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翌朝。

エリーは僕を迎えに来た。

登校の道すがら、僕は記憶を失くすことについて切り出した。

彼女には、事前にメッセージで『とても大切な話がある』と送っていたからか、どこか緊張しているようにも見えた。


「そういうわけで、君と決闘したのは僕じゃないんだ」


「………」


「僕は、このもう一つの人格の謎を解きたい。

魔剣と関係あるのは明白だから。

だから、どうしても初代の日記が読みたいんだ」


エリーは歩みを止めた。

数歩おくれて、僕も止まる。


「エリー、僕は君が褒めてくれたような、忠誠を誓ってくれたような存在じゃない」


エリーは顔を伏せている。

その表情は、見えない。


「僕は」


僕は、エリーから未来を奪った存在だ。

そう言おうとした。

でも、それより先にエリーが顔を上げた。

真っ直ぐ僕を見てくる。

怒りも悲しみも絶望もない。

ただ、真っ直ぐに僕を見つめてくる。


「いいえ」


エリーは少しはにかんで、そう言った。


「貴方は、私を見捨てれば良かったのにそれをしなかったじゃないですか。

あのまま捨ておいておけば、保健委員が来て処置をしてくれたはずです」


丁寧な物言いだった。


「決闘のあと、貴方はあのままあの場を去っても良かった。

でも、貴方は私をわざわざ医務室に運んでくれたじゃないですか」


「それは」


僕は言葉を返そうとする。

でも、またもそれより早くエリーが言ってくる。


「力を示すだけなら、そんなことしなくて良かったでしょう?

そもそもこの話を打ち明けなくてもよかった」


それは、その通りだった。


「ツクネ様」


名前を呼ばれる。

僕は彼女を見る。

魔剣を抜く前だったなら。

魔剣さえ抜くことがなかったなら、知り合いにすらなれていなかったエリーを見る。


「ツクネ様はとても優しい方ですね。

そんな貴方だから、私は忠誠を誓ったんですよ」


そこでニコっと彼女は笑って見せた。

そしていつもの口調で続ける。


「そんなツクネが、私は好きだよ」


「……!!??」


言葉の意味を理解するのに、少し遅れた。


「え、好きって、え!?」


「どんな秘密を知っても、この気持ちは揺るがない。

だから、そんな泣きそうな顔しないで、ね?」


彼女が、優しく言ってくる。

僕はぺたぺたと自分の顔に触ってみた。


「そ、そんな顔、してた??」


「してた。

いつもしてたよ。

迷子の小さな子みたいに。

なんでそんな顔してるのか不思議だった。

ずっと、不安だったんだね」


「……っ」


「大丈夫だよ。

私は君を支えるから。

どんなことがあっても支えるから。

その覚悟がなければ、忠誠なんて誓ってないよ。

魔族なんだから、知ってるでしょ?」


「うん、そう、そうだね」


そう、彼女は魔族だ。

魔族にとって、忠誠は特別なものだ。


でも、僕は。


――本当は、人間なんだ――


これも伝えなきゃいけない。

でも、その勇気が出なかった。

怖かった。

心のどこかで、彼女が僕を支えてくれると決断したのは、忠誠をちかってくれたのは、やっぱり血筋を含めてじゃないかなと思うから。


僕の里親、アルスウェインさん。

僕はあのおばあさんの遠縁だと思われているから。


彼女の言葉に偽りはないと思う。

でも、僕が彼女の夢を奪ったのは事実なわけで。


彼女が僕に決闘を挑んで来た時の、あの顔を忘れることはいまだに出来なかった。

夢を、未来を奪われたと知った時の、あの時と彼女の顔は忘れようとしてもできるものじゃない。

これは、罪悪感だ。

僕が一方的に抱いてる、罪の感情。


考察厨が書き込んだ言葉が蘇る。


あの掲示板を最初から見せたら、説明が楽だ。

でも、これは僕の口から言わなきゃ、伝えなきゃ、説明しなきゃいけないことだと思う。

そうでなければ、彼女の誠実さに申し訳ない。


「ほかに秘密は?」


エリーがおどけて言ってくる。


「あるよ」


僕は意を決して、口を開いた。

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