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小娘が突っ込んでくる。


「……おっそ」


俺は、それをひょいと避ける。

避けざま、小娘の背中へ剣の柄で打撃を与える。

それだけ、たったそれだけで小娘はバランスを崩し地べたに転がってしまう。

観客と、他ならない小娘がなにが起きたかわからない、という反応をする。


小娘は立ち上がり、剣を振ってくる。

それを適度に剣で受け止め、腹を蹴りつける。

また、小娘は地面を転がった。

土汚れがつく。


「ごほごほ」


小娘が咳き込んだ。

しかし、すぐにまた向かってきた。

徐々に、小娘が焦り始める。

一撃も俺に与えられないからだ。

その焦りを煽らせる。

今度は足払いをかけて、転ばせた。


「……なんでっ」


小娘からそんな声がもれた。


わけがわからない。

どうして、攻撃が当たらない。

なんでこんな奴に負けてるのか。


そんな感情がごちゃ混ぜになった声だ。

その焦りが、次第に小娘の動きを獣めかせてくる。


「なんでって、そりゃ」


俺は踏み込んだ。

小娘の持つ剣へ、重い一撃を食らわせる。

小娘の手から剣が落ちた。


「俺の方が強いからだろ」


もう一度、また腹へ蹴りを入れた。

小娘は転がる。

止まる。

そして、立ち上がろうとしたその首筋へ剣の切っ先を向ける。


「……満足したか?」


小娘が俺を見上げてくる。

そして、悔しそうにがっくりと項垂れた。

少々やり過ぎたかもしれない。


俺は、目を閉じる。



そして、僕は意を決して瞼を開けた。

飛び込んできた光景に、僕は言葉を失う。

目の前には、土でどろどろに汚れたエレインさんがいた。

両手を地面について、顔も下に向けている。

周囲には、歓声をあげる生徒たち。


「え、ええ??」


どういう状況??

これ、どういう状況??

僕は今の今まで、トイレにいたはずだ。

ここは、グラウンド?

移動した記憶が全くなかった。

ふと、校舎が目に入る。

そこに飾られている時計を見る。

この時計は正確に時を刻んでいる。

トイレに入ってから、十数分が経過していた。

決闘の指定時間からも過ぎている。


「なに、これ?」


僕は、うすら寒いものを感じた。

決闘時刻を過ぎた時計。

現在地はグラウンド。

そして、目の前には土で汚れ、項垂れているエレインさん。

さらに、この歓声。

決闘が終わっていると理解できた。

でも、僕にはその記憶がなかった。


「勝者、ツクネ・アルスウェイン!!」


横から、そんな聞き覚えのありすぎる声が届く。

ティオさんの声だ。

そちらを見る。

ティオさんが満足そうに、僕を見ている。

かと思ったら、拍手をしながら近づいてきた。


「おめでとうございます。

素晴らしかったですよ、十代目」


十代目、の部分は声を小さくしてティオさんはそう言ってきた。


僕は、それに答えられない。

わからない。

記憶がないのだ。

僕はエレインさんを見た。

あちこちに蹴りのあとがある。

僕、女の子蹴っちゃったの?!


「あ、あの、大丈夫ですか??」


僕はエレインさんへ、声をかけた。


「立てますか?」


エレインさんが、僕を見る。

決闘を申し込んできた時のような、色はどこにもなかった。

けど、立てないようだった。


「すみません、失礼しますね」


僕は彼女に触れた。

抱き抱える。

頭は打ってなさそうだったのと、ここから非常口から校舎に入れば保健室はすぐ近くだった。

バイトの時も、こうやって倒れたお客さんを運んだことがあるから、その経験が役に立った。


バイトしてて、ほんとに良かった。


僕は彼女を保健室に運ぶと、保健医に任せてさっさと出てきた。

出たところで、ティオさんとぶつかりそうになる。

けれど居心地の悪さもあいまって、僕は校舎内をめちゃくちゃに走って、人が誰も来ないところまで来る。


「なになになに??!!

何が起こったの?!!」


そう自分に質問する。

けれど答えは見つからない。

意識がなかった。

記憶がなかった。

怖くて、仕方ない。

僕は、魔剣を見た。

これで、二度目だ。

意識が途切れたのはこれで二度目だ。


やっぱり、僕は呪われているのかもしれない。


その時、携帯電話が震えた。

見ると、ティオさんからだった。

画面をタップして、通話する。


『いきなり走り去るから驚きましたよ』


「あ、あのっ」


僕は、混乱した頭で今のことを話そうとする。

でも、


『流石は十代目です。

ラングレード家の者を打ち負かすとは』


「ち、ちがっ!!」


僕は言葉を捻りだそうとする。

でも、上手く言葉にならない。

エレインさんは泥だらけだった。

アレを僕がした?

信じられなかったし、信じたくなかった。


僕は、自分になにが起きてるのかさっぱりわからなくて、ただただ怖かった。

携帯電話の向こうで、ティオさんが僕を褒めてくる。

でも、それを素直に受け取ることが出来ない。

頃合を見計らって通話を切る。


その後、僕は母さんの墓参りに行った。

ティオさんには上手く言葉で説明できる気がしなかった。

そして、こんなことを相談出来る相手が身近にいなかった。

でも、誰かに話を聞いてほしくて、思い出したのが母さんだった。

母さんは父さんと一緒に墓に入っている。

僕は母さん達の眠る墓の前に来ると、膝をついて指を組んで、今日あったことを打ち明けた。


ティオさん対してとは違い、すらすらと言葉にできた。

やがて、話終えると僕は墓に問いかける。


「僕、どうしちゃったんだろうね?」


当然ながら、返答はなかった。




そして、翌日。

いつも通りに牛乳と新聞の配達バイトを済ませて登校すると、生徒たちの視線が僕に向けられた。

学年もクラスも関係なく、注目の的となっている。

漏れ聞こえてくる彼らの話を総合すると、やはり昨日の決闘騒ぎが原因のようだった。


違うのだ、と声を大にして叫びたかった。


そんな僕の前に、エレインさんが現れた。

さらに周囲の生徒たちの注目が集まる。


「あ、その、おはようございます」


エレインさんは、いつもの制服姿で僕の前に立っている。

土汚れなんて着いていない、綺麗な制服姿だ。

彼女は黙ったまま、僕の目の前まで来ると片膝を着いた。

頭を下げる。

映画で見た事ある光景だ。

騎士が王様に対してする、行いだった。


「……え?」


これには、周囲がどよめいた。


「昨日の決闘、完敗でした。

そして、自分の不甲斐なさを思い知りました」


なんて、エレインさんが言ってくる。


「私は驕っていたのです。

貴方はそれに気づかせてくれた。

感謝します。

そんな愚かな私を、貴方はわざわざ保健室まで運んでくれた。

その慈悲深さと寛大な御心に感服しました。ありがとうございます。

これは私からの、せめてもの誠意の証としてお受け取りください」


エレインさんはそう言ったかと思うと、僕の右手へ優しく触れる。

そこには、魔王紋を隠すための包帯が巻かれている。

その包帯の上から手の甲へ、彼女は口付けた。


「……はい??」


あとで知ったことだけれど、これは忠誠を誓う儀式のようなものらしい。

相手が僕じゃなかったから、きっととても絵になっていたと思う。

エレインさんが顔をあげて、僕を見てくる。

まっすぐ、見てくる。


「貴方に永遠の忠誠を誓います

どうか、愚かな私をお傍においてください」


あまりにまっすぐで、綺麗な目で、そんなことを言われてしまって。

そして、こんなことは初めてだったから、


「え、あ、はい」


そんな返答をしてしまった。

彼女の顔がパァっと明るくなる。


「良かった!嬉しいです!!」


こうして、この決闘騒ぎは幕を閉じたのだった。

その後、少し日をおいてから僕は改めて報告掲示板を建てて、この一連のことを書き込んだ。


魔剣を抜いた時のように、誰かに話を聞いてほしかったのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔剣怖いぃ エレインさんかわいいね。 [一言] なんとなく読み始めたら面白かった。 擬古猫のズザーとか懐かしすぎる…
[良い点] 感想欄解放ありがとうございます [一言] 「来ちゃった♡」なんて生温い魔剣じゃなかったな 意識を乗っ取る系なのか、凶暴な人格を発現させる系か
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