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第39話【リリスの里帰り②】

「――この子は産まれた時から体が弱くて私がついてないと歩く事もままならないんです。

 実は先日、主人を事故で亡くして途方にくれていました。

 しかし、#何時__いつ__#までも悲しんでいてはこの子も私も生活が出来ないと働き口を探していたのですが、家にこの子を一人で置く訳にもいかず#何処__どこ_#か住み込みで働かせて貰えるようにと探したのですがなかなか見つからず途方にくれていました」


 マヤは娘の頭を撫でながら続きを話す。


「そんな時、斡旋ギルドで腕の良い治癒士と言われる職業の方が居ると聞きまして、紹介して頂こうとしたのですが少し前に領都サナールへ行かれたと言われたのです」


 その話を聞いたリリスは僕に顔を寄せて「絶対にナオキの話だよね?」と囁いた。


「それだけ有名な方ならばサナールに行けば何とか会うことが出来るのではないかと思い、ふたりで町を出たのです」


「馬車を使おうとは思わなかったのですか?

 いくら何でも小さな子供を背負ったまま歩いて行ける距離ではありませんよ」


 僕の言葉にマヤは表情を曇らせて「持ち合わせがありませんでしたから……」と悲しげに言った。


(そう言えば僕も昔、領都までの馬車料金を聞いたときはたしか金貨2枚と言われたような気がする……。

 子供も居ればなおさらお金がかかるだろう)


 僕はリリスの耳にそっと呟くと彼女が頷いてくれたのでマヤに話を伝えた。


「いきなりですみませんが、僕にマリさんを診せては貰えませんか?」


「えっ?」


 僕の言葉にマヤが疑問の言葉を投げかける。


「それはどういう事ですか?」


 マヤの不安そうな表情に『ここは任せて』とばかりに同性のリリスが僕に変わって彼女に説明をする。


「おそらくですが、彼があなたの探していた治癒士だと思いますよ。

 彼は元々、カルカルの斡旋ギルドに所属していた治癒士で今は領都サナールに診療所を構えて領民を相手に治療を施しています。

 今回はたまたま私の事情に付き合ってカルカルへ向かっているところだったのです」


「ああっ!

 何ということでしょう!

 こんな偶然があって良いのか分かりませんが女神様には感謝しかありません」


 マヤが突然手を併せて天に祈りだした。


「では、まず身体の状態を確認させて頂きます」


 僕はそう言うと鑑定を使ってマリの身体を調べていった。


「ふむ。身体に宿る魔力の不足と循環器官の詰まりに原因があるようですね。

 大丈夫。治りますよ」


 僕はそう言うと少女の胸に手を置き魔法を唱えた。


完全治癒ヒール


 魔力の注入が始まり、マリの身体が薄ぼんやりと光を放ち出した。


「これは一体?」


 初めて目にする治癒の光にマヤは呆然となり、じっと娘を見つめていた。


「ーーーもう大丈夫ですよ。

 娘さんの病気は完治しましたが慣れるまで少しリハビリが必要でしょう。

 どう? 痛みは無いと思うけど……」


 僕はマヤに治療が終わった事を告げ、マリをそっと抱えてその場に立たせてあげた。


「あっ!? そんな事をしたら倒れちゃう!」


 マヤが慌てて娘に駆け寄るがマリはしっかりと自分の両足でその場に立っていた。


「たって……る?」


マリが自分の状況を把握しようと足を動かす。


「ある……ける」


 マリは転ぶことも無くその場でゆっくりとだが自分の足で地面を踏みしめながら歩いていた。


「あ……ああっ!! マリ!!」


 突然マヤが涙を流しながら娘を抱きしめる。


「ありがとうございます。

 ありがとうございます」


 涙を流し娘を抱きしめたままマヤが何度もお礼を繰り返す。


「マヤさん。娘さんも治った事ですし、もう住み慣れない領都へ行く必要はありませんよね?」


 リリスがマヤの肩に手を置いて目線を合わせて語りかける。


「ご主人の事はお辛いでしょうけど娘さんと暮らして行くならば住み慣れたカルカルの方が心が落ち着けると思うんです。

 カルカルの斡旋ギルドには知り合いも居ますので仕事の斡旋が出来ないか調べて貰うようにしますので一度カルカルへ戻られませんか?」


 リリスの言葉に僕も追従する。


「そうですよ。

 それにこんな危険な夜更けにおふたりだけにするなんて出来ませんので僕達と一緒に馬車でカルカルまで行きましょう」


「本当に宜しいのでしょうか?

 先程初めて合ったばかりで娘の治療もして頂いたのに何も返せるものを持っていません。

 そんな私達に手を差し延べてくださるのですか?」


 マヤは涙ながらに僕達に問う。


「もちろんです。

 本来ならば皆が幸せになるべき世の中が良いのですが、人生には様々な分岐点がありますので皆が同じという訳にはいかないです。

 しかし、だからと言って目の前の人が落ちていくのを黙って見ていられるほど無神経ではないつもりです。

 なので今回は僕のお節介として受け入れて貰えたら嬉しいです」


 もちろんこれは僕独自の意見ではなくリリスと話して決めたシナリオだった。


 もちろんマヤ親子に同情したからもあるが、リリスも勝手に辞めた形になっている斡旋ギルドへの贖罪しょくざいとして仕事を依頼したかったからでもあった。


「ありがとうございます。

 本当にありがとうございます」


 何度もお礼を言うマヤに僕はほんの少しの後ろめたさを感じながらも『娘さんの治療費はサービスしてあげる代わりに少しだけ協力して貰うだけだ』と自分を納得させた。

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