第50話【サナールへ戻ったふたりを待つ者は】
ラーズの依頼を無事に終えた僕達は次の日、護衛と共にサナールへと馬車を走らせた。
道中は穏やかもので盗賊はおろか中型の獣とも遭遇しなかった。
「結局、今回も楽をさせて貰ったようだ」
サナールへ到着した僕達に行きがけと同じ護衛依頼を受けてくれたマドルク達が挨拶をしてきた。
「道中、いろんなお話が聞けて楽しかったです。
また、お会いできると良いですね」
メイナがリリスの手を握って別れの挨拶をする。
「サナールが拠点なんだろ?
また、別の町に行くときは俺達を護衛に指名してくれよな。
あんた達となら楽に依頼がこなせそうだ」
バグルが笑いながら今後の営業をする。
見た目と違って意外とその辺はしっかりしているのかもしれない。
「皆さんありがとうございました。
この依頼完了報告書をギルドに提出して報酬を受け取ってくださいね。
また、街間の移動があればお願いする事もあるかと思いますのでその時は宜しくお願いしますね」
僕はリーダーのマドルクと握手をして別れ診療所へと向かった。
* * *
馬車を戻して徒歩で診療所へと最低限のバッグ以外は荷物を持たずに手ぶらで向かう僕達は久しぶりに見る我が家のドアを見て愕然とした。
そこには数多の治療依頼の紙が所狭しと貼ってあったからだ。
「うわぁ。凄い数だな、まあカルカルへの往復と用事を済ませるのに10日以上留守にしていたからな」
「とりあえず、斡旋ギルドにだけは帰ってきた事を伝えておいた方がいいかもしれないわね」
「そうだな。長旅で疲れてるけどこの足でギルドに連絡だけはしておくか……。
リリスはどうする? 一緒に行くかい?」
「そうね。
それでもいいけど色々とやらないといけないことがあるから私は診療所で待ってるわ。
あ、でも一度家に入って荷物を収納魔法から出して行ってくれるかな?
片付けてご飯の用意もしたいから」
「了解ですよ」
僕はそう言うと収納魔法からカルカルで買い求めた品々を次々と出して並べていった。
「やっぱり便利よね。収納魔法」
リリスは半分感心して半分呆れながら僕の行動を見守った。
「じゃあ、斡旋ギルドに行ってくるよ」
僕は彼女にそう伝えると斡旋ギルドの建物を目指して歩いて行った。
――からんからん。
斡旋ギルドのいつものドアベルが鳴る。
「サナール斡旋ギルドへようこそ。
あっナオキさん。サナールへ戻られたんですね。
ギルマスが話があるそうなのでこちらにどうぞ」
受付案内の女性が僕の顔を見るとすぐさま会議室へと案内する。
正直言って嫌な予感しかしないがギルマスの名前を出された時点で帰る事は不可能な選択だった。
僕が部屋に入るとすぐに紅茶が運ばれてきてそれを飲みながらほんの数分待っただけで彼はやってきた。
「直接話すのは初めてだったかな?
このギルドのマスターを務めているアルフだ。
まずは妹と姪のアザの治療を引き受けてくれてありがとう。
特に姪のナナリーはアザが消えて大層喜んでいたそうだ」
アルフはそう言うと僕に頭を下げた。
「いえ、僕は治癒士としての職務を果たしただけですので、患者様が喜んで貰えればそれで満足ですよ」
「ありがとう、そう言ってくれると私も助かるよ。
あれは君の噂を聞いた妹が依頼をねじ込んできたから私としても無茶は承知で君に頼る形になったんだ。
ところで今日までカルカルの町へ行っていたそうだが用事は済んだのかい?」
「ええ、当初予定していた用事は済ませてきましたが、ギルドから何か依頼でもあるのですか?」
「いや、先立って緊急性のある依頼はないが君の診療所がいつ行っても閉まってるとギルドに問い合わせが何度も来てね、結構大変だったんだよ」
アルフは苦笑いをしながら紅茶に口をつける。
「はあ、それは大変でしたね。
僕の診療所はギルドと提携している訳ではないですからこちらに問い合わせても無駄なんですけどね」
僕はアルフの『迷惑料を払え』的な話しの内容を普通にスルーすると「お話はそれだけですか? であれば明日の準備がありますのでこれで失礼しますね」と言ってソファから立ち上がった。
「まあ今回は妹の件もあるし、これ以上は止めておくとしましょう。
また、頼みたい案件もあるでしょうからね」
と言いながら一緒に席を立って僕をギルドの入口まで送ってくれた。
「では、また。
なにかご入用でしたら斡旋ギルドへお越しください」
アルフはそう言うと軽くお辞儀をして僕を見送った。
* * *
「戻りました」
「おかえりなさい。
ギルドの方はどうだった?
なんか無理難題を言ってこなかった?」
帰ってきた僕を見るなりリリスが僕を質問攻めにする。
「いや、別に大した事は無かったよ。
ただ、僕達がカルカルに行っていた間に診療所を訪れた患者さんがギルドに問い合わせをしたらしくて対応が忙しかったと嫌味を言われただけだよ」
「大丈夫だったの?
迷惑料の請求や依頼の貸しだとか言われなかった?」
「普通にスルーしてきたよ。
まあ、あのギルマスにはアーリーさんとナナリーさんの件で貸しがあったから特に無茶は言われなかったよ」
「それならば良かった。
こっちも一応だけど明日の準備は終わったから夕飯の準備をしていた所よ。
出来たら一緒に食べようね」
「ああ、ありがとう。
さてと、明日は忙しい一日になりそうだな」
その後、夕食を早めに食べた僕は旅の疲れからか深い眠りに落ちていった。




