第8話 一人と一匹
カーラ 公爵令嬢
レフ 転生者 琥珀狐 カーラの相棒
ロナルド(ロニー) カーラの兄
シーミオ カーラの母
ロイル カーラの父
ジャスミン 町の料理店の店主
ケイト 迷子
べり!
ケイトは、顔にくっついてくる獣を、力いっぱい引きはがした。
犬のように舌を出している様子が、笑っているようにもみえる。
「琥珀狐…………? の、子供?」
実在はすれど、伝説級の存在だ。
なぜそんな琥珀狐が、飼い犬のように、ケイトに懐いてくるのだろうか。
しかもなんだか、怪しい動きを始めた。
二本足で立って、前足を上に上げたり。
お尻を見せて、尻尾を振ったり。
気絶したように、地面に倒れたりしている。
何か、ケイトに伝えようとしているふうにも、見えるけれど…………。
「ごめん、ぜんっぜん、わかんない」
ケイトの言葉に、琥珀狐が、崩れ落ちる。
ガーン! という擬音が、聞こえた気がした。
「ふふ、なぁに、きみ」
ペロ。
今度は優しく、頬をひと舐めされて、ケイトは自分が泣いていた事に気づく。
「大丈夫」
ケイトは琥珀狐を、抱き上げた。
抵抗することなく、大人しく抱かれている。
「私ね、さっきまで、ひとりぼっちで、心細かったの。でも、きみが来てくれたから、寂しいの、どっかいっちゃった。安心したら、涙が出ちゃったんだ」
ーーーーぐぅ。
ケイトの独白に、空腹を伝える音で、返事が返ってくる。
「ふふ、きみも、お腹が空いてるの?」
クゥン。
「ほんとは干し肉もパンも、持ってきたんだけど、野犬から逃げてる時に、落としちゃったんだ」
分けてあげられる食べ物が、無いの。
ケイトが申し訳なく思いながらそう言うと、琥珀狐が地面に飛び降り、ゆっくりと歩き出した。
そして、ちらちらと、ケイトの方を振り返る。
「ついてこいって、言ってる?」
クゥン。
甘えるように鳴いて、尻尾を三回振る。
ケイトも立ち上がり、お尻についた砂を、はたき落とした。
足の痛みは、もうどこかに消えていた。
「よし、一緒にご飯を探そう!」
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