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第二話 再会

「ねぇ父さん!抱っこして!」

「ハハッ仕方ないな」

一人の子供と父親らしき人物が遊んでいる。子供は深い青の髪に赤い目を持ち合わせている。まるで俺とそっくりだ。また、父親は金色の髪を持ち合わせていて、町長さんにそっくりだ。

もちろんそんな記憶は俺には無いはずだ。でも、この記憶は何だか

懐かしくて温かいように感じる──


ゆっくりと目を開けると紫色の空が見えた。異様な雰囲気の空。それは、まだ孤独な世界から抜け出せていない事を意味していた。

回らない頭で何となく起きると街中で寝ていたことに気づいた。特にここはたくさんの種類の品物が並ぶ商店街だった。

「……あれ?俺何で……」

恐らく寝て起きた影響だろうが直近の記憶が抜け落ちていた。そのため、何故ここに寝ていたのか。今まで何をしていたのか。それをフリーゲンは思い出そうとしていた。

(そうだ、さっきの夢は……?)

すると、先程見た夢を思い出した。夢でもはっきりと覚えている。フリーゲンのような子供を町長さんが高く抱き上げている様子。今の町長と同じ人物とは思えない程笑顔だった。町長は人並みには笑うが、夢で見たあの笑顔は屈託のない、太陽のような笑顔だったのだ。

「あ!フリーゲン!!」

珍しく考え事をしているフリーゲンの耳に大きな声が届いた。驚き、声の方向に振り向くといきなりヒメルが飛びついてきた。

「うおっヒメル!?」

勢いで地面に頭を打ちそうになったが何とか耐え、ヒメルと共に起き上がった。ヒメルはフリーゲンに顔を埋めてがっしりと掴まっている。

「良かったぁ、安心したよ……。全く起きないから心配したんだよ?」

と言うとやっと顔を離しフリーゲンを見上げた。

「俺も安心したぜ……。お前に会えてよかった!お前は消えてないんだな!」

言葉通りフリーゲンは心の底から安心していた。ずっと探していたヒメルが目の前にいて言葉を交わしている。それだけで嬉しく自然と声も大きくなった。

「やっぱり、フリーゲンもみんなが消えたの知ってるのんだね?」

ずっと姿を見せなかったヒメルも現状は把握しているようだ。

「あぁ。夢じゃないんだよな?」

「うん、夢じゃないよ……。だってほら、売り場に誰も居ない」

希望を持ちつつヒメルに問いかけるが、周りの景色を見る事でその希望は消え去る。先程見た売り場に今も人は居ない。それは紛れもない現実だった。

「買い出ししてたら、急に周りのみんなが消えて……。色々探し回ってたら倒れてるフリーゲンを見つけたんだけど、他に誰も居ないし……」

急に消えたという事実はフリーゲンと共通していた。また、ヒメルが探しても誰も見つからないのなら、誰もいないのだろうとフリーゲンは納得するしかなかった。

「俺も、山の中で……」

フリーゲンもあった事を話そうとすると、ゲファーについて思い出した。

「そうだ!仮面のあいつが!」

「あいつ?」

「山で道化師のゲファーって奴が俺たちを楽しませるとか言って指を鳴らしたらウォルケが消えて……町のみんなも居なくて」

徐々に思い出しながら言葉を並べていく。同時にフリーゲンの心も不安に覆われそうになる。そんな中、ヒメルが一つの単語に反応した。

「『ウォルケ』!?ウォルが、消えたの!?」

と、驚いた顔をフリーゲンに近づける。あまりにも圧が強いためフリーゲンは少し仰け反り首を縦に振る。

「え、あ、あぁ……」

それを見るとゆっくりと俯き少しずつ話し始めた。

「まだ近くしか捜してないけど、反響定位をしても、ウォルが、見つからないの……」

「どうしよう、フリーゲン。ウォルが、居なくなっちゃった……!」

顔を上げたヒメル目には涙が溜まっており、絶え間なく頬を伝っていく。フリーゲンはそれを見て焦った。誰かが泣きじゃくる事など見た事が無かったからだ。どうすればいいかわからない。何て声をかければいいのかもわからない。

「だ、大丈夫だ!俺も探す!ウォルケは絶対見つかる!見つけてみせる!」

と、声をかけてみたものの、ヒメルはずっと手で顔を覆ってしまっている。考えた末にフリーゲンは思ったままに伝えてみる事にした。

「だから……な?一旦泣き止もうぜ?」

ヒメルは鼻をすすり、手で顔や目の涙を取り除いた。どうやら少し落ち着いてきたようだ。

「……うん。ありがとう」

それを見てフリーゲンはほっと、一息を着いた。が、一つ違和感に気づいた。ヒメルの話し方だ。

「そういえば、泣き止んだところ悪いんだけど、何で俺にタメ口なんだ…?」

いつも、ヒメルとウォルケはフリーゲンに対して敬語だ。それはリーダーであり、年上だからという理由で二人が勝手に行っていたものだったが、急に無くなると流石のフリーゲンも違和感を覚えた。

「え?」

「あ、いや!別に悪い訳じゃないぜ!?いつか敬語は無くしてもらおうと思ってたし」

ヒメル自身気づいていなかったのか、始めは首を傾げていた。が、今までの言動を思い出したのか急いで手で口を覆った。

「ほんとだ……。すみません、焦ってたからつい敬語を忘れちゃったみたいで……。あはは……」

と、いつもの口調に戻り、恥ずかしそうに手を頭に乗せた。

「戻さなくていいぜ!敬語無しの方が今より仲良くできそうだしな」

フリーゲンは勢いよく立ち上がり、腰に手を当て、いつものニコニコの笑顔を見せた。ヒメルはそれを見て完全に緊張の糸が解けたのか段々と口角を上げ屈託のない笑顔を見せた。

「……そうだね、わかった!」

フリーゲンの笑顔と元気にあてられ、ヒメルも勢いよく立ち上がり、頬を手の平で思いっきり叩いた。

「よし、じゃあウォルを探そう!多分無事だとは思うんだけど、心配だよ」

「そうだな。二人でウォルケを捜そうぜ!まだ捜してないとこがあるんだろ?」

「うん。でも私の耳だけじゃ範囲が絞られるから、フリーゲンも鳥と協力してくれないかな?」

その言葉を聞いてフリーゲンはまた思い出した事があった。そう、合図をしても鳥が来ない事だ。

「あー……それなんだけど……。やってみるか」

指を口にくわえ口笛を鳴らす。それと同時にヒメルも耳を澄ませる。しかし、いくら待っても鳥が来ないのは同じだった。

「やっぱりな……」

と、ため息混じりに言う。ヒメルは何も来ない空を唖然と見つめている。

「もしかして、人以外の生き物も居なくなってるの?」

「らしいな。こうなったら、地上からだけで探すしかないみたいだ」

その言葉を聞いてヒメルの顔が自信に満ち溢れる。

「そうだね。私の反響定位に任せて!」


〈 能力 〉反響定位

音で正確な位置を探ることが出来る


ヒメルは耳が良く、音のみで地図を把握する事だって可能なのだ。目を瞑りながら歩く事もできる。

「反響定位の範囲は最低で半径二百メートルくらい。遠くなるほど効力は落ちるけど、一秒もあれば余裕で感じ取れる!」

これは簡単に言えばその場に居るだけで半径二百メートル範囲の物、人の位置がわかるのだ。遠くなるほどわかりづらくはなるが、捜すには十分過ぎる能力と言える。

「そりゃ便利だな!なら、俺達がずっと歩けば見つけられるだろ」

「うん!二人で絶対に見つけよう」

その後、二人ははぐれてしまわないよう一緒に行動した。鳥という連絡手段がないため、二手に別れ行動する事ができなかったのだ。

ヒメルは歩きながら自分の足音で、フリーゲンは声を出しながら目で見て探した。ウォルケが居そうな場所からどう考えてもいない場所まで探した。絶対に見つけるという一心でウォルケの名を叫び続けた。


数時間後


夕日が沈み暗くなりかけた頃。

事務所の傍に小さな焚き火を炊いて座った。事務所の鍵はウォルケが持ってるため入れないのだ。

「……見つからないね」

「あぁ。町全体を探っても手がかり無しか……」

ウォルケは何処にも居なかった。町の全ての場所を見たが痕跡すら見つけられず、お手上げ状態だった。

「…ウォル…どこに行ったの?」

見つけると元気に意気込んでいた姿とは一変し、ヒメルは足を腕で抱え、腕の隙間に顔を埋めてしまった。

「暗くなってきたし、捜すのはまた明日だな」

「うん……」

空を見上げてフリーゲンは言った。ヒメルは空なんか見ずに消えそうな声を出した。そんなヒメルを見てフリーゲンは紙袋からリンゴを取り出し、向かいのヒメルに投げ渡した。紙袋は、ヒメルが買い出しで買った物が入った袋だった。その袋からもう一つリンゴを取り出し噛み付いた。口を動かすフリーゲンを不思議そうに見つめるがヒメルは手元のリンゴを食べようとはしない。その様子を見て今度は口を開く。

「なぁ、ウォルケとヒメルの関係って何なんだ?」

一緒にフリーゲンの探偵事務所の戸を叩いたヒメルとウォルケ。フリーゲンはそんな二人と仲良くしながら仕事をこなしていたが、詳しい事を知ろうとはしなかったため二人について何も知らなかった。ヒメルは暗い表情を保ちながらしばらく黙っていたが、少ししてゆっくりと話し始めた。

「……幼馴染みだよ。小さい頃、赤ちゃんの頃から一緒にいたの」

「歳が同じだからか小さい頃からずっと仲良しで、一番信頼し合えるんだ」

ヒメルの顔に少しの笑みがこぼれる。話を聞いてフリーゲンは少し前のヒメルを思い浮かべた。ウォルケが居ないと泣きじゃくっていたヒメルだ。

「だからあの時すごい泣いてたんだな。相棒が居なくなったら、悲しいもんな」

相棒を大事に思っているんだなと思い微笑ましくなった。が、ヒメルの顔は徐々に真っ赤に染っていく。

「そ、それ、ウォルには絶対言わないでね…。恥ずかしいから」

と、目を逸らしながら話す。フリーゲンはその気持ちが全くわからないようで頭の上に「?」が浮かんでる。

「そうか?別に言ってもいいと思うけどな」

そう話しているうちにフリーゲンはリンゴを食べ終えた。芯を焚き火に焚べ、お尻をはたきながら立ち上がった。腰に手を当て腰を曲げることで体を伸ばす。その間、また思い出した事があった。

「そういえば、町長さんに相談したんだけど、町長さんもみんなを探してくれるって言ってたぜ」

「そうなんだ!なら……いつかきっと、ウォルも見つかるよね……」

また顔に笑み表れたがすぐに消えてしまった。相棒を失った悲しみは相当大きいようだ。そんなヒメルを励まそうと

「あぁ!だから心配するなって!絶対……」

すると、フリーゲンは何かに気づき、一点を見つめ始めた。フリーゲンの異変に気づいたヒメルは立ち上がりフリーゲンに近づく。

「フリーゲン?」

「おい……アレって…!」

「『アレ』?」

そう言うフリーゲンの目線の先には白髪の少年がこちらに背を向けぼうっと立っていた。ウォルケだ。

「ウォル!」

それに気づくやいなや、ヒメルは手に持っていたリンゴを落とし走り出した。ウォルケに気を取られていたフリーゲンはヒメルの駆け出しに驚き、慌てて追いかけた。

「おいヒメル!」

「ウォルー!私、ヒメルだよ!」

ウォルケは声に気づいていないのかこちらを見向きもせず、ゆっくりと歩き始め、ずく近くの曲がり角を左に曲がってしまった。

「待って!ウォル!」

ヒメルは見失わないよう速度を上げウォルケを追いかける。フリーゲンはウォルケが向かった先の事に気付き、急いでヒメルを追いかけた。

「おい待て!ヒメル!」

ヒメルが曲がり角を曲がった直後、フリーゲンがヒメルの肩を掴んだ。掴まれた勢いでヒメルは急に止まるが、足だけは少し先に進んだ。足が何かにぶつかり「コン」という音を立てる。それもそのはず、ヒメルの目の前にあったのは壁だ。

「あっぶな……」

ここは曲がって直ぐに行き止まりになってしまう路地だった。ウォルケに集中しすぎてそれに気づかなかったヒメルをフリーゲンが止めてくれたのだ。

「あ、ごめん。ありがとう……」

「行き止まりだな」

「確かにここに来たはずなのに……」

二人は確かにここにウォルケが歩いて行くのを見た。しかし、目の前にあるのは壁のみ。一応ペタペタと壁を触ってみるが何の変哲もないただの石の壁だ。二人して首を傾げていると、突然辺りが黒く染まった。

「何、これ!?」

ヒメルは突然のことに驚くが、フリーゲンはこの空間を見た事があった。まさかと思い辺りを見渡していると後ろから声が聞こえた。

「待ちくたびれましたよ。忘れてしまったのかと思い、こちらから誘導させていただきました」

そこには真っ黒なスーツに身を覆い、おかしな模様の白い仮面をつけ不気味な笑みを浮かべる道化師。

「ようこそ。ヒメルさん、フリーゲンさん」

「ゲファー……!」

ゲファーが居た。

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