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プロローグ

初めての投稿ではないですが最後まで書ききったことがないので初心者の心持で行こうと思っています。プロローグと言いつつ結構長いので気楽に読んでいただければ幸いです。


 悪魔とは、病や災いを恐る人々が想像した架空の存在。

 天使とは、自らに降りかかる不幸からの救いを求めるために想像した架空の存在。

 そう、教えられてきた。

 子どもは自然と大人は正しいと思い込まされる。

 だからこそ、それも正しいのだと、この世界にそんな存在はいないのだと信じ切っていた。

 だから、だから……あれが現れた時、私の世界における真実は、全てが捻じ曲がってしまったのだと思う。

 あの、鉄の矢が頬を掠め轟音が鼓膜を破る戦場を駆けたあの日から……。


 太陽暦107年 5月9日

 惑星『ディザルスター』では長きにわたる戦争が未だ続き、終戦の兆しは一向に訪れそうにない。

 今日もまた、ある国家間で開戦のラッパが鳴る。

 ディザルスターにおける中堅国家『アイブロシス』と共和国家『デルフォルカ』の戦場はデルフォルカの連盟国家に囲まれたアイブロシス国内。

 戦力に勝るデルフォルカと兵器の技術力で勝るアイブロシスであるが、流石にアイブロシスの不利は日を見るよりも明らかだった。

 そこかしこから大地が噴火したのかと思えるほどの爆発が襲う中を体一つで突っ込んでいくまだ年端もいかない少年少女達。その手には手榴弾、小型核爆薬、など小型でありながら戦車や装甲車を容易く吹き飛ばすことの出来る爆弾が握られている。

 もちろん、彼ら彼女らにそれらを上手く使う技術などありはしない。

 つまりーーー捨て石。

 近づく前に確実に撃ち殺され、それでもその距離ならばただそこに転がるだけで敵に被害を与えられる。

 私もまた、その番がやってきた。


「0611番、これを持て」


 差し出されたそれは、つい今さっき生まれながらの幼なじみと共に装甲車を吹き飛ばしたKL爆弾。


「…………」

「何をしている! さっさと持たんか!!」

「う"っ」


 私たち捨て石の子ども達を統括する上官にお腹を思い切り殴られその場に倒れ伏す。

 一緒に連れられていた友人達が駆け寄ろうとするが腕を掴まれそれ以上近づけないようにされる。

 そして痛みに悶え身動きが出来ない状態の私の髪を掴み、強引に引っ張り上げられる。


「どうした? 自分の役割を忘れたと言うなら、もう一度訓練場に戻してやってもいいんだぞ?」

「……ッ、それっ……だけは……」


 なんとか地面に両腕を付き自分の力で立ち上がる。

 震える手で差し出された爆弾を握り、唇を強く噛む。

 鮮血が、口から垂れ地面を打つ。涙の代わりに。


「よし、行け!」


 上官に言われた瞬間、私は堀を飛び出した。

 熱風が肌を焼く感触が心を蝕んでいく。

 ああ、なんで私はこんな所を走っているのだろう、と。

 そこかしこに転がる友人達の亡骸から漂ってくる死臭が息を詰まらせ、いつの間にか涙の無い嗚咽を漏らしながら私は全力で駆ける。

 止まることは許されない。

 自陣で死ぬことも許されない。

 出来うる限り相手の、最も痛い場所に近づいてーーー殺される。

 それが、訓練場で痛みと共に教え込まれた私たちの役割。生きている意味。

 歪む視界の中に捉えた戦車の砲門がこちらに照準を合わせてきた。


 あれが、私にとっての死神か……。


 そう悟り、だがそれでも駆けた。

 こうなってしまえばヤケ糞だ、何がなんでもあの戦車を吹き飛ばす。

 私は走る事が好きだ。

 誰よりも速く、誰よも先を、誰にも追いつけない場所まで走れば、私は自由だと、そう思えたから。

 大地をあらん限りの力で踏み込み爆弾を持つ右手を突き出すように左足に軸を持っていくように体を動かし、蹴る。


「あああああああああああっ!!!」


 最初で最後の私の大舞台。

 だったら、せめて派手に散ってやる!

 砲門と彼女の手の距離が数センチという場所まで来た刹那、砲身の奥にオレンジ色の炎がチラリと光る。

 鈍重な音が腹の底を打ち鳴らされたように体の芯に響く。

 そして私の右手から世界は白金色の豪炎によって包まれた。

 光の一端に触れただけで鋼鉄の体躯は水を垂らした用紙のようにフニャリと歪み、大地は原子へと返り消滅していく。

 当然、私のようなか弱い少女がその破壊の渦に呑まれて無事ですむわけがない。

 体細胞の染色体から存在情報をこの世界から消される感覚など、一生に一度の経験だろう。一生経験したくなかったが。


「ーーー」


 破壊の渦に呑まれ、視界の全てがホワイトアウトして数十秒、少女は記憶の世界を歩いていた。

 それは世に言う“走馬灯”と呼ばれるモノ。

 記憶の激流の中を少女は自らの足でしっかりと歩を進めていく。

 子ども頃に初めて食べた果物、幼馴染みに抱いた淡い恋の夕暮れ、喧嘩して怒られて仲直りの印に送った洞窟の花。華やかさなどなく、それ以外の記憶は血生臭い訓練の記憶しかないけれど、それでもここまで生きてきて楽しくなかったかと問われればそれなりにと答えられるぐらいだろう。

 ただ、若さ故にその記憶の流れは短くすぐに最後の記憶、父と母の記憶に辿り着く。けれどそれは、モザイクが掛けられたように全体像は捉えることが出来ない。

 然もありなん。

 何せ少女は一度として、生まれて自身の意識が定着する以前に両親共に兵隊として徴収され戦場に散ってしまった為だ。

 この国ではそんなことが当たり前で、戦争孤児と呼ばれる者たちで溢れかえっているほど。

 だから知らない。見ることも出来ない。

 最後の最後、死ぬ間際まで。


「あ、れ……?」


 見ればボロボロと大粒の滴が両手の平に波紋を作り出している。


「ここでも泣けるんだ……ーーーーーー……うぅ……」


 堪らず、その場に膝から崩れ落ちへたり込んでしまう。


「なんでっ! なんで私が死ななきゃいけないの!? なんで私達ばかり、こんなに簡単に死ななきゃいけないの!? あの汚い大人達はっ……あいつら……はッ、ただ命令するだけでッ一度だって命を張っていないじゃない!! なんで……ッ」


 止めどなく心の内に溜まりに溜まった汚濁が一気に決壊したダムのように溢れ出る。言葉となり、涙となり、思いとなり、そこにブチまける。それは血溜まりのように彼女を中心に世界を侵食していく。大切だった思い出も、痛かった記憶も、全てを呑み込みその全てを統合していく。


 ーーー何が悪い?


 世界。私が生まれ、私を捨てたこの世界。


 ーーー何を殺せばいい?


 神。この世界を作り、戦いを傍観するだけの存在。


 ーーーどうすれば殺せる?


 力と命。あらゆるものを染め上げ、他を一切寄せ付けない全てを拒絶する力。世界に存在を刻み、あらゆる者圧する程の命。


 ーーーそれで本当に殺せると?


 私には怒りがある。それだけで、十分よ。


 ーーーーーー【いいだろう】


 その時、やっと気づく。

 私は誰とやりとりしていたの? 誰が私にーーー


【それは私だよ】


 それはその世界に突然現れた。

 沼の化身のように漆黒に艶のある全身は私と変わらない体躯でそこに佇んでいた。

 見る者によってはそれは恐怖の対象となり得るような姿であるのに、少女にはそれがそこに居ることが当たり前であるように感じられる程全く心が揺れ動かない。


「あなたは……?」

【私はIRA(イーラ)、貴女のIRA】

「イー……ラ?」

【思いは根元、言葉は存在証明。貴女が生み出したIRA】

「ねぇ……さっきの言葉、本当?」


 その存在について深く追求しても分かる回答が得られないと判断し、少女は気になっていたことを尋ねる。


「私が。力さえあれば神でも倒せると言った時、あなたはいいだろうと言ったわよね?」

【肯定しましょう。私が生まれたことこそ証左】

「じゃあ、あなたが私の力?」

【名を、我が名を呼ぶことにより我は爾の心と共鳴す】

「……」


 ーーーもう、どうでもいいや。

 全てを打ち砕かれてきた少女にとって、彼の者の正体など些末な問題だった。

 ただ一つのやり残した願いがかなうと言うならば、代償がある可能性など盲目とすることができよう。

 それほどに、あの世界は狂っている。


「ーーーイーラ」


 直後、泥の人形の頭部のような場所に真っ白な歯を剥き出しにした三日月のような口が現れる。

 酷く恐怖を煽るその光景に全く感情の揺らがぬまま、少女は周囲を囲むヘドロが龍のように立ち上がり飲み込もうとも抵抗を一切せずなされるがままにした。呑まれながら少女の耳に優しい女性の声音で奏でられる歌が聞こえた。


【ヒソヒソと話そう御伽奏、童の寝音は深く深く、底冷えトクトクおつぎしましょう♪。

 黒く、赤く、濃く濃く滲む我が紅の、紅粉を塗りとく恍惚の味♪。

 手毬ついて遊びましょう♪。

 汚濁のみいて酔いしれよう♪。

 私はIRA(イーラ)。私は“怒り(イーラ)”。あなたの“怒り(IRA)”。

 さあさあ、もっともっと呑ませて頂戴♪】


 彼女は答える。

 好きなだけ呑めばいい。

 呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んんで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで、飲み干してしまえ。


「私はゼラ・ニウム」


 自身の名前を告げると、全身を包む汚泥が中へと浸透してくる。


【妾はIRA・■■■■ノ■】


 彼の者の声が聞こえて、全てが馴染んでいく。

 私の中から溢れた何かが全て、倍に膨れ上がり戻ってきたような感覚。

 満ち満ちた満足感と風穴を開けられたような欠乏感が同時に襲いくる。

 ああ……呑まなきゃ。早く、早くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。


 太陽暦107年5月10日。

 その日、世界で過去に類を観ない事象が観測された。

 ある一つの国家が泥に沈み、入る者には亡霊の導きが、調査を目論む者には迷いと激情を植え付ける死の国と化した。

 その国に既に名はなく、現在に至るまでにその記録も消失してしまった。

 今の名は「混酔ノ井戸(こんすいのいと)」。

 世界に大小違いはあれど50存在する「不可侵(インヴァイロ)拠点(ヴィリティスポット)」の一つである。

次回の投稿はストックが無いのでとりあえず未定です。

出来次第上げていきますのでこまめにチェックして頂ければ嬉しいです。

あ、因みにかなり飽き性な性格なのでいつ投稿が止まり新しいのを書き出すか分かりませんので、そこだけはご了承ください。

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