水槽の中の脳
北条八雲は、悪の秘密結社によって改造手術を施された改造人間である。
しかし彼は人間の心を失わず、その力を弱き者たちのために使う、
正義の改造人間であった。
彼は人間の肉体にヤギの能力を持つ“ゴートマン”として、
数々の死闘を乗り越え、ついに敵のアジトへの潜入に成功したのだ!
「ついに追い詰めたぞ……ドクター・デビル!
もうお前に逃げ場は無いぞ!
諦めて警察に自主するんだ!」
「ククク……
警察に逮捕されるのはどっちかな?
貴様が不法侵入する姿は、監視カメラにバッチリ映っているぞ」
「な、なんだと!?
監視カメラだなんて……この卑怯者め!」
「ククク……
なんとでも言うがいい
それより、せっかく来たんだ
貴様には見せておきたい物がある……」
ドクター・デビルが指を鳴らすと部下が動き、
天井から垂れていたカーテンが勢いよく左右に開かれた。
そこにはいくつもの配管が繋げられた水槽があり、
その中は緑色の培養液で満たされており、
そして、水槽の中には人間の脳味噌が浮かんでいたのだ。
「そんな……あれはまさか…………月島博士!
ドクター・デビル……お前はなんてことを……!」
「ククク……ご名答だ
私はずっとヤツの頭脳に嫉妬し、憧れていた……
これでようやく名実共に、ヤツの頭脳は私の物となったのだ!」
月島博士は正義の科学者としてゴートマンの装備を開発したり、
敵のアジトの捜索などで協力してくれた、良きパートナーだった。
そんな彼が脳を摘出され、培養液に満たされている。
その非人道的な行いに、ゴートマンは怒りの炎を燃やした。
「おっと、下手な真似はしない方が身のためだぞ?
こいつがどうなってもいいのかな……?」
再びドクター・デビルが指を鳴らすと部下が動き、
別のカーテンが勢いよく広げられた。
「なっ……そんな…………父さん……!」
ゴートマンは衝撃的な光景を目の当たりにし、
その場に膝から崩れ落ちた。
彼の父、北条陽介はかつてドクター・デビルを追い詰めた刑事だった。
15年前に謎の失踪を遂げてから行方がわからなかったのだが、
まさか宿敵の元で脳を保管されていたなど、一体誰が想像できただろうか。
「ククク……よくわかったな
貴様の父親にはさんざんな目に遭わせられたからな……
憎い相手ではあるが、この私と渡り合った実力に敬意を表し、
こうして脳だけの存在となって生かし続けているのだ」
すっかり戦意を喪失したゴートマンに対し、
ドクター・デビルは更なる追い討ちをかけた。
例によって指鳴らしで部下がカーテンを開ける。
「そんな……もうやめてくれ…………
それは改心したクラゲ怪人、ジェリーマンの脳じゃないか!
どうしてそんな酷いことができるんだ……
彼は秘密結社から円満退社したはずだろ……!」
ジェリーマンとは人間の心を持つ怪人同士、分かり合える仲だった。
激しい戦いの中で得た、唯一の友とも言える存在だったのだ。
それが、なぜこんなことに……。
「よくわかったな……
そう、あれはジェリーマンだった物だ
社長はあいつの退職を許したようだが、
この私は裏切り者が大嫌いなのでな」
そんな理由で、彼は脳だけにされてしまったのか。
ドクター・デビル。
どこまでも傲慢な男だ。
やはり野放しにはできない。
ここで決着をつけなければならない。
ゴートマンは立ち上がり、戦う意志を示した。
「……待て、これが誰かわかるか?」
ドクター・デビルが指を鳴らす。
時間稼ぎのつもりだろうか。往生際が悪い。
しかし開かれたカーテンの向こうには、
またしてもゴートマンが知る者の脳があったのだ。
「くっ……師匠まで…………!
だが、今の俺はあの頃の師匠よりも遥かに強いぞ!
覚悟しろ! ドクター・デビル!」
ドクター・デビルは眉間にシワを寄せた。