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1月1日、地震があったけど、幸運にも被害はなかったのです

作者: 鷹野 梓

 被災された方にお見舞い申し上げます。

 それは、天さんの実家からの帰り道のバイパスでのこと。

 例によって、あたしのアクアで。

 ガタタン、ガタン──ガタタン、ガタン──ガタタン、ガタン──

 なんか、妙に定期的に車が揺れる。

 パンクにしちゃ、周期が長いし。

 まるで居眠り防止の隆起があるみたいな。

 それにしたって周期が長いし、見たところ路面はなだらかで傷んでもいない。


 「ん~、おっかしいなぁ。

  なんでこんなにガタガタするんだろ?」


 「路面傷んでるんじゃないのか?」


 「見てよ、きれいなもんだよ」


 車のどっかがおかしいのかなぁ…。

 そんなことを考えながら走ってたら、突然、3人のスマホが一斉にキュオンキュオンいいだした。

 これは、地震速報だ!


 「地震!? じゃあ、このガタガタしてんのって、そのせい!?」


 「あ、看板、すっごく揺れてるぞ!」


 天さんが指差した先では、道路案内板がめっちゃ揺れてた。

 これって、結構大きい?

 とりあえず情報収集のために、カーステでテレビをつける。

 もちろん画像は映らないけど、音声だけでも震源や震度はわかるはず。

 つけてみると、震源地は石川で、震度は…7!? 新潟でも震度5弱って、大地震じゃないの!!

 バイパスの路肩には、多分テレビを見るためだろう、止まってる車がちらほら。

 まだ家までは30分くらいかかるかなぁ。

 ちょっと、こんなところで止まってられないよね。

 地震速報では、えらく緊迫した口調で、女性アナウンサーが早く避難するようまくし立ててる。

 新潟市にも津波警報が出てるらしい。

 注意報じゃなくて、警報!?

 まぁ、震度がでかいから、津波の危険度も高いってことかな。

 鷹野家(わがや)のすぐ目の前には、ちょっとした川がある。

 海からの距離があるから、そうそう逆流してくるようなことはないだろうけど、東日本クラスの津波なら、あり得なくはない。

 なので、バイパスを下りて、その辺のイオンに避難しつつ情報収集しようってことになった。

 イオンの駐車場は、そこそこ()いていた。

 元日から開いてるってのもすごいし、そこそこ客が入ってるってのもすごいなぁとか思いながら店内に入ったら、店員さんから、屋上に避難するよう言われた。

 電化製品コーナーのテレビで情報収集のつもりだったんだけど、まだ認識が甘かったみたい。

 階段と、止まったエスカレーターを昇って屋上フロアに行くと、もう結構な人数がいた。




 屋上に落ち着くと、すぐにメールの確認。

 こんだけの地震なら、きっと職場から安否確認がされるはず。

 予想どおり、上司から確認のメールが来てた。

 あたしは、手短に現状を報告する。

 すぐに返信が来て、帰宅したら家屋の状況も報告するよう言われた。




 この屋上フロアは、屋上駐車場から店内に入るためだけの場所だから、そんなに広くないし、当然、暖房設備もない。

 あるのは、飲み物の自販機くらい。

 翼が、手を温めるために飲み物を買いに行ったら、もうミルクティー以外温かい飲み物はなかったそうだ。

 水も売り切れてたってことだから、長丁場での水分補給を考えてる人もいたんだと思う。

 開きっぱなしの自動ドアから外気が入ってくるから、結構きつい。

 体温維持のために、手袋もつけた。

 今日は、外を出歩く予定じゃなかったから、マフラーは持って来てないんだよね。

 店員さんが駆け回って、避難誘導してる。

 よどみなくテキパキと動いてる姿に、普段から訓練してるんだろうなぁって思う。大したもんだよ、ホント。

 あたしの職場も避難訓練はしてるけど、お客さんの避難誘導の訓練なんてしてないし。

 接客業ってすごいなぁ。




 そうこうしてるうちに、店員さんが数人駆け上がってきた。

 1人はAEDを抱えてる。

 病人?

 店員さんが「医療関係の方はいらっしゃいませんか?」と呼びかけると、1人の男性が手を挙げて近付いていった。

 こういうの、本当にやるんだね。初めて見た。

 後で見たら、病人はおじいさんで、床に寝かされたみたい。

 AEDは使わなかったし、救急車も呼ばずにすんだみたいだから、きっと緊張から具合が悪くなったとかなんだろう。




 1時間くらいイオンにいて、状況が変わらなかった──津波が新潟で起きたというニュースがなかった──から、帰宅することにした。

 帰るルートは3つ。

  ①バイパス

  ②国道

  ③県道

 こんな時に高架は怖いから、バイパスはなしね。

 なんとなくで、途中まで県道を走ってから国道に入った。

 道路脇には、崩れたブロック塀や斜めになってるデリネーターポール、隆起した歩道、傾いた電柱なんかがあった。

 途中、行きつけのスーパーの脇を通ると、駐車場が変だった。


 「これ、液状化現象じゃないか?

  この辺、地盤弱いのかも」


 天さんの考えでは、傾いた電柱とかも液状化の影響じゃないかってことだった。


 「ちょっとルート変えよう」


 あたしは、人家の多い通りを避けて、大回りに家に帰った。

 こっちは、特に被害ないみたい。




 無事家に着くと、家の周りをぐるっと見てみた。

 家壁にヒビとかもないし、塀も大丈夫、歩道や電柱も大丈夫だね。

 周辺にも、崩れた場所とかはなかった。


 「川、大丈夫かな?」


 天さんが心配する。

 ん~、気持ちはわかるけど、こういう時川を見に行くのはオススメしないよ?

 とはいえ、天さん心配性で見るまで言うからなぁ。


 「遠目で見るだけだよ?」


 妥協して、川が見えるとこまで2人で行く。

 逃げ足の速いあたしが先導だ。


 「ん、大丈夫。

  ちゃんと下流に向かって流れてる」


 天さんも確認して、家に入った。




 食器の類は無事。

 リビングに飾ってあったウルトラマンがいくつか転んでたけど、そっちはノーダメージ。

 コレクションルームを覗くと、なんかめっちゃ倒れてた。

 簡単にどうこうできそうにないので、とりあえず後回しにして夕飯にする。

 上司に、家屋も無事と報告を入れた。


 さて、水や電気がいつ止まるかわからないから、使えるうちにやることやらないと。

 手抜きで簡単におもちを食べて、洗い物をして、温水器のお湯も沸かし直す。

 ヤカンとケトルに水をいっぱいにして、ポットのお湯も満タンにして。

 お風呂にさっさと入って、お湯は捨てないでおこう。

 飲み水の方は、ウルトラマンのペットボトルが1本と、2リットルが1本あるから、まぁ大丈夫かな。


 翼の方は、棚のプラモがだいぶ倒れてて、RGのΖΖ(ダブルゼータ)のアンテナが折れてたのが一番の被害だったそう。

 あたしのコレクションルームは、積んであった箱が荷崩れ起こして下のものをなぎ倒したのと、飾ってあったティガの群れが落ちまくってたくらいで、ほぼダメージはなさそう。元の位置に戻すのは大変そうだけど。

 一番の被害は、棚から落ちた超合金魂グレートマジンガーの下敷きになったソフビのライディーンがバラバラになった程度。

 バラバラといっても、接着してたパーツが外れただけだから、接着し直せば修復できそう。これは、明日の仕事ね。




 断水とか起きずに翌朝。

 ニュースを見たら、あたしが避けて通ったバイパスが道路の亀裂で通行止めになったって言ってた。

 やっぱり避けて正解ね。

 ほかにも、あたしが避けた道は、ところどころ液状化でえらいことになってたらしい

 昨日無事に帰ってこられたのは、すっごく運が良かったらしい。

 とりあえず、いつものスーパーは駐車場がダメっぽいから、別のスーパーでお買い物。

 ライディーンは、接着剤が乾くのを待ちつつ少しずつ修復して、1日仕事になった。




 無事だったから笑い話だったけど、どこかが何か違ったら、橋が落ちて車ごと水没とかあったかもしれない。

 普段よく通る道にも、被害のあった場所はある。

 通勤経路が無事かどうか、今はまだわからない。

 とりあえず、前に進むしかないのよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 同じあたりの方?かもしれないと思いつつ読みました。 こちらはホテルの6Fにいました。駅近くで、ま、避難所には困らないかも、と。
[良い点] ご無事で何より
[一言] とにかく鷹野家が家屋周辺も無事で良かったです。 ほんと、家までのルートパターンの確認をしよう。
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