事故
猫が好きだ。
のんびりとしているのに優雅かつ機敏に動きをし、柔軟性を携えた体に柔らかな毛を纏うその手触りは、何とも云いがたい唯一無二存在。
――― 幸せだ。
猫を触っている時が一番癒される。
例え、新卒から3年間身を粉にして働いた会社をクビになったとしても。例え、高校の入学式に猛アプローチを受け、7年近く付き合ってた彼氏が同棲している部屋に堂々と女を連れ込み、あげく私をセフレの扱いしてきたとしても。
それでも。それでも、それでもそれでも。猫ちゃんさえいれば...―――
「みゃっ!!」
「なんでっ急に走り出すの!?」
「そんな自由奔放なところも好きだけど!!」
「だけどそっちは道路でっあ゛ぁ!!!」
――― っキキーッ ――― ドッンっっ
なんというお決まりのパターン。
突然飛び出した白猫のみゃちゃん(私が勝手に呼んでいるだけ)を追いかけて、同じく道路に飛び出してしまった私は、呆気なく轢かれた。
「みゃぁ...」
霞む視界と遠のく意識中、みゃちゃんの声が聞こえる。
――― あぁ、私は死ぬのね。
そう分るのに、時間が掛からなかったのは、きっと当の昔に覚悟なんてものが決まっていたから。
――― 無事でよかったわ。
声は出なかった。
だから、私は精一杯手を伸ばし、ふわりとした大好きなアナタに触れる。
アナタは、何度も何度も鳴きながら擦り寄よってきてくれ、私の頬には冷たい雫が流れた。
「...ありが、とう」
私の意識はそこで途絶えた。―――