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隣の席は二周目の彼女 ~二度目の一年生~  作者: 有希乃尋
第2章 テストを突破せよ!北条さん!
12/25

第12話 カサブランカの砂嵐

「ターゲット来ました!」

「来たわね。じゃあ次の休み時間に、コードネーム『カサブランカの砂嵐』を実行よ!」

「了解しました!コントローラー!」


東原先生から西園寺さんの欠席の秘密を探り、解決するという丸投げミッションを受けてから数日後、それまで欠席を続けてきた西園寺李衣菜さんがとうとう登校してきた。

これまでちゃんと姿を見る機会はなかったが、小柄で童顔で艶やかな黒髪を後ろで無造作に束ねていて、ぱっと見だと中学生、いや小学生と間違えてもおかしくないくらいかわいらしい。本当に年上なんだろうか・・・。


僕と北条さんは、かねてから綿密に打ち合わせ、練り上げた作戦コードネーム『カサブランカの砂嵐』(北条さん命名)を実行することにした。

『カサブランカの砂嵐』の概要はこうだ。西園寺さんが登校してきた日に、僕が西園寺さんにさりげなく話しかけて、不登校の理由を探る・・・。

いや、冷静に考えると内容が薄いな。しかもどのあたりが『カサブランカ』で、どのへんが『砂嵐』なのか?と思うが、このあたりはスパイ小説を嗜む北条さんの趣味を尊重した。

スパイっぽいやりとりも、全部北条さんの希望によるもので、僕はしぶしぶ付き合わされている。


「西園寺さん、はじめまして。二宮慎太郎といいます。少しお話していいですか?」

1時間目の後の休み時間、僕は、作戦に従い素早く西園寺さんの席に近づくと、北条さんと練習を重ねて、ようやくぎりぎりの及第点がもらえたフレンドリーな笑顔を浮かべ、かねてから練り上げたセリフを言った。

ここまでは作戦通りだ。

西園寺さんは、僕の方をチラッと一瞥した。

その表情にはあどけなさを感じる。


「お話を聞いている時間はありません。」


おっと、これは予想外の事態発生。

まさか導入部分で切られるとは。しかしこのまま突っ切るしかない。


「いや、すぐに済みますので。最近学校を休みがちみたいだけど、どうしたのかな~って。」

「それ、あなたに関係ありますか?じゃあ失礼します。」

そういうと、西園寺さんはカバンを持ち、急ぎ足で教室を出て行ってしまった。


「コントローラー、すみません。全力は尽くしたのですが作戦失敗です。」

「全然ダメ!!」

近くの机に座りながらコントローラーとして逐一状況を観察していた北条さんは、とぼとぼ帰ってきた僕に対して、右手の人差し指を突き付けながら努力を全否定してきた。


「でも、まったく取り付く島がありませんでしたよ。あそこから説得するのは無理です。」

「もっと交渉術を駆使して会話のペースを握らないと。まずは有無を言わせずに会話に巻き込み、自分の要求を聞かざるを得ないように誘導するのよ。スパイ失格だわ。」

「そんな・・・。そもそもスパイになったつもりはないんですが・・・。」

「言い訳ではなく、結果で示すのがプロフェッショナルよ!!」

机の上に座って足を組み、腕組みをし、ふんぞり返って偉そうな態度で勝手なことを言っている北条さんを見ていると少しイラっとしてきた。

今も人見知りをこじらせて、クラスメートにすらろくに話しかけることができないくせに・・・。


「そこまで言うなら、北条さんがお手本を見せてくださいよ。ほら、いつぞや渡辺さんに話しかけた時は、僕がうまくお手本を見せたじゃないですか。」

「フフン、見ていなさい!キャリアの違いに度肝を抜かれるから。」


北条さんはニヤリと笑い自信ありそうな様子だ。

でも、キャリアの違いってなんだろう?北条さんは本当にスパイ活動しているの?


結局、西園寺さんは授業が始まるギリギリまで戻って来なかったので、次の二時間目の後の休み時間に北条さんがトライすることになった。

休み時間が始まると、北条さんは素早く西園寺さんに駆け寄った。

今回は僕がコントローラーとして後方からお手なみを観察させてもらおう。


「西園寺さん、わたしのことは知ってるわよね。」

「ええ、北条由里子でしょ。去年も同じクラスだったし。」

西園寺さんは座ったまま、北条さんの方をろくに見もしない。


「単刀直入に言うわ。あなたのせいで困ったことになっているの。」

「ええっ?いきなりなに?」

北条さんの急にトーンを抑えた口調に、西園寺さんが思わず振り向いた。


「あそこにいる二宮慎太郎くん、東原先生から、あなたについて話を聞いてくるよう命を受けているのよ。」

「それは、さっき彼に直接話したけど、彼には関係ない話よね?」

西園寺さんは、また北条さんから目をそらして自分のカバンの中に目を移そうとしたが、北条さんが素早くまわり込み、西園寺さんの顔を覗き込んだ。


「ええ、そうね。でも逆に考えてほしい。あなたのせいで、彼は自分には関係のない面倒な仕事を抱え込むことになっているのよ。あなたのせいで関係ない生徒が問題を抱えることになっても、あなたに関係ないって言える?」

「それは・・・なんかごめんなさい。」

語りかけるような口調に、西園寺さんの表情も変わってきた。


「いえ、責めるつもりじゃないの。謝る必要はないわ。ただ、あなたの話なんだから、あなた自身にも少しは協力して欲しいっていうだけなの。だから、今日の放課後に少し時間をとってもらえるかしら?」

「えっ、わたし今日はあまり時間がないのよ。だから・・・。」

西園寺さんの返答にかぶせるように、北条さんが早口で一気にまくしたてる。


「そんなに時間はとらせないわよ。それに、今日対処しなければ、彼は、これからもずっとあなたにしつこくつきまとうことになるわよ。それは嫌でしょ。だったら、今日少しだけ時間をとってすっきり問題を解決してしまった方がいいんじゃないかしら。」

「そうかな・・・。」

北条さん、さらにまくし立てる。


「絶対にそうよ。考えてごらんなさい。これからあなたが学校にいる時間ずっと彼に拘束されるよりも、一回、ほんの10分から15分くらい時間を取った方がずっとタイパがいいでしょ。」

「はあ・・・。」

「じゃあ、放課後に迎えに来るから、待っててね。」

一方的にそう言って返事を待たないまま、北条さんは僕の方に戻ってきた。

ものすごい得意満面の笑顔でピースサインしながら。


「どんなもんよ!」

「正直驚きました。確かにキャリアの違いを感じる交渉術です。もしかして、1年生の授業で交渉術とか習うんですか?北条さんは去年のクラスでそれを履修済みとか?」

「違うわ!わたしが二周目であることをさりげなくイジらないでよ!よく読むスパイ小説とかに出てくるのよ。KGBのスパイとかが使う交渉術の話が。」

「ああ、小説の中の話ですか。それにしてもフィクションで読んだ話を現実で実践できるなんてすごいですね。」

僕は、感動を素直に表現するため音を出さず拍手をした。


「フフ~ン、そうでしょう。こういう依頼をするときはね。まずどんないちゃもんでも構わないから、相手に少しでも自分に非があるかもと思わせることが大事なのよ。そうすれば相手は絶対に話に耳を傾けるから。」

「ああ、だから『あなたのせいで困ったことになった』とか連呼してたんですね。」

ただのいちゃもんかと思ったけど、ちゃんと意味があったのかと思い、僕は深くうなずく。


「そのとおり。それで耳を傾けさせたうえで、要求を断ると面倒なことになるって察してもらうの。今回は、君がいつまでもしつこくつきまとうって話をしたけど、要求に応じないといつまでも解放してもらえないと思わせる方法も効果的ね。」

「なるほど~。確かに!勉強になります。」

「そして、最後に有無を言わさず要求を通す。ここはただただ強く押すことが大事よ。明確に回答を求めると断る余地が出るから。最後にこちらから打ち切って黙認したという形を取ることも大事ね。」


そう言うと、北条さんは右手の人差し指を突き上げながらニヤリと笑った。


「さすがプロフェッショナル!!」

「ふふ~ん。まあ、私に感謝しなさい!」

「先輩、ありがとうございます!」


北条さんは腕を組み、顎を上げて鼻を高くしている。やはりちょっとイラつく表情だが、助かったことは事実だ。素直に感謝しないと・・・。


ん?待てよ。この交渉術、なんか覚えがあるぞ。

4月に北条さんを校舎の隙間で見つけて、体育倉庫で話して北条さんがクラスに溶け込めるように協力するって約束させられたよな。


あの時は、たしか北条さんに、僕にまったく責任がないにもかかわらず、僕に貸しがある、責任があるっていちゃもんを付けられて、しかも僕は体育の準備をしなくちゃいけなかったのになかなか解放してくれず、最後は『どうしてくれるのよ・・・わたしの高校生活・・・。』と強く押されて、仕方ないな~ってなって・・・・。


あれ?あのときの僕も北条流交渉術の術中にはめられたってこと?


北条さん、なんて恐ろしい子・・・・。


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