表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/35

第6話 邂逅

カーラ 公爵令嬢

レフ  転生者 琥珀狐 カーラの相棒


ロナルド(ロニー) カーラの兄

シーミオ カーラの母

ロイル  カーラの父


ジャスミン 町の料理店の店主

「すみません、このあたりで琥珀狐を見ませんでしたか?」


 琥珀狐は、その存在がまず珍しいのだ。


 街道を歩いているだけで、人の目をひくだろう。

 歩いている人間がいれば、の話だが。


 1時間ぶりにすれ違った農夫に、カーラは訊ねた。


「探しているのだけど。家族なの。もしかしたら、森に向かったのかもしれなくて」


「あぁ、狐のお嬢様か。朝早くに見かけましただよ。たしかに、森の方に歩いてった。えんらいべっぴんの狐どんだったで、よく覚えてら。朝からずっとオラここにいるんけんど、けえってきたとこさは見てねぇなぁ」


「! ありがとう」


 カーラは自分が『狐のお嬢様』と呼ばれていることを知っていた。

 しかしそれは蔑視ではなく親しみを込めてのもので、カーラ自身も気に入っていた。

 もともとスマラグドス領は琥珀狐への信仰心が強く、皆が好意的に捉えてくれる。

 王都だと、奇異な目で見てくる人もまだいるけれど。


(やっぱり、森に入ったのね。そして、戻っていないーーーー)


 進む足に力が入る。

 日が暮れる前にと。

 レフは夜目がきく。

 一晩くらいなら、食料も自給できるだろう。

 しかし、万が一、レフの身に何かがあって、動けなくなっていたら?

 

 カーラは、家族揃って夕食をとった日のことを思い出す。

 あの時、シーミオの言葉を深く受け取ったのではないか。

 

 レフが人の言葉を理解している事は、カーラがいちばん分かっている。


 もしかしたらレフは、自分だけで精霊の魔石を手に入れようとしているのではーーーー。


 精霊は、気まぐれだ。


 時には助けてくれるし、いたずらもする。


 そして、真剣に魔石を望むものには、試練を与える。


 挑んだ人間が試練を乗り越えられずに死んだとて、精霊たちには預かり知らぬ事。


 森に入って戻らない冒険者は、森に還ったと思え。

 この世界ではあたりまえの事なのだ。


「レフ、無茶しないで」


 あなたがいてくれたら、それで良いと。

 もっと伝えておけばよかった。


「また繰り返すのか、私は」


 間に合って、と願い、カーラは歩速を速めた。



          ※



「お腹空いたぁーーーー!」


 神に願いが通じて、声を得たのかと思った。

 それくらい、レフは声の主に共感した。


(お腹、すいたわねぇ)


 そう返事をしてみたが、聞こえたのはクゥンという鳴き声だけ。

 

 声の主は、人間の少女のようだった。

 さほど遠く無い場所、少し北の方から声は聞こえた。


 迷子だろうか。

 それとも、冒険者?


 いや、違うな。


 比較的安全な森とはいえ、野生の動物もいる。

 冒険者なら、不用意に大きな声で叫んだりしない。

 他国の密偵や、後ろ暗い事のある人間だって、同じだ。


 むしろ、安全な街でしか生活した事がないような、世間知らずの、たとえばどこかの令嬢とか。


(うちのカーラちゃんは、つくづく変わり者令嬢なのだわ)


 カーラであれば、まず迷うこともないし、冒険者顔負けの手際で獲物を得るだろう。


 レフは敵ではなさそうだと判断し、声の主を探すため、草を掻き分けてレフは進む。


『そこの君、互いの食事を得るために共闘しようではないか』


 そう伝える方法があれば良いのに。


 でもきっと伝わる。

 自信があった。


 バーのお客さんだって、言葉の通じない人だっていたけれど、パッションと身振り手振りでなんとかなった。


 こんなにも可愛い琥珀狐が必死で何かを伝えようとしていたら、相手も意図を汲んでくれるはず。


(つくづく、もふもふは正義よね)


 森に来るのは久々だったが、周囲の音を聞きながら、軽やかに駆けぬける。

 

 対象は、すぐに見つかった。

  

 やはり、冒険者にしては軽装すぎる後ろ姿だ。

 どこかに隠しているのでなければ、荷物も背中の行李ひとつか。

 山菜でも採取しに来て迷ったというのが、いちばんしっくりくる。


 こちらの姿を隠す必要も無さそうだと、判断した。

 

 無造作に近づくレフ。


 草の擦れる音で、少女がレフに気づき振り返った。






 その顔を目に捉えたレフは、自制も忘れて少女に飛びかかっていた。

子狐小噺

レフのイメージは、シロツメクサです。

約束、幸福の象徴のクローバー。


読んでくださり、ありがとうございます。

たくさん見ていただいて、とても励みになっています。

もうしばらく続きます。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ