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「な、なんのことやら」


僕は魔剣を胸の前で抱きしめる。


「こ、この剣は、教材カタログを見て、決めて、購入したやつで」


怖くて、つい顔を背けてしまった。

怒鳴り散らすクレーマー客より怖いって、どういうこと?!


「違うよ」


僕の言葉を、エレインさんはバッサリと切って捨てた。


「私にはわかる。

それは、本物の魔剣。

偽物かと思ったけど、違う」


エレインさんは足を元に戻して、続ける。


「ねぇ、どうして貴方なんかがそれを持ってるの?」


貴方、なんか。

そうだよねぇ、そうなるよね。

エレインさんは、僕が人間だとは知らない。

でもこう判断するのには、もちろん理由がある。

僕は、小学校中学校とそうだったけれど運動神経が悪い。

普通の走り込みでは、ビリ。

球技だと顔にボールを受ける。

座学だと、覚えが悪すぎて当てられても答えられない。

リュークの言う落ちこぼれに相当する。

家庭教師を務めてくれているティオさんも、内心では嘆いているに違いない。


「…………っ」


僕は、答えられない。

良い言い訳が出てこない。

教材用だと言い張ればいい。

それは、わかってる。

でも、彼女は見抜いてる。

確信を持って、僕に聞いている。

下手な嘘をつけば、殴られるかもしれない。

それこそ、殺されるかもしれない。

彼女は暗殺をしてくるかもしれない家の子だ。

そして、魔王になるために生きてきた子だ。

彼女の色んな噂話を聞いた。

彼女の色んな武勇伝を聞いた。


聞けば聞くほど、彼女こそが魔王になるのに一番近かったことがわかった。


僕は、彼女の手を見た。

剣ダコと傷がある。

決して綺麗な令嬢の手ではなかった。


僕が答えないでいると、エレインさんは僕の右手の甲をふと見た。

そして、抱えていた魔剣から右手を無理やり剥がされる。


「え、ちょ、や、やだ!!」


僕は、彼女の手を払おうとする。

でも、彼女はビクともしない。

彼女は淡々と、僕の右手に巻かれた包帯に触れた。


マズイ。

まずいまずいまずいまずい!!!!


「や、やめっ!!」


僕が言うより先に、彼女が包帯を解く。

ハラり、と包帯が落ちていく。

そして現れたのは、


「……魔王紋」


エレインさんが、呆然と呟くのが聞こえた。

そして、悲しみと絶望で彼女の顔がくしゃくしゃに歪む。

それだけでわかった。

彼女は本当に魔王になりたかったのだ。

その夢が絶たれた。

この紋章は、そんな事実を彼女へ叩きつけるのに十分だった。


「どうして、なんで、なんで貴方なんかが!!」


胸ぐらを掴まれる。

睨まれる。

彼女は拳を握った。

そして、その拳が僕へ向かってくる。

僕は、目をつぶって衝撃に耐えようとする。


ドカッと、横から壁を殴った音がした。


恐る恐る目を開ける。

エレインさんの、怒りと悲しみがごちゃ混ぜになった顔が真正面にあった。

彼女は僕ではなく、音の通り壁を殴っていた。

その拳を引っ込める。

そして、


「次の授業、私と模擬試合しなさい」


「へ?」


「貴方が魔王に相応しいか見てあげる」


「む、無理です!!」


「あら、それは私を倒せる自信があるということかしら?

そりゃそうよね、だって魔王紋が刻まれているのだから。

魔剣を抜いて、魔王に選ばれるほどの実力者ってことですものね」


ち、違う違う違う違う!!

話きいて、お姉さん?!


「そ、そうじゃなくて!!」


「あぁ、そうよね。

魔王様に対して、模擬試合は失礼ね。

貴方に決闘を申し入れるわ」


待って待って待って!!

本当に、ちょっと待って、止まって?!

ね、ちょっと止まろうお姉さん?!


「日にちは改めて知らせる。

こちらが申し込んだのだから、舞台は手配しておくわ」


そうじゃなくて!!

僕、初心者!!

剣だって、この数日で初めて握ったくらいだし!!


でも、僕がそれを伝える間もなく、彼女は去ってしまう。

僕は、ただ立っているしかできなかった。

やがて、気づいた。

魔王紋のこと、口止めをお願いしていなかった。

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