魔王と勇者の寝言実況
なろうラジオ大賞参加作品。千文字短編です。
強大な力を持つ赤き目の魔王と、民衆から絶大な支持を得ている勇者。
最終決戦が、始まろうとしていた。
「魔王、覚悟!」
剣をかまえる勇者。
この決戦が終わったら、妹の結婚式…… 生きて帰る、絶対に。
「いざ! 「ふあああ……」
いきなり魔王があくびした。勇者は自尊心を、ちょっぴり削られた。
「ごめん、ここ1年ほど寝てなくて…… もう限界。寝させてもろても?」
「いいわけないだろ。56すぞ…… って、なにやってる!?」
「裏垢で愚痴 「まて!」
勇者は慌ててSNSを見る。すでにタイムラインは燻り始めていた。
『まお@裏垢 全然寝てないから後にしてって丁寧にお願いしてるのに56すとか脅されて心折れる』 『rp 最低』 『rp 輩に絡まれるとは災難ですね』
「すまん寝ていいから!」
『まお@裏垢 寝ていいって♡』
「3時間経ったら起こすぞ」
「いや悪いけど、寝言出たら起こして」
「は?」
勇者が聞き返したときには、魔王はすでに熟睡していた。
勇者はタイマーをセットする。
だが、数分後。
【滅びよ】
魔王の口から寝言が漏れた。
ほぼ同時に、SNSには火山噴火の速報がupされる…… まさか。
「おい!」
勇者は急いで魔王を起こす。
「あっ…… 【いまのうそ】」
魔力を込めたセリフ。
程なく、タイムラインには 『逆噴火!?』 『嘘だと思うだろ。でも本当なんだ…… 土石流が後退してる!』 との投稿が踊った。
「もしや魔王、1年間寝てないのって」
「うん。うっかり寝言で世界滅ぼすかもって気づいたっぴ」
「寝言、なんとかならん?」
「いや、日中のストレスが大きすぎてさ …… ほら人間って勝手に戦争したりするじゃん? 早く世界征服して平和な星にしたいんだけど、なかなかで」
「う」
勇者の良心が疼く…… 勇者は魔王にある提案をした。
「動画投稿サイトで睡眠実況したら? 寝言が出たら専用回線で起こしてもらうよう、リスナーに頼むんだ」
「面白いのそれ」
「絶対大丈夫」
勇者の予想通り、実況はバズった。魔王の優しい人柄もさることながら、世界の崩壊を自らの手で止められるというカタルシスに、全人類がハマったのだ。
こうして魔王が 【滅びよ】 の 『ほ』 で起こしてもらえるようになったころ。
勇者の妹の結婚式が開かれた。
披露宴のスクリーンには、睡眠実況中の魔王の安らかな寝顔が映されている。
“…… 【ほ 「あっ、また寝言!」 「連絡連絡!」
周囲が騒然となるなか、寝言は続く。
【ほんと、お幸せに】
「魔王もな」
最終決戦は無期延期になりそうだ。
魔王の赤き目は寝不足の充……