘ってくれない?ほら、教室では塩対応だけど、もし北条さんが同じ部活に興味を持ってくれたら距離を縮められるかもしれないしさ。」
えっ?ええっ?そうなの?
こんなさわやかなイケメンなのに、わざわざあの北条さんを・・・?
まあ、個人の趣味に口を出すのはよくないな・・・。蓼食う虫も好き好きというやつか。
「ああ・・・うん。わかった。聞いてみるよ。」
「じゃあ、頼んだよ~!!」
あっ!ぼんやり話してたら、いつの間にか先頭の北条さんがゴールしてる!
どうしよう、タイム見てなかった。まあいいか、北条さんは1周目が80秒だったから、それをだいたい3.5倍くらいすればいっか。
速めのタイムを書いて先生に提出しておけば文句言う人いないでしょう。
それにしても部活か・・・。たしかに北条さんとクラスメートの距離を縮めるには良い方法かもしれない。
★★
「じゃあ、今日のランチタイムは『血の収穫』の話でもしようかな・・・。」
今日も二人で机を合わせてお弁当タイム。もはやお昼のお弁当を北条さんと食べることは完全に定着してしまっている。
でも、さっきの桜森くんの話をするには絶好のタイミングだ。
「わあっ!北条さん。面白そうな話ですね。それはともかく、北条さんって部活入ってます?よければ放課後に見学に行きませんか?」
「部活か・・・。」
「ちょうどテニス部を見に行こうと思ってたんですけど、一緒にどうですか?」
「テニス部はダメよ!」
「えっ?なんでですか?」
「実は・・・去年までテニス部に入ってたんだけど、退部してしまったのよ。」
「ああ、それなら仕方ないですね。でも、何で退部したんですか?北条さん、運動神経良さそうだから、活躍できそうじゃないですか。」
「いや・・・あの・・・二周目に入ることが決まって、それで同級生が全員先輩になることになって・・・。ほら、体育会の部活って上下関係があるじゃない。元同級生が後輩でいると指導とかやりづらいって言われてしまって・・・。」
「マジなやつでしたか・・・・。変なこと聞いてすみませんでした・・・。お詫びにこの玉子焼を食べてください。」
「気にしてないし、君も気にしなくていいよ。玉子焼はもらうけどね。でも、新しい部活というのはいいアイデアだね。部活に入って仲の良い友達を増やそうという作戦でしょう?君はどの部活に入るつもりなの?」
「ああ、テニスというのは思い付きで、実はあんまり考えてなかったです。まあ帰宅部にしようかな・・・。」
「帰宅部はダメよ!」
北条さんが玉子焼きをもごもご食べながら、バシッと箸を突き付けてくる。
いろいろお行儀が悪いからやめてほしい。
「えっ、なんでですか?実は帰宅部も退部した過去があるとか?」
「そんなわけあるか!いい!先輩として忠告しておくわ。この学校の帰宅部は厳しいのよ。甘く見て、安易に帰宅部にすると痛い目をみるわよ。」
「ええっ?どういうことですか?詳しく聞かせてください。」
北条さんの顔が急にシリアスになった。もしかしたら部活に入らないと何か大きな不利益があるのかもしれないと思い、固唾を飲んで北条さんの次の言葉を待った。
「この学校では、テスト期間中、例外なくすべての部活動が禁止になるのよ。」
「ああ、中学でもそうでした。しかしそれが何か?」
「テニス部はテニスが禁止され、野球部は野球が禁止され・・・・、つまり帰宅部は帰宅が禁止されて、ずっと学校に残らなければならないのだよ!」
「・・・・・はいはい。真面目に聞いて損しました・・・。」
「ちょっと!またわたしに恥をかかせたわね!早くも3回目だよ!いったい何度恥をかかせば気がすむのよ!」
北条さんが真っ赤になって箸を何度も突き付けてくる。いや、それ本当にやめて欲しい。
「いや、今のは北条さんが勝手にスベッただけじゃないですか・・・。」
「ぐう・・・。ぐうの音しか出ない。」
「むしろ、ぐうの音を出せる余裕があったんですね。」
「しかし、部活動はいいアイデアだね。今日の放課後に君がどこか文化系のクラブを見学に行くつもりなら付いていってあげるわよ。先輩がいると心強いでしょ?」
「いや、大丈夫です。」
「でも、部活動はいいアイデアだね。今日の放課後に君がどこか文化系のクラブを見学に行くつもりなら付いていってあげるわよ。先輩がいると心強いでしょ?」
「いや、遠慮しておきます。」
「それにしても、部活動はいいアイデアだね。今日の放課後に君が・・・・。」
「いや、・・・って、もういい加減にしてください!素直に言ったらどうですか?」
「・・・・一人で行くのが心細いから付いてきてほしい・・・・。」
「はい。よく言えました。じゃあ、一緒に行きましょう。」
「やったね☆」
そう言いながら、北条さんは僕のお弁当箱から唐揚げを素早く奪い去った。唐揚げをあげたつもりはなかったんだが・・・。