第29話 出立前
カーラ 公爵令嬢 銀髪に翠の瞳
レフ 転生者 琥珀狐 カーラの相棒
コラン カーラの想い人(両想い) 王子 金髪碧眼
ロナルド(ロニー) カーラの兄
シーミオ カーラの母
ロイル カーラの父
ジャスミン 町の料理店の店主
ケイト 転移者 ジャスミンの店の店員
プラシノ 風の精霊
「で、具体的には、どこに向かうんだ?」
無事、精霊の長の了承を得て、プラシノが早朝から屋敷を訪れていた。
「北の草原の向こうの、沼地らしいよ」
お気に入りのクッションに寝そべり、大事な尻尾の毛づくろいをしながら、レフが答える。
応接室に集ったのは、プラシノ、レフ、ロナルド。
カーラはコランを出迎えに出ている。
ロナルドとプラシノの前には、美味しそうなモーニングセットが置かれていた。
丸い白パンを横半分に切って軽くトーストしたものと、ミニサラダと、スクランブルエッグに燻製肉のソテーがワンプレートに並ぶ。
ドリンクはペグの実のフレッシュジュースだ。
最初よく来るケイトのおかげもあって、この屋敷では前世でおなじみのメニューを目にすることが多くなった。
カーラの身の回りが落ちついたら、ジャスミンやケイトに助力を頼んで、またお店をやるのも良いかもしれない。
この身体では、客寄せの看板狐くらいしか出来ないけれど。
レフ自身は、朝はあまり量を食べない派なので、フレッシュジュースのみ。
ペグの実をベースに、バナナに似たリラの果肉と、リンゴに似たパダの実をブレンド。さらにモロヘイヤも入れた健康スペシャルドリンクだ。
(モロヘイヤは、なぜかモロヘイヤとして流通しているのよね……)
種を持ったまま転移してきた栽培農家がいるのかもしれなかった。
こちらも、余裕ができたら旅をして探してみるのも良いかもしれない、と思う。
でもまずは、目の前の厄介事をやっつけねば。
「王宮の衛兵が既にこちらに向かっている。合流次第、向かうことになるよ」
「ふぅん。弱いやつを巻き添えにしないためにも、俺たち以外は人数絞った方が良いな。移動も楽だし」
ロナルドの説明を聞いたプラシノが、顎をさすりながら言う。
「そうね。移動日数は余裕をみて、馬車で2日というところかしら」
答えたのは、カーラだ。
「おかえり、カーラ。コラン、おはよう」
「おはよう。待たせたね」
ウケる。と言わんばかりに、プラシノが転げ回って笑う。
目の端に涙まで浮かべて。
精霊の笑いのツボはよくわからない。
「いやいや、日帰りでおっけーでしょ。……どーも、王子さま」
ちょっと遠足にでも行く感覚でいる、プラシノだった。
「あのねぇ、カーラたちは一応、これでも、まだ人間なんだよ! 精霊みたいに転移できないんだから。私だって、何人も同時に送るのは無理だし、そもそも知らない場所には飛ばせないんだよ」
「一応まだ人間、ってどういうことかしら……。まぁでもそうね、荷物だってあるし、移動法は限られるのじゃないかしら?」
「だから、そのための最適化だろ」
フォン!
プラシノのまわりの空気が変化する。
(あ、こいつ今、私の魔力勝手に使ったわね)
あたたかい魔力の流れと、静電気のように毛が引っ張られる感覚が肌をなでる。
テーブルの上にあったペグの実ジュースの入ったグラスが、一度消えた後、プラシノの手に握られた状態で現れた。
やれやれ、と首を振るプラシノ。
なんだろう。ちょっとイラっとするレフであった。
「そもそもだけどさ、レフはもちろん、お嬢とお嬢のママさんの魔法だけでも、俺がちょちょっといじれば、イケるぜ」
こんなふうに、と言いながら、美味しそうにジュースを飲む。
転移による変質もないということだ。
カーラとシーミオが得意とするのは、土魔法と木魔法、そして風魔法。
魔力の最適化とコントロールで、転移魔法まで使えるようになるとは。
「本当に、君たちが味方でよかったよ……」
ロナルドが頭を抱え、独り言を言っている。
そんなに心配性で、この先、大丈夫かしら。毛量とか。
ロナルドの額を眺めながら、将来の生え際が心配になるレフであった。
余計な事を言わない、大人の分別くらいは持ち合わせているけれど。
レフの思いなどつゆ知らず、ロナルドは考える。
そんな事が可能なのだとしたら、魔法の常識や戦争の概念が覆される。
その力を求めて、レフやプラシノに危害を加えようとする輩もいるだろう。
尚更、知る人間は少なく済ませなければ。そして口の固い人材を厳選しないと。
信用のもとに、提案してくれているプラシノに、誠意で応えようと心に誓うロナルドであった。
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