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隣の席は二周目の彼女 ~二度目の一年生~  作者: 有希乃尋
第2章 テストを突破せよ!北条さん!
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第13話 Kiss of the Dragon

その日の放課後、僕と北条さんは授業が終わるとすぐに西園寺さんを拉致し、文芸部の部室へ連行した。もう観念したのか素直についてきてくれた。


「じゃあ、二宮くん、由里子、お話は手短に。そういえば、ここに先生とか先輩とか他の人が来る心配はないの?」

「はい。他にも部員は一人いますが、今日は譲ってくれるようにお願いしてあります。」

「じゃあ、ちょっとタブレットを使うわね。すぐに保存してデータを送らなきゃいけないところがあって・・・。」

「校内にタブレットを持ち込むのは校則いは・・もごっ。」

「もちろんです。」

余計なことを言おうとする北条さんの口をすばやく手で塞ぎ、僕が了解すると、西園寺さんはタブレットとWi-Fiルーターを取り出した。

あれっ、タブレットを起動したときに一瞬、描きかけの絵が見えたけどあれはもしや・・・。


「データをクラウドに保存して送信できたから、話を聞くわよ。15分以内ね。」

「あっ、はい。あの。東原先生から西園寺さんが二周目だと聞いています。二周目なのに学校を休みがちなので、なにか事情があるのかと思いまして・・・。」

「フッ、二周目って、留年のこと?そんなの大した理由はないわよ。留年したことも、わたしが欠席が多いことも・・・。」

「結構大変な話ですよね。あの・・・もしかしてなんですけど、成績不良で悩んでいるなら力になれるかもしれませんよ。僕たちは放課後に勉強会をしているので、もしよければ西園寺さんも一緒に勉強しませんか?」

「ちょっと!ふざけないで!わたしが成績不良なんて心外よ。言っておくけど、わたしは1年目も成績上位だったし、この間の中間テストでは学年トップだったのよ!」

西園寺さんはキッと怖い顔になって睨んでくる。ただ、もともとが小学生みたいな顔なので別に怖くはなく、むしろ背伸びしている子供を見るみたいで微笑ましい。


「えっ!たしか前回の中間テストでトップって、100点満点に換算した全科目平均が95.5点でしたよね。すごいじゃないですか!ほぼ満点ですよ。」

「ふ、ふん・・・それぐらい大したことないのよ。」


あっ、まんざらでもない表情になっている。実は褒められるのが嬉しいのかな?


「ほんとにすごいですよ!素直に尊敬します!いったいどんな勉強法をしているんですか?」

「いや、そもそも二周目?・・・でしょ?つまり、一度同じ範囲のテストを受けて、傾向もわかっているんだから、高得点を取れなきゃおかしいでしょ。むしろ満点でなかったのがおかしいくらいよ。」


あれっ?このセリフどこかで聞いたことがあるぞ。

たしか中間テストの前に北条さんも同じようなセリフで豪語して、結果、学年最下位だったような・・・。


そう思い隣の北条さんの方を見たが、いつものような凛とした涼しげな表情のままであり、何の変化も・・・いや、だいぶ変化してるな。真っ赤じゃないか。しかも唇を尖らせて、口笛を吹こうとしてる。でも、うまくいかなくてスピー、スピーと空気が漏れる音だけさせて。完全に過去の自分の失言に気づいて羞恥してるじゃん。ああ、共感性羞恥で僕も恥ずかしくなってきた・・・。

「・・・・?なんで二人して真っ赤になって照れてるのよ?なんか恥ずかしいこと言った?」

「いえ、お気になさらず。でも、じゃあなんで?そんなに成績よければ、学校に来て楽しいでしょう?あっ、友達ができなくて孤立して、お昼ごはんを校舎の隙間で立って食べなきゃいけなくなったとか?それだったら、僕らと一緒にお昼ご飯を食べるというのはどうでしょうか?」

「ちょっと!この世のどこに、そんな家庭に居場所のないおっさんの夕食みたいなことする人がいるのよ。お昼は別に一人で食べられるから大丈夫。むしろ、やらなきゃいけないことがあるから、ゆっくり友達とお昼ごはんなんて食べてる暇はないの。」

チラッと横を見ると、北条さんの紅潮度合いがさっきより広がっている。

もう耳まで真っ赤だ。すみません。流れ弾を当ててしまって・・・。

でも、おかげでヒントは得られました!北条さんの死は無駄にしません。


「やらなきゃいけないこと・・・。もしかしてそれが欠席が多い理由ですか?」

「まあ・・・そうね。」

「さっき、タブレットを起動したとき、ちらっと『Kiss of the Dragon』のユリーの絵が見えたんですけど、実は僕も大ファンなんです。もしかして、その絵を描いてることが理由だったりします?」

「・・・・そうよ。」

「やっぱり!すごく描き込んであって時間かかってるなって思ったんですよ。構図もオリジナルだし!同人活動をされているんですか?」

「同人じゃない・・・。」

「じゃあ、ファンアートですか?」

「ファンじゃないし・・・。」

「えっ?そんなことないでしょう。あそこまで描き込んでるんだから、絶対に好きですよね。エッチな描写が激しすぎるって意見もありますけど、僕は胸を張ってファンだって言えますよ!!」


僕がそう言うと西園寺さんは横を向き、ぽつりとつぶやいた。

「ファンじゃなくて、作者だから・・・。」

「え・・・?」

「『Kiss of the Dragon』はわたしが描いて月刊連載してるの!」

「ええ~!!!ウソでしょ!えっ?すごい!僕、憧れの作品の作者に会ってるってことですか?握手してください!うわ~うれしい!」

「ま、まあいいよ。君、そこまでのファンだったんだ・・・。」

西園寺さんは、差し出した僕の手を横を向いたまま軽く握ってくれた。しかも、さっきよりもまんざらでもない度が上がっている。親にテストを褒められて照れてる小学生みたいに見えてきた。


「いや~、転生した世界の設定の作り込みが細かくて、しかも絵も精密で、こんな天才いるんだ~って、連載開始当初からずっと追ってました。コミックスも全部買ってますし、移動中に読めるように電子版も揃えてます!すごいですよ、天才作家!ねえ北条さん!」

「??なんの話?まったくついていけてないんだけど?」

「ほら、西園寺さんが、『Kiss of the Dragon』っていう転生ものの名作マンガの作者だったって話ですよ!北条さんも読んでなかったとしても名前くらいは聞いたことありますよね?」

「聞いたことないし。そもそも『転生もの』が何かわかんない。でも、西園寺さんはマンガを描くために学校休んで留年したってこと?それは、さすがにだめじゃない?学生の本分は勉強でしょ?」


いや、言い方!そんな切り捨てるように言わないで!しかもどの口が?せっかくおだてて西園寺さんの機嫌が良くなってきたのに、少しシュンとしちゃったじゃん!

「何を言ってるんですか。『Kiss of the Dragon』と言えば名作中の名作ですから!あっ、ちょうど無料公開版が読めるみたいですよ。僕のスマホで読んでみてくださいよ。」

「さっき移動中も読めるように電子版を全部揃えてるとか言ってなかった・・・?」

「まあ、そういう細かいことはいいじゃないですか、西園寺さん。ほら、ぜひ北条さんも読んでください。ハマりますよ・・。」

「どれどれ・・・。」

北条さんは僕からスマホを受け取って読み始めたが、5ページと読み進まないうちに、スマホを僕の方に放り投げてきた!あぶない!


「な、な、なんだこのハレンチなマンガは!全裸の女が、初対面の男に抱きついていきなりキスしてるじゃないのよ!風紀を乱す!汚らわしい!」

北条さんは真っ赤になって手のひらで顔を覆っている。

「どの話を読ませたの・・・?あ~、これか~。」

西園寺さんが僕の手からスマホを奪って画面を一読すると、納得したようにうなずいた。

僕が読ませたのは、ファンの中でも神作の誉れ高い、サキュバスのユリーが登場するシーンだ。主人公のパーティーの前に突然現れた敵か味方かわからない美女のユリーは、豊満な肉体と色香で突然主人公に迫り幻惑したと思えば、何の脈絡もなく主人公の仲間も次々と誘惑し、仲間割れを起こさせたりするなど行動が自由で謎の多いキャラであり、作中人気一位である。もちろん僕の最推しキャラだ。


北条さんは、まだショックが収まりきらないという様子で、小刻みに揺れながらせわし気に髪をかきあげている。

その様子をみて、西園寺さんがニタリと悪い笑いをした様子が目の端に入った。

「由里子、知ってる?そのユリーってキャラ、由里子をモデルにしてるんだよ。」

それを聞いて北条さんはピタリと動きを止めて、目を見開いて西園寺さんを呆然と見つめた。

「わたしはこんなにも、はしたなくない・・・。」

「何言ってるのよ・・・。次から次へとクラスの男子をとっかえひっかえしたり、しかも何人か同時並行で付き合ったせいで男子同士で取っ組み合いのケンカになったり、彼氏をとられた女子もいて、最終的にクラスの女子全員から吊るし上げられたり。ユリーのエピソードのほとんどは由里子の実話をモデルにしてるのよ。」

「そんなのウソよっ!!」

「ウソなものか!わたしが密かに憧れていた木ノ内くんの末路を忘れたのか!この淫乱め!」


ああ、聞きたくなかった。

いや、正直、北条さんの男性遍歴の話は想定の範囲内だけど、まさかユリーのモデルとは・・・僕の推しキャラが汚されてしまう・・・。もうこれからノイズが入っちゃって、純粋な気持ちでユリーを推せないよ・・・。

これ以上聞くのは嫌だから、しばらく耳ふさいで、あーあーって言っておこっと。

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

あっ、口論が落ち着いたかな。どうやら西園寺さんの勝利みたい。北条さんが燃え尽きたボクサーみたいになって椅子に崩れ落ちてる・・・。じゃあ、ころあいだし本題に戻そう。


「いろいろありましたけど、つまり連載マンガ家として、マンガを描く時間を確保するために欠席を重ねていたというわけですね。でも、出席日数とか計算しなかったんですか?」

「そう、この学校は70日以上休むと留年になってしまうから、去年は細心の注意を払って69日だけ休むように計画していたんだけど・・・。」

「だけど・・・・?」

「3月の最後にギリギリの進行になって、それでも何とか徹夜で仕上げて間に合ったと思ったら・・・。」

「思ったら?」

「全部夢で起きたら原稿は終わっておらず、学校は終わっていた・・・と。」

「ご愁傷さまです。」

「だから先生に言っておいて。今年は同じ過ちはしないと。完ぺきな計算で69日だけ休むって!じゃあそういうことでいいかな。」

西園寺さんは、そう言い捨てると、これで話は終わりとばかりにタブレットやルーターをカバンにしまい始める。


「待ってください。でも、それって危なくないですか!去年みたいに計算外のことは当然起こりますよね。同じ轍を踏まないように、余裕をもって学校に来た方が・・・。」

「学校に来ていたら原稿が終わらないのよ。学校ではタブレットの使用が禁止でしょ?授業中はともかく、休み時間も。タブレットがないとネームもできなければ、作画もできないから休むしかないのよ。」

う~ん、たしかに。西園寺さんの進級も大事だが、『Kiss of the Dragon』が休載になるのも嫌だし、なんとか両立できる案は・・・。そうだ!


「西園寺さん、文芸部に入りましょう!」

「アホか!時間が足りないって言ったでしょ!脳みそミジンコなの?」

西園寺さんは怪訝そうな表情で悪態をついてくる。見た目は子ども、頭脳は大人(?)なのに意外に遠慮ない。


「いえ、だからこそです。見てくださいこの部室。ここだったら邪魔が入らず学校で休み時間とかに作業できますよ・・・。」

「むむ・・・。」

西園寺さんはピタリと動きを止めた。

「しかも、もしよければ東原先生を通じて交渉して、学校側とタブレットの使用許可を取りますよ。文芸部の作品作りに必要とか何とか言って・・・。」

「むむむ・・・。」

西園寺さんは顎に手を当てて思案する表情になった。

「それでこれまで家で作業していた時間の一部を学校に充てれば、きっと余裕をもって通学して進級できますよ!」

「むむむむ・・・。魅力的な案だが、貴様がただでそんなことを言い出すはずがない!きっと何かたくらみがあるはずだ。」

「フフッ。大したことじゃないですよ・・・。学年トップの西園寺さんに、ぜひ北条さんが次の期末テストで赤点をとらないようにする秘策をご指南いただきたいだけです。西園寺さんは、地頭もいいでしょうけど、それだけじゃ満点は取れない。きっと何か秘策があるんでしょ?」

僕が口の端だけで笑いながら西園寺さんの方を見ると、西園寺さんの視線が揺れている。

「いや、でも由里子に協力するのはちょっと・・・。でも・・・。」

おっ、悩んでいる!可能性があるかも。じゃあ、ここは北条流交渉術でもう一押しだ・・・。でもこういう場面でどう交渉するかは聞いてないな・・・。いや、あの人の弱みを見つけるのがうまい北条さんならきっとこう言うはずだ!

「西園寺さん、知ってますか?」

「何を?」

「この学校はバイト禁止なんですよ。もし西園寺さんが引き受けてくれなかったら、僕は東原先生にすべて事実を話してしまうかも・・・。そしたら連載は・・・。でも、西園寺さんが協力してくれたら、僕たちは一蓮托生。僕は決して仲間を売るようなことはしませんよ!」

僕は悪い笑顔を作った。普段、北条さんがたまに見せる表情を意識しながら。


「むむむむむ・・・わかった・・・引き受けよう・・・。」

西園寺さんはそのままがっくりとうなだれた。


「ありがとうございます!」

やった、やった!北条流交渉術の勝利ですよ!見ていてくれましたか!


僕がピースサインをしながら横を見ると、北条さんはまだ椅子の上にへたり込み、真っ白に燃え尽きたままだった・・・。


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