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風紀委員の仕事は、主に学園内のパトロールらしい。

校則違反をしている生徒はいないか、また、他にも困っている生徒がいないかをチェックするらしい。

そして見つけ次第、話を聞くとのことだ。

問答無用で、まずはぶん殴るのかなと思っていたけれど違った。

それというのも、


『いい?

風紀委員って人たちは、自分たちがルール、絶対的正義だと信じて疑っていない。

ある種の狂信者みたいな連中なんだから』


という話を、喫茶店のバイト仲間であり先輩に聞いていたからだ。

先輩の通っていた高校では、そういうものだったらしい。

ちなみに、先輩が通っていたのは魔王学園ではない。


それはさておき。

僕は、昼休みと放課後に風紀委員会を見学した。

バイトの先輩が言っていたような人達は、風紀委員にはいなかった。

体育会系で厳しそうではあったけれど、常識の範囲内だ。

新人育成で、たまに聞く【パラシュート部隊】があったらどうしようかと思っていたから、事前に見学できて本当によかった。


僕自身、偏見に塗れていたことがわかって、とても良かった。

今後、気をつけていこう。


「今日はありがとうございました」


見学が終わり、僕は案内役をしてくれた風紀委員長へ丁寧に

お礼をする。

風紀委員長は、生徒会から呼び出されたときに生徒会長の横にいたあの女子生徒である。

クォールスロー家の長女、ミーティア・クォールスローさんだ。

副会長のお兄さんは、クロウさんと言うらしい。


「どこに入るのかは決めた?」


ミーティアさんが、僕に聞いてくる。


「そうですね……」


実際のところ、迷っていた。

嫌がり過ぎるのも良くない。

それが、この委員会見学で僕が得た見地だ。


魔王に選ばれたのは、もうどうしようもない。


どうしようもないのなら、仕方ない。

それに、何事も経験だ。

コンビニバイトを始めた時だって、レジ操作もなにもわからなかった。

でも、覚えられた。

覚えていけばいい。

そう、考え直す。


人を殴ったり蹴ったり、魔剣でどつくのは、まだ怖いし、出来る気はしない。


けれど、それだって覚えなければならないのなら、覚えてみるしかないのだろう。

仕事なのだから。


「風紀委員に入ります」


この風紀委員での経験が、【守り人】として将来役に立つのならそんなに悪いことでもないと考えた。

今のところ、僕に将来の夢は無い。

元々、そんなもの無かった。


いや、あったけれど。

それはもう叶えられない。


母さんを旅行に連れて行ってあげたかった。

父さんと新婚旅行したという思い出の場所に、連れて行ってあげたかった。


叶えてあげたかった人は、もうこの世界のどこにもいないのだから。


もしも母さんが生きていたら、いまの僕を見てなんて言っただろう。

わからない。

魔王に選ばれたことを喜んだのか、悲しんだのか。

わからない。

女の子を、仕方ないとはいえ蹴った僕を見てなんて言ったのか。

そんな、どうしようもないことを考えながら、僕はミーティアさんを見た。

ミーティアさんは、ニコリと笑った。

僕の横に立っているエリーも嬉しそうだ。


でも、僕はこれが嬉しいことなのか、よくわからない。

わかっているのは、魔王として生きていくなら。

委員会活動は、きっと役に立つだろう、ということだけだった。



数日後。

今日明日は世間はお休みだ。

なので、僕はバイトに明け暮れていた。

喫茶店のバイトだ。


「そんなことがあったので、喧嘩を教えてください」


休憩時間。

休憩室にて。

僕は、賄いのハンバーグ目玉焼き丼を突つきながら、バイトの先輩へそうお願いした。

歳は二十歳前後。

おっとりとしたタレ目でメガネをかけた、お姉さんである。

店長曰く、タチの悪い元ヤンらしい。

今は、ハードカバーの小説を読んでいる。

この前出たばかりの新刊だ。

先輩は、天下をとった最強最悪のチームのヘッドをしていたお姉さんである。

なんでも、高校卒業記念と称して、竜騎兵が使うドラゴンを盗み出して王都中暴れ回ったとかなんとか。


「そんなのは、近づいて蹴りか拳を顔に叩きつければいいだけ。

頭突きもいいかもね」


「いえ、そういうのじゃなくて。

こう、体の使い方、的な」


「戦闘訓練なら、魔王軍が定期的にワークショップ開いてるからそっち行きなよ」


そんなのあるんだ。

知らなかった。


「あー、それはちょっと」


魔王紋のことがバレたらまずい。

なにせ魔王()だ。


「……ま、いいけどさ。

でも、結局風紀委員にしたんだ?」


「色々考えた結果でして」


「……自分の事じゃないから、別にいいけど。

ツクネは結構抜けてるからなぁ」


「?」


「包帯はもう少しキツめに巻いた方がいいよ」


言われて、僕は右手を確認した。

包帯が解けかけていた。


「火傷の痕、一生消えないんでしょ?」


この先輩にも、店長にも、そして他のバイト先の人達にも、包帯の理由は火傷だと伝えてある。

そして、その痕は、いま先輩が言ったように一生消えないと診断されたと伝えてあった。


でも、多分だけど先輩は気づいてそうだ。

確認したことはない。

しようとも思わない。

向こうがこっちの意を汲んで、知らん顔してくれるならそれに越したことはないからだ。

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