第140話【領都へ向かう馬車の中で】
「――おはようございます」
次の日の朝、少し早めに起きた僕達は時間に遅れないようにと1階へと降りて、先に宿の精算を済ませてから朝食を注文していた。
「ねえ、ナナリー。確か昨日は集合場所に集まるって話してなかったかな?
どうしてここに居て一緒に食事をしてるのか教えてくれない?」
「どうしてかと言われると『私もこの宿に泊まったから』と答えるしかないですね」
どうやらナナリーはあの後ギルドで書類の処理をしてからもう一度宿に来て泊まったらしい。
「実は、帰ったらお母様に『ナオキ様の部屋に泊めて貰いなさい』と言われて家を追い出されてしまったのです。
で仕方なく宿まで来たのですが、さすがにおふたりが寝ている部屋に押し入るのは気が引けて仕方なく自分のお小遣いで一番安い部屋を借りたんです。
まったく酷いと思いません?」
「ああ、あの人ならばやりかねないな」
「そうね」
僕達はアーリーギルドマスターの顔を思い浮かべながら苦笑いをした。
「――それじゃあ待ちあわせの噴水広場に行きましょうか。
ってあれ? ナナリーは?」
リリスがそう言うと部屋の奥から何やら重そうなリュックをよたよたとしながら背負ったナナリーが現れた。
「ちょっと待ってくださいよぉ」
「うわぁ……。
なんか凄い量の荷物だね。
これ全部持っていくつもりなの?」
リリスがあ然とした表情でナナリーの荷物に目をやる。
「いくらなんでもそれは荷物が多すぎないか?」
僕もその量を見て思わずそう言葉が出る。
「そうなんですけど、暫く向こうに滞在する事になりそうなので、どうしても荷物が多くなっちゃうんです」
「ま、まあ女性は荷物か多くなるのは仕方ないのかな?
とりあえず、サナールに着くまでは僕のスキルで運んであげるよ」
僕はそう言いながらナナリーの荷物を収納魔法に入れていく。
「――何なんですかそのあり得ない魔法は!?」
あ然とするナナリーに「そういえば話した事無かったな」と言いながら「治癒魔法と一緒に神様から授かった能力なんだ。完全に隠している訳じゃないけど大ぴらに公言してもいないから『そんなものなんだ』くらいにとらえてくれたら助かるな」と笑って誤魔化した。
「そう言えばナオキ。治癒魔法は上手くいかないけど収納魔法には影響なかったの?」
リリスが今さらながらにそう聞いてきたので僕が答える。
「そうだね。治癒魔法も魔力注入が不安定なだけで発動自体は出来ていたからね。
同じ事で収納魔法も出し入れが不安定だったけど前よりは安定してきたし治癒魔法ほど魔力操作が必要ないみたいで今は特に問題なく使えるみたいだね」
「それなら良かったわ。
もし、ナオキが収納したまま死んだらその荷物はどうなるの?」
「どうもならないだろうね。
多分だけど異空間に入ったまま二度と取り出せなくなるだけだと思うよ」
「まあ、そうなるわよね……」
僕達の会話について行けないナナリーが困った表情で「それよりもそろそろ時間が……」と言い出したので僕達は慌てて宿を出た。
「――お待たせしました」
僕達は予定の時間ギリギリに集合場所へとたどり着いた。
そこには既に馬車が待機しており、僕達を待っていたのであろう御者や護衛の面々がこれからの予定の確認をしていた。
「時間どおりですね。
ではサナールへ向けて出発しましょうか」
「宜しくお願いします」
――こうして僕達に加えてナナリーも一緒に馬車へと乗り込み温泉の町バグーダを出発する事になった。
* * *
「領都サナールまでは約5日程の旅ですが、ナナリーさんはサナールへは行かれた事はあるんですか?」
今回の旅は王家から斡旋された馬車隊で身の回りの事や安全に気を使う事が無いため話をするか眠るしかやる事が無かったので必然的にナナリーの話を聞くことが多くなった。
「そうですね。小さい頃に何度か行った事はありますけど最近はバグーダで習い事や仕事をしてるので訪れてないですね。
案内書を訪れる旅人に話を聞くとかなり発展している様子ですので行くのが楽しみです」
ナナリーはそう言って笑った。
「そう言えばナナリーさんはかなりの荷物を持って行ってましたけど、領都で何をするのかは聞いてるんですか?」
「それが……。
お母様からは『領都斡旋ギルドマスターに手紙を渡して指示を受けなさい』と言われたのと『暫くかかると思うから泊まりの準備もして行きなさい』とも言われました」
「ふーん。領都でしばらく研修でもするのかな?」
「どうなんでしょうね。そのあたりの事はお母様は何も教えてくれませんでしたから……」
ナナリーはそう答えると話を僕達の事に切り替えてきた。
「それでおふたりはカルカルへ戻られたら何をされる予定なんですか?
今回の叙爵で無理をする必要が無くなったと思うんですけどやっぱり治癒士として薬師との調整をしながら患者を診ていくのですか?
あっ、もちろんナオキ様の調子が良くなってからの話ですけど……」
「うーん。今の時点ではなんとも言えないかな……。
僕も出来ればそうありたいと思ってるけど名誉爵位とはいえ貴族の仲間入りをした僕のもとに治療を受けに来てくれるか心配ではあるんだよね。
まあ、でも何かしら町に貢献出来る事を考えていきたいと思ってるよ」
隣で僕の肩にもたれかかりながら半分眠っているリリスを気づかいながらそう答えた。
「それは良い考えですね。私も何かお手伝いが出来たらと思います」
僕の答えに満足したナナリーは僕の前でニコリと微笑んでそう言った。
そんな話をしながら馬車は領都サナールへ向かって順調に進んでいた。




