なろう劇場 スキルガチャ編
201X年、世界はダンジョン誕生の光に包まれた。
謎の異空間に繋がり、謎の生物が闊歩する、謎の存在。すべてが謎。一つだけでなく、世界中の各地に複数で別個のものが、突如として出現した。
物理法則的に考えて在り得るわけがないソレについて、『ダンジョン』という仮称がつけられた。似たようなものに言及したライトノベルが複数あったことに由来するらしい。仮称のまま実態が解明できず長い年月が過ぎてしまい、未だによくわかっておらず正式名称の決定は放置されている。
ダンジョンの中には地球には存在しない物質や生物などが無尽蔵に存在し、それらは既存の技術に大きなブレイクスルーをもたらした。正体不明のモンスターも数多く存在し、侵入者を容赦なく攻撃するなど、リスクも相応に高かったものの、人類はこぞって宝の山へ挑んでいった。
そしてダンジョン誕生とともに、人類は『スキル』を得た。
スキルに関しても謎が多く、やはりわかっていることは多くない。ただダンジョン誕生とほぼ同時のタイミングであることから、何らかの関連性が指摘されている。
スキルは多種多様で、ダンジョン同様物理法則さえ超えた力を発揮する、魔法のようなものだった。スキルの中にはそのものずばり『魔法』というものさえあり、それらを使えば従来では不可能なことも可能になる。特に戦闘で活躍できる強力なスキルは、ダンジョン攻略にも非常に有効であったため、スキルは人類になくてはならないものとなった。
そんなスキルは、12歳の誕生日を迎えたその日その時刻に、誰もが分け隔てなく、一つだけ得ることが出来る。
どんなスキルが得られるのかは本人にもわからない。当初は素質に依るものと言われていたが、まったく関係ないことも珍しくなかった。そして一人につき一つだけであり、後から増やすことも、変更することもできない。
だから誰もが祈った。
――強いスキルを授かりますように。
誕生日を祝うような快晴の下、そよぐ風に彼は祈った。
彼は12年前に生まれた。
正確には11年と364日23時間58分前に。つまりあと2分で12歳の誕生日を迎え、スキルを授かるのだ。
彼がスキルを授かるのを見届けようと、屋上には学校中の生徒が押しかけている。小学校の屋上は狭く、すべての生徒は入りきらなかったが、それでも満員になるくらい、スキルの獲得は人類にとって重大な出来事だった。
多くの観衆が期待する中、その瞬間が訪れた。彼の体が淡く輝き、その光が体内へと吸い込まれていく。原理はいまだわからないが、それがスキルを授けられる際の現象だということは誰もが知っている。
果たして彼は自分のスキルを確認した。
「……『コインカウンター』。硬貨を素早く正確に数える能力……ははっ、ゴミだ」
彼は自嘲と共に、屋上の縁から空へと足を踏み出した。
獲得したスキルの強弱がその後の人生を露骨に左右するようになり、世界中に選民思想が広がっていった。
より強いスキルを得た者こそが偉い。
逆にいえば、弱いスキルを得たものに人権はない。法的にはあからさまではなかったものの、現実として格差は存在するものだ。それが個人の素養にかかわらず、12歳を機に突如として現れる。
12歳で重度の鬱病を患うケースが世界中で多発し、社会現象にもなったが、原因が誰の目にも明らかかつ対処のしようもなかったため、自然なことと受け入れるしかなかった。
外れスキルを得てしまった少年少女が自殺するようになったことも、もはや日常茶飯事だった。
さすがに自殺は止めようとする動きももちろんあった。しかしそうして動くのは自殺せずに済んだ当たりスキルの持ち主達。そんな者に止められても逆効果にしかならない。
自殺せずに持ち直した子も、やがて社会のカースト最下層に至って絶望し、生きる気力を失っていく。結局は打つ手のないまま受け入れるしかなかったのだ。
世界人口が半分近くまで減り、自殺者の数がダンジョンでの死傷者を遥かに上回っていたため、今では「『地球ダンジョン』のラスボスはスキルガチャ」とまで言われている。
屋上に詰めかけた生徒達は、外れスキルの内容をつまらなそうに確認し、授業に戻っていく。
頭から地面に激突した彼の最期の言葉は誰にも届かずに風に溶けた。
「リセマラしなきゃ」




