盗賊達のアジト
村から歩いて約三時間。前に一度来たことがある盗賊達のアジトへようやく辿り着いた。
辺りは真っ暗だ。トラバサミの罠をかいくぐり暗い荒野を一人歩いていると、なんだか気分がなえそうになっていた。
洞窟の前には馬がつながれているのだが、五頭いることに違和感を覚える。盗賊達はたしか四人だったはずなのに……。
さっそく洞窟へと入った。
「ちーす」
警戒されないように挨拶をして入る。奥深くない洞窟の入り口にはのれんのようなタペストリーが垂れさがっている。はっきり言って邪魔だ。
中では今日も盗賊達が酒を飲んで騒いでいた。
「――何者、ってえ! デュ、デュラハン様!」
「顔無しの……じゃなくて、宵闇のデュラハン様じゃないですか!」
「……久しいな盗賊ども」
まだ悪さを続けているのだろう。テーブルの上には柿の種やビールの空き缶が散らばっている。常識をわきまえろ……時代を考えろ!
「きょ、今日はなんのご用で御座いましょう」
「あっしらはもう悪いことはやっていません」
「嘘をつくならもっとマシな嘘をつくがいい。たらふく食べてポッチャリしているぞ」
顎と首がつながっているぞ――。
「なんの騒ぎだ、誰か来たのかい?」
「……?」
洞窟の奥から現れたのは……長い金髪の女だった。迷彩柄のタンクトップに黒いスパッツとデニムホットパンツ……。太い腰ベルトにはナイフが二本と小さなポーチやストラップ。カラビナも付いている。……女盗賊だ。
「あ、お頭。魔王軍四天王の宵闇のデュラハンさんがお越しです」
「あら、初めまして。魔族がこんなところへ何の用かしら」
「……初めまして」
この女盗賊がお頭だと? ……グヌヌヌヌ。なんの取り柄もない盗賊のくせに女頭領が加わって人気急上昇するのだけはなんとしても避けたい。ド□ンジョみたいで……冷や汗が出る。
いや待てよ……服装は違うがどことなく見覚えがある。
「ちょっと、この黒縁メガネを掛けてみてくれないか」
魔王様にお借りした黒縁メガネを手渡した。今までずっと手に持っていたのだ。
「メガネを掛けたら、髪を後ろで束ねてみてくれ」
「こう?」
やはりどこかで見たことがある顔だ……。――はっ!
「お前は! いつぞやのニセ保険会社のお姉さん!」
魔王様と偽物の保険契約を交わし、とんずらして保険料金を騙し取った極悪人――!
「あー! バレちゃいましたあ~?」
――アニ声!
「キャラを変えるな!」
自分でバラすな! ちっとも初めましてではなかったじゃないか! ここで会ったが百年目ではないか!
「とりあえず、メガネ返せ……高いから」
暴れると壊れるかもしれない。ウェアラブルメガネなんだぞ。嘘っぽいけど。
「チッ」
渋々差し出すウェアラブルメガネを受け取る。
「バレたならしょうがない。わたしは女盗賊、名前は……」
「ストーップ! それ以上は言うな!」
両手をパーにして出す! 女勇者や魔王様にすら名前が無いのだ。公表していないのだ。こんな盗賊の名前なんかを先に公表してしまえば、魔王様や女勇者に叱られてしまうだろう。
「名前は……」
「やめて! 言わないで! 今までも極力少しの名前でやりくりしているのだから! 女盗賊で我慢して! それかニセ保険会社のお姉さんで!」
一気にたくさん名前のついたキャラが出てきたら、読む方が誰だったか分からなくなるんだから!
書いている方もド忘れしてしまうから……冷や汗が出る。
「……チッ、仕方がない」
「事情の飲み込みがよくて助かる」
さすがは頭領だ。他の者達より冴えている。
「――お前ら、自己紹介代わりに相手してやんな」
「「アイアイサー!」」
盗賊四人が古いソファーから立ち上がると、ナイフやフライパンやスキレットを咄嗟に手に取り構える――。
「盗賊Aのドンゴロスだ!」
「――!」
知ってるし――! 名乗らなくてもいいし――!
「え、え、自己紹介するの? していいの? じゃあ、俺は盗賊Bのズタブクロで~す」
――頭領が睨んでいるのが分からんのか! アホ! いや、モブ!
「盗賊Cのドノウブクロです」
「もうよい」
「やめんか!」
「えー! あと俺一人だけなんだから最後まで紹介させてよ……。盗賊Dのポリブクロです。有料です」
「……ふん。有料にもなれたわい!」
「……」
――そして、どうするんだ。この自己紹介のあとの微妙な間は~!
お前らのせいで頭領がカンカンに怒っているぞ~――!
「お前らの頭領は、『自己紹介代わりに』って言ったであろう! 自己紹介しろなんて一言も言ってないだろ――!」
「「……ウィース」」
「やられたくなければさっさと座れ。もちろん正座!」
ガントレットで地べたを指さす。
「「ウィース」」
盗賊達は一度痛い目に遭っているから素直でいい。四人横並びで正座をした。
「口ほどにもない」
「それはこっちのセリフだぞ」
自分の子分になんてことを言うのだ。
「お前の弱点はすでにお見通しだよ」
「この宵闇のデュラハンに弱点など――ない」
普段は温厚にしているが、それは世を忍ぶ仮の姿。本気をだしたら滅茶苦茶強くて恐ろしいということを思い知らせてやらないといけないのか。
「剣の腕がないのだろ!」
「……」
どこをお見通ししてきたのか逆に問いたいぞ。
「親方! そいつは滅茶苦茶強いっス!」
「以前、ここでみんなフルボッコにされたッス!」
「それはお前達がグズで弱いからだろ」
「……」
「たしかに」
「でもグズは酷いっス」
「こんな狭い洞窟内では長い剣など使えやしないのさ! 死ねー!」
女盗賊の素早い身のこなしと可憐なるナイフさばきを見たかったのだが……ごめん。さっさと帰りたいのだ。
ガントレットでナイフをガシッと掴むと、そのまま握って砕いた。
「――!」
「『――!』ではないぞ。そもそも、どうやって全身鎧をナイフで傷つけようと思ったのだ」
サバイバルナイフではなく……フルーツ用の十得ナイフで――!
「ひー! 命だけは助けて……くぅださぁい~」
「……」
女だからと言って容赦はしない。だが、魔王様がおっしゃっていた。……悪事を重ねているが、命を奪うほどのことではないと。……そこまで恨んではおらぬと。
「前に銀行引き落としをした保険金をすぐに返せ。口座に振り込め。そうしたら命まではとらぬ」
命拾いしたな女盗賊よ。
「あ、あ、あーざす」
あーざすはやめんか! 感謝しているように聞こえないから。
「それと、これ以上の悪事はこのデュラハンが許さん。覚えておけ」
「ごめんなさい。もうしません」
「足を洗いまス」
素直でいい。ぜんぜん信憑性はないが……人間の盗賊を更生するのは我ら魔族の仕事ではない。仕事増える。
「どうかこれを……お受け取り下さい」
「……?」
盗賊の一人が重そうに持ち出したのは……宝箱だった。ドンと目の前に置く。
「――!」
「毎度悪事を許して下さるデュラハンさんに心ばかりのお礼です。取っておいてください」
――見たくも触りたくもない……まさに弱点ナンバーワンだ――!
読んでいただきありがとうございます!
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