私は、ある人に特別な感情を抱いた。
しかし、その人は姉に特別な感情を抱いていた。
ちょっと鈍感な姉は、そんな私たちの気持ちに気づかず、違う人に恋をしてしまう。
なんてベタなドラマ的展開ではないか。
ただ現実は、そのドラマ的展開とちょっと異なる。
姉は違う人に恋をしないのだ。
間違わず、私の好きな人の気持ちに気付き、二人は相思相愛になる。
つまりこれは、
主人公(姉)を見守る、サブキャラ(妹)の話だ。
*
私、胡桃沢りくには好きな人がいた。
2歳年上の幼馴染で、姉の同級生である天城千遥だ。
小さい頃から姉に連れられて、二つ学年が上の幼馴染たちと遊んでいたため、
面倒見がよくムードメーカーでいつも私を楽しませてくれた千遥を、
好きになるのに時間はあまりかからなかった。
だがそれと同時に、いつも千遥ばかり目で追っていたから、
そんな彼が誰を見て、誰を想っているのかもすぐ見当がついた。
千遥のことが好き。
家族へ向けるそれでも、友達に向けるそれでもない、好きだ。
だがその気持ちに気付いた瞬間、私は同時に失恋したのだ。
誰よりも尊敬して大好きな姉のせいで。
姉の胡桃沢そらは、魅力的な人間だと思う。
愛嬌のある顔形に、性格はおしとやかに見えて天真爛漫。
何事にも一生懸命で、いつも輪の中心にいる敵を作らないタイプだ。
決して完全な優等生ではなかったが、勉強はかなりできた。
物怖じせず自分の意見をハキハキ話すタイプで、先生たちからの評価も高かった。
声が可愛らしく、歌うことが好きだった。
非の打ち所がないとはこのことである。
何をとっても平均的な私にとって、そんな姉は憧れの存在であった。
そうまさに、姉はドラマの主人公的人間なのだ。
だから、勝手にどこかで安心してしまっていた。
この先の結末を、勝手に想像してしまっていた。
私が思うドラマ的展開は、千遥が高校生になった時に終わりを告げた。
私の予想を反して、そらと千遥は恋人になってしまったのだ。