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「今回の収益も上場に」
「ますます我が国の未来が明るいことを」
「皇帝陛下もお喜びになっている」
色とりどりの、お菓子やお茶が並べられたテーブル。
花の香りに囲まれながら、まずは他愛もない話をする。
「やはり、土産屋の規模拡大はもう少し後の方がいいかのォ」
「モグモグえぇ姫尚七もそう思いますわ」
「鬱屈した日常から"逃げ”、一時の"快楽”を見せる”京”」
「人呼んで逃幻京は、良くも悪くも欲望が集まるので」
「訪れた事を隠したい人たちもまだまだ多い」
「土産なんて持ってのほかですわモグモグゴキュ」
「そうか...最近、龍杏では物販の売りも順調だったからのォ」
「もしかしたらと思っただがのォ」
「龍杏の土産物はデザインが凝っていて、パっと見」
「逃幻京のものとは思わないので、」
「手に取りやすいのでしょう」
「玉ノ与もいい加減」
「心機一転、デザインを変更したいのですが」
「何も産まぬガラクタに金を掛けるよりも」
「明日に繋げるわが身を磨くほうが利口だと」
「融資を受けてまで遊女達の開拓に励む店舗は減らないです」
「ガハハ!|玉ノ与は特に古株が多いからなァ」
「日々集客こそ伸びているが、」
「色物への偏見はまだまだ減らぬのは」
「内も外も変わらぬなァ!!!」
暁灯の大きな笑い声で、堂々巡りの会話が終る。
そして、"本題"を切り出したのは他でもない皇子、花繚だった。
「暁灯。暁月の噂もかねがね聞いてるよ」
「何でも、とても素敵なお客様が来たのだとか」
音も立てずに紅茶を呑み、そう暁灯に尋ねた花繚。
暁灯は、その問いにもう一度「ガハハ」と笑えば、自身げに言った。
「皇子に隠し事は出来ねェなァ!」
「あぁ、来たぜェ...!!」
「――― エルシオンの皇子様がよォ」
逃幻京の隣国に位置する、英雄国”エルシオン”。
暁灯がその名を口にした瞬間、空気が変わった。
「今後の為に、モグモグどのような持て成しをしたのか」
「是非聞かせてほしいわね。暁灯様」
ピリピリとした肌を刺すような空気。
だが、その場にいるものは、皆、どこか楽しむかの様な、冷淡な笑みを見せていた。
「そうじゃァのォ」
「近々龍杏にも上客が来る予定じゃから」
「話してくれると、とても助かるぞ」
「來ノも聞きたいです」
「ガハハ焦らしはせん!!」
「とても心躍る素敵な物語だ」
「フフ今回の会合は長くなりそうですね」
「紅茶を追加いたしましょう」
花繚の言葉どおり、会合は日が沈むまで続いた。―――
*
*
*
「おかえりなさいませ。來ノ様」
「本日の会合はいかがでしたか?」
「そこそこ有益な時間だった」
「このまま 藍ノ様にご報告に行くから」
「今日はもう先に休みなさい」
「かしこまりました」
「それでは失礼いたします」
屋敷に戻れば軽く身なりを緩めて、早々に重厚な結界の張られた廊下くぐりm一番高貴で古臭い部屋へと行く。
きっと、来ノが部屋の前に居るこは、部屋主も気がついているのだろうが、親しき仲にも礼儀あり。
來ノは、数回ノックをして自身の名を告げた。
「來ノです」
ギギギ ―――
ゆっくり開きだす扉。
部屋主、改め藍ノの姿が見えれば、一礼して中へと入る。
「体調にお変わりはございませんか?藍ノ様」
「あァ、お蔭様で」
「それより今日は随分とおめかししているね」
「...藍ノ様まで」
「どうして皆さん素直に可愛いと言えないのでしょうか?」
「ハハすまない」
「それじゃァ可愛いよ來ノ」
「さァもっと近くで見せてくれ」
スッと伸ばされた、しわくちゃな手。
近くに行けば懐かしい香に包まれる。
來ノは、投げありな褒め言葉を不服に思いながらも、数回撫でられればつむぐ口を開いた。