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隣の席は二周目の彼女 ~二度目の一年生~  作者: 有希乃尋
第2章 テストを突破せよ!北条さん!
10/25

第10話 鬼のうららちゃん

生徒指導室・・・高校に入ってからこの名前の部屋に呼び出されるのは初めてだ。

中学の時は何度か呼び出されたが・・・。

やめよう、悪い思い出がフラッシュバックしてきた・・・。早く用件を終わらせて帰ろう。


コンコンッ


「失礼します。東原先生に呼ばれて来ました。」

「ああ、二宮くん。入ってちょうだい。」

ガラっと引き戸を開けて中に入ろうとすると、正面の長机の向こう側の椅子に東原先生が座っているのが見えた。他の先生は・・・いない。一人か。


しかし、東原先生、組んだ手の上に顎をのせて、まるで司令官のようなポーズだな・・・。


「そこの椅子に座ってくれるかな・・・。」


あっ・・・まずいこれはマジなやつだ。表情が険しい。普段のゆるふわな感じじゃない。


クラス担任である東原うらら先生の担当科目は保健体育。

今でこそスナック菓子を食べながらの動画鑑賞を趣味とした緩み切った生活をしているようだが、かつては女子陸上の長距離種目でオリンピックを狙えるほどの逸材だったらしい。

しかも努力家で体育会系。自分に対しても他人に対しても厳しく、顧問を務めている女子陸上部では、あまりの厳しい指導ぶりに『鬼のうららちゃん』と呼ばれているとかいないとか・・・。


「どうして呼び出されたかわかってる?」

僕が向かいの椅子に腰を下ろすか、下ろさないかのうちに早くも東原先生が話し始めた。


「あの・・・おそらく先週。北条さんのお母さんに話したことではないかと・・・。」

「そう!勘のいい子は嫌いじゃないわよ。北条さんの親御さんに、北条さんと一緒に進級して卒業したい、そのために二宮くんが支えるからもう一度チャンスをあげて欲しいと言ったらしいじゃないの。」

「すみませんでした。たしかに、よその家庭のことに口を出すのはおこがましかったです。」

僕は素直に頭を下げた。もしかして北条さんのお母さんに苦情を言われたのかもしれない・・・。


「それはいいのよ。むしろ二宮くんがそんな熱い気持ちを持っていて、しかもそれを表に出してくれたことがうれしいわ。入学して以来、ずっと覇気がなくて心配してたくらいだから・・・。でも、二宮くんには気を付けて欲しいことがあるの。耳に痛い話かもしれないけどよく聞いて欲しい。」

「はい。」

東原先生の目がまっすぐ僕の瞳を射抜く。いよいよ本題だ!


「さっきの話、二宮くんは本気なの?何があっても最後まで責任を持つと約束できる?」

「はい。もちろんです。」

「でも・・・私が君と同じ年頃だったころには同じような話もあったし、今も生徒から同じような相談を受けることもある。みんな口では本気だとか責任を持つと言っていても途中で気持ちが変わったり、無責任に投げ出したりすることは少なくない。特に君たちの年頃のころはね、一時の感情に流されやすい。感情とその場の雰囲気に流された安易な行動によって無責任な行動をすればお互いを傷つけることになる、君は絶対にそうならないって言える?」

そう言うと東原先生の視線が一段と鋭くなった。


なるほど・・・。先生は僕の覚悟を量っているのか。確かに北条さんの将来にかかわる話だし、安易に賛同するわけにはいかないだろう。

じゃあ、ここで日和ったら信用は得られない。北条さんが学校に残ることを先生にも賛同してもらうためには、ここは絶対に引いちゃだめだ!


「僕の気持ちはずっと変わらない・・・なんてそれこそ安易に言うことはできません。だけど、僕は中学のころに、それこそ安易で無責任な行動によって自分も相手も傷つける結果になった苦い経験があります。今でも後悔しています。あの時と二度と同じ思いをしたくない。させたくない。だから、どんな状況になっても、投げ出さず、責任を持つと約束します!」

僕がまっすぐ視線を返し力強く言うと、東原先生は少したじろいで目をそらした。


「なるほど・・・。君の熱い想いはよくわかったわ。じゃあ、もう一つだけ約束して欲しい。」

「なんでしょうか?」

「先週の保健体育の授業で教えたことを覚えているわね。今は令和だし、一切そういうことをするなとは言わないよ。だけどそれで問題を起こされると先生困るから、ちゃんとうまいことやってね。」

「えっ・・・?それはどういう・・・?」

先週の保健体育の授業で教えられたことは、・・・望まぬ妊娠のリスクとそれを避ける方法だったような。

はっ?


「しかし、中学の時にも経験済みとは、二宮くん、意外とヤンチャしてたんだね・・・。てっきり人畜無害なタイプだと思ってたけど、恋と欲望に忠実なのかな?その経験を生かして高校ではちゃんと自制してね。」

東原先生はウェーブのかかった髪の毛先を指でいじりながら、ニヤニヤしている。


「ちょっと、ちょっとちょっと・・・。違います。僕と北条さんは、そんな関係じゃありません!あと、中学の話も誤解です。そういう風になんでも恋愛と性欲につなげる昭和時代の発想やめてください!」

「失礼だな、二宮くん。わたしは平成生まれだよ。しかも平成ふたけた生まれ!」

「実年齢じゃなくて、何でも恋愛とかにつなげる発想が昭和だって話をしてるんです!そもそも僕と北条さんは付き合ってませんし、特別な感情もありませんよ!」

ちょっと先生に失礼な物言いかと思ったが、ここははっきり言っておかないと僕と北条さんの名誉にかかわる!


「なんだって?じゃあ、君は北条さんと付き合ってもいないし、特別な感情もないのに、北条さんのお母さんに対して、北条さんを支えます宣言をしたの?そっちの方がおかしくない?私の感覚の方が間違ってるの?」

東原先生が思いっきり引いてる。物理的にも後ろにのけぞっている。


わかります。たしかに交際もしていないのに、特別な感情もないのに、急に相手の親に対して娘さんを『支えます』なんて宣言するのがおかしいことは自分でもわかっています。その日の夜、冷静になってから思い出して、ベッドで悶絶しました。

だけど、言ってしまったものはしょうがないじゃないか!


「いや、それはおっしゃるとおりなんですが・・・いずれにしても僕は、中学時代の失敗の経験から、高校では色恋沙汰には関わらないって誓ってるんです。だから、北条さんともそんな関係ではありません。今もこれからも絶対に!」

「・・・・二宮くん、まさか中学時代に酸いも甘いもすべて経験済みで、子どもの恋愛なんて卒業ってこと?いや、先生ですらまだ卒業できてないのに、さすがにそれは早すぎない?」


そうくるか~。そう解釈してくるか~。


「違います。僕は今も昔も、女性と交際したことはありませんし、これからもそのつもりはありません。」

「えっと、それは二宮くんの恋愛の対象が女性じゃないって意味かしら・・・?突然のカミングアウトに驚いたけど、先生、それも個性だと思うわよ。」


あ~、もう何言っても言葉尻をとらえて曲解してくるよ、この先生。僕の言い方が悪いのかな~。納得してもらえる気がしない。


「じゃあもうそれでいいです。ちゃんと責任をもって北条さんを支えますが、恋愛感情はありません。ということで、今日のお話は終わりということでいいでしょうか?」


「ま、待って。まだ話が本題に入ってないのよ。」

僕が椅子から立ち上がって去ろうとしたところ、東原先生は手を伸ばし僕の袖を引っ張って慌てて引き止めてきた。


「えっ?これまで全部前フリだったんですか。もうお腹いっぱいなんですけど・・・。」

「アイスブレイクとして、性教育の観点から二人の関係に軽く釘を刺しておこうと思っただけなんだけど、二宮くんから想定外に衝撃的なカミングアウトがあったから深入りしちゃって・・・、でも本題はこれからなのよ。」

「じゃあ、手短にお願いします。日も傾いてきましたし・・・。」

そう言って僕と東原先生は椅子に座り直した。


「うん。同じクラスの西園寺李衣菜さんって知ってるわよね。」

「もちろんです。ただ、欠席が多いし、まだ一度も話したことないですけど。」

「実はね。あの子も二周目なのよ。北条さんと同じで・・・。」

「ええっ?クラスに二人もいるんですか?もしかしてこの高校、進級判定がすごく厳しいとか?」

「いいえ、学年でこの二人だけよ。しかもわたしが着任して4年ちょっとだけど、その4年間を通算してもこの二人だけ。」

「まさにキセキの世代ですね・・・。実は幻の三人目がいたとか後付けで出てこないといいですが・・・。」

「単刀直入に言うと二宮くんには、ぜひこの西園寺さんも進級できるようにサポートして欲しいのよ。」

「どういうことですか?」

「彼女は、4月以来学校を休みがちで、私も原因がわからないの。本人も話してくれないし・・・。病気でないことは確かなんだけど・・・。このままだと出席日数の関係でもう一度留年してしまうかもしれないの。」

「はあ・・・。」

「しかも、北条さんと西園寺さんは、去年も二人とも私の受け持ちの生徒だったのよ。もし今年も二人そろって留年なんてことになったら、私はクビになっちゃうかも・・・。」

「それは大変ですね。きっと先生に向いた他の仕事が見つかりますよ。」


「そこで二宮くんには、さりげなく西園寺さんに話しかけて、なんで学校にあまり来なくなったのか理由を聞いて、それを解決してほしいのよ。」。

東原先生は頭を軽く下げながら手を合わせた。


「さらっと言いましたけど、問題をすべて僕に丸投げしてきましたね。そもそもそれもおかしいですが、仮にそういう役割を任せるのであれば、桜森くんとか、深川さんとか、クラスのリーダー的存在の方が適任では?」

「わかってないわね。私の経験から言えば、西園寺さんのような子は、そんな陽の者には決して心を開かないわよ。二宮くんのような、うすぼんやりした人畜無害な感じがちょうどいいのよ。」

東原先生がドヤ顔で講釈を垂れながらさりげなく僕をディスってる。僕、お願いされている立場じゃないのかな・・・?


「さすがに無理ですよ。僕はスクールカウンセラーじゃないんですよ。」

「いや、君ならできるよ。あの北条さんを篭絡して心を開かせたんだ。私にはわかる。君には留年者の心を開かせる天賦の才能がある!」

天に与えられるのであれば、もっと汎用性がある才能がよかったな・・・。


「現実問題として、北条さんに勉強を教えるので手一杯で、これ以上他の人に関わっている余裕はないです。」

「二宮くん・・・まだ若いからわからないかもしれないけど、大事なことだからちゃんと伝えておくわね。この言葉だけは覚えておいて欲しい。」

東原先生が急に真顔に戻った。


これは『情けは人のためにならず』とかそういった格言で説得しようとするのだろうか。女子陸上の名指導者らしいし、きっとそういったやる気を出させる言葉の引き出しは多いに違いない。


「学生時代に担任の先生に恩を売っておくと、あとあと何かしらよいことがあるわよ!!」

「・・・・・・。」

「あっ、何?その目は?うまいこと言えなかったけど、ほんとなのよ。先生に恩を売って貸しを作っておけば、後できっと良いことがあるわよ。」

「・・・・わかりました。とりあえず理由を聞いてみます。でもうまくいくとは限らないので、その時は別の人に頼んでください。」

「ありがとね☆じゃあ、よろしく。帰ってよし!」


東原先生は、軽くひらひらと手のひらを振って、やっと解放してくれたが、僕の心は重かった。


なんか北条さんの退学騒動以来、急に課題が増えたな。しかも難題ばかり。いったいどこから手を付けたらいいんだろうか・・・・。


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