会合
この世界は、現世と同じで幾つもの国があり都がある。
私たちが住む「逃幻京」は遊郭を生業とする国で、「花」の一族が収める桃花の邑を中心に
「七」の一族が|"#卯李七"《ういな》。「暁」の一族が|"暁月"《あかつき》。「杏」の一族が|"龍杏"《ろうあん》。そして、私達「ノ」の一族が|"玉ノ与"《たまのよ》。
その5つの都から最も高貴な太夫たちが集まり、更なる国の発展を望み話し合う場が会合だ。
ガチャ ―――
「到着いたしました」
「どうぞ、有意義なお時間をお過ごしくださいませ」
朧車から出れば、目に付きたくなくとも大きなお屋敷見える。
すでに帰りたくなった心はそっと隠し、私は、既に皆が集まっているであろう庭園へと向かった。
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「おぉッ!!!要約来たかァ!!!」
「お主はどんだけ待たせるじゃァ!!!」
庭園に着けば、やはり用意された私の席だけが空いていた。
私の姿を見るなり、早々に話しかけてきた綺麗な顔立ちの男。
その顔とは裏腹に、ガハハとガサツに笑うは、暁月が太夫鬼の暁灯。
暁灯は、立ち上がり、その背に似合った大きな手で來ノの頭を捏ねくり回す。
「...待たせるだなんて、」
「少々身支度に手間が掛かりましたが」
「時間にはぴったりですよ」
「ハッ、だがァその身支度も無駄だったようだァ。來ノよ」
暁灯とは対照的に、クククと声を抑えて笑うは、龍杏が太夫 人魚の杏樹。
女性にも負けない滑らかな銀髪をかきあげて、足を組む姿は実に妖艶。きっと老若男女目を引くだろう。
「えぇ...そのようで」
「ククク素直な奴よのォ」
「まァ早よう座れ。菓子もあるぞォ」
「...杏樹様が御用されたわけではないのに」
「なんて恩着せがましいお人なのかしら」
「遠慮なくバクバク食ぅとるお主に」
「言われたくはないのォクモよォ」
杏樹にそう言われながらも、また一つ、また一つと菓子を口に入れる。
卯李七が太夫、女郎蜘蛛の妃尚七。
綿毛のようにふわふわした髪は嬉しそうに踊り、まるで、飲むように食べる姿は童のようなだが、彼女は正真正銘の成人女性だ。
そして、もう一人。
柔らかそうな物腰に金色の耳を立て、揚々に九本の尻尾を振っては、笑顔を絶やさない男。
「まァまァ皆さん落ち着いて」
「全員揃いましたし、そろそろ始めましょうかァ」
「―――...皇子様」
「帝国の光輝に敬意を払い、謹んでご挨拶申し上げます」
「この度はお招きいただきありがとうございます」
來ノは、皇子様と呼んだその男にそう言うと、ふわりと裾を広げ持ち、腰を落とすように頭を下げる。
九尾の花繚。桃花を収める花の一族が太夫。
つまり、この国を背負う皇帝になることを約束された男だ。
花繚は、依然に嬉しそう立ち上がると、手を広げ歓迎の言葉を述べた。
「皆よく来てくれた」
「また、皆の顔をみることができて実に嬉しい」
「それじゃァ我が国のさらなる光輝を願い、
「会合を始めよう!」
野心にまみれた集いが、今、始まった。